ゆっくり丁寧な治療と経過観察を

宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学 生体防御医学研究所講師、1989年大分 県立病院がんセンター第二婦人科部長を 経て、1992年セント・ルカ産婦人科開院。 国内でいち早く不妊治療に取り組んだパ イオニアの一人。開院以来、妊娠数は 5000 件を超える。O型・おひつじ座。7 月に、大分駅南口に移転。世界レベルの 不妊治療技術を提供できるように、施設 の細部までこだわったという宇津宮先生。

ドクターアドバイス

OHSSや、多胎妊娠を 起こさないためにも ゆっくり丁寧な 治療と経過観察を

PCOSは増加傾向

こちらのクリニックの患者さんのなかで、PCOSの方の割合は?

宇津宮先生 私もそれを正確に調べようと思い、現在、過去のデータを整理しているところです。

20 〜 30 年前は、卵巣機能に問題がある人のなかで、PCOSの人は2〜3割程度でした。

しかし最近では、どうも半数以上の患者さんがPCOSだという実感があります。

昔は超音波がなかったので、気付かないケースも多かったのでしょう。HMG製剤を使うと卵巣が過敏に反応する人と、そうでない人がいる。

無排卵でクロミッドⓇが効きにくい、ということしかわからなかったのです。

現在は、超音波検査の所見と、無排卵、黄体ホルモン(LH)卵胞刺激ホルモン(FSH)比の高い数値という症状でPCOSと判断します。

男性ホルモンの値が高いことが最大の特徴です。

PCOS患者の不妊治療

先生はPCOSの治療方法はどのようにしていますか?

宇津宮先生 まず、腹腔鏡下でたくさんできている卵胞の表面に穴を開けるドリリングを行い、それから排卵誘発剤を使用します。

年齢が若く、体外受精をするにはまだ早かったり、PCOS以外の疾患(子宮内膜症や卵管が詰まっているなど)がない場合は、ドリリングをすれば、たいていその月か翌月には妊娠します。

体外受精は、年齢的に余裕がないか、そのほかの症状がある場合のみ行いますね。

排卵誘発剤は、以前はHMG製剤のみでしたが、これは保険では2週間しか使えません。

この期間で無理に排卵させようとすると、全部の卵胞が一気に腫れ上がって、OHSSや多胎妊娠を引き起こしてしまいます。

そこで、現在は自己注射ができるリコンビナントFSHが出たので、これを使用しています。

HMG製剤は最低 75 単位ですが、リコンビナントFSHは 37 ・5、 50 、 75 単位と、少量ずつ使えますから。

しかしこの場合も、経過観察をして、1個の卵胞を丁寧に育てていくことが大切です。

OHSSになると、女性ホルモンが通常の5倍〜 50 倍ほどになり、血管の透過性が高まって血液中の水分が外に出ていってしまい、エコノミークラス症候群と同様に血液が濃縮化され、尿が出なくなってしまいます。

そういうことを知らない産婦人科医は利尿剤を使ってしまいますが、そうするとさらに濃縮化が進み、脳血栓などを生じて最悪の場合、死に至るケースもあります。

ですから、産科、婦人科のすべてを理解した医師に受診することが大切です。

副作用に注意すれば有利?

PCOSにかからないための予防法などはありますか?

宇津宮先生 PCOSというのは、基本的にはインスリン抵抗性があり、 95 %以上が遺伝ですから、予防法はありません。

PCOSになってから対処する、ということのみですね。

ですから、この疾患の特徴をきちんととらえ、OHSSという副作用を引き起こさないためにも丁寧にみていく必要があります。

予防はできませんが、当院のデータでは、このタイプの患者さんは9割以上が妊娠しています。

卵子が多いということは、それだけ妊娠の確率も高くなり、有利だということです。

私が治療した患者さんのなかでは、 44 歳での妊娠が最高齢ですが、この患者さんもPCOSだからこそ、卵子がたくさん採れたのです。

治療が大変、副作用が怖いなどのマイナス要素もありますが、「必ず妊娠できますから、頑張りましょう」と患者さんにはいつも伝えているんですよ。

※HMG製剤:卵巣に作用して発育卵胞を形成するヒト下垂体性性腺刺激ホルモン剤。

※クロミッドⓇ:排卵誘発薬。一般名はクロミフェン。ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌を促す合成ホルモン製剤

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。