流産しましたが不育症でしょうか……特別な検査が必要?

念願の赤ちゃんを流産。もしかして不育症?  そもそも不育症とはどのような症状なのでしょうか。 醍醐渡辺クリニックの渡辺先生にお聞きしました。

渡辺 浩彦 先生 滋賀医科大学卒業後、京都大学医学部附属病院産婦人科、大津赤十字 病院、済生会茨木病院などを経て、1971年から不妊治療を行っている 父の病院を継承。不妊治療から分娩まで手掛け、365日24時間の診 療体制をとる。O型・おとめ座。先日、久しぶりの休日にゴルフに出掛 けたところ、大雨で2ホールしかできなかったそう。グリーンの上にのせ ても水浸しでボールがまったく転がらず、泣く泣くプレーを断念。「せっか くの貴重な休日でしたが、残念でした」と先生。
まいこさん(会社員・26歳)からの投稿 Q.1年の不妊治療を経て念願の妊娠に至りましたが、5週1日目で完全流産して しまいました。エコーで赤ちゃんの袋は確認できており、成長もしていたのですが、 子宮内の出血が止まらず、完全流産となってしまいました。やはり、赤ちゃん側の 問題ではなく、私の身体的な部分や生活に問題があったのでしょうか。 何か特別な検査が必要でしょうか。 こんな私でもいつか出産できるでしょうか……。 漠然とした後悔の気持ちと、今後の不安でいっぱいです。

染色体異常と年齢の関係

妊娠後1カ月余りで流産されてしまったまいこさん。不育症ではないかと心配されています。
渡辺先生 本当は不育症ではないのに、1~2回の流産で悩まれる患者さんは多いんです。
特に 30 代後半~40 代にかけて不妊治療でようやく妊娠された方に多い。
流産が2回続いてしまうと、「不育症では?あまり時間的余裕がないのに……」と焦ってしまうのでしょう。
しかし、全妊娠の4分の1~5分の1は流産に終わるといわれています。
さらに流産の原因は、胎児側の染色体異常によるものが7割ほどと圧倒的に多いのです。
また、そのリスクは年齢が高くなるほど高まります。
ですから、まいこさんの場合、 20 代でまだ年齢も若いですし、1回の流産で不育症を疑って、そんなに自分を追い詰めてしまう必要はないと思います。

不育症について

そうなのですね。不育症の定義について詳しく教えてください。
渡辺先生 不育症とは、妊娠は成立するものの、流産や早産を3回以上くり返すことにより、生児を得ることができないことをいいます。
連続2回の流産を反復流産、連続3回以上の流産を習慣性流産と呼びます。
その原因はいくつか挙げられますが、最も多い原因が、★抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫異常です。
当院でも不育症のスクリーニング検査を行うと、6~7割がこの自己免疫異常の項目で陽性反応が出ます。
ただし、検査でこの項目にあてはまったからといって、必ずしもこれが不育症の原因とは言い切れません。
抗リン脂質抗体症候群とは、簡単にいうと、赤ちゃんに栄養を送る細かい血管が詰まり、栄養が送れなくなって胎児が育たない状態をいいます。
また、検査結果が陽性だからといって必ずしも流産するというわけではなく、低用量アスピリンの処方や、抗凝固薬のヘパリン注射で十分に妊娠を維持することができます。
次に多い原因が黄体機能不全甲状腺機能異常、糖尿病などの内分泌異常ですね。
甲状腺機能異常は、不育症の前に、不妊症の治療に入る時のスクリーニング検査でもかなり見つかります。
意外と多いのが「隠れ黄体機能不全」。
黄体機能は排卵誘発剤を使えば上がるし、いつも同じ状態ではなく、周期によって変わるものなので、どうしても見つけにくいのですが、隠れた流産の原因として重要だと思います。
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモン剤の服用で改善します。
糖尿病は内科とのタイアップで血糖値をコントロールすることが大切です。
不育症で当院に転院されてくる患者さんには、内科的治療で簡単に問題が解決する方も決して少なくありません。
やはり妊娠には母体の健康が重要だということです。
そのほか、クラミジア、サイトメガロウイルスなどの感染症も流産の原因となります。
クラミジア感染などから慢性的な卵管水腫となった結果、子宮内に逆流する分泌液の影響で流産することもあります。
卵管が閉塞する卵管水腫の場合は、自然妊娠はありませんが、なかなか着床しなかったり、流産をくり返すようなら、体外受精の前に手術を考えたほうがいいかもしれませんね。

染色体異常への対応策

転座あるいは流産の原因として最も多い胎児側の染色体異常について、何か解決策はあるのでしょうか。
渡辺先生 当院でも3回以上流産をくり返す方の1割くらいに転座が見つかりますが、転座そのものは治療することができません。
転座とは、染色体の一部が切断され、または全部が、他の染色体に結合した状態です。
近年、体外受精の前に受精卵の染色体異常を解析する★着床前診断によって流産を回避できる可能性もありますが、実施しているクリニックや、染色体異常のカウンセリングができる医師はまだ少ないです。
今後の見通しも含めて相談できる施設を慎重に探す必要があるでしょう。
さらに、さきほどお話ししたように、流産される方の7割くらいは受精卵の問題、つまり胎児側の染色体異常が原因といわれます。
母体に問題がないケースが圧倒的に多いのです。
まいこさんはたまたま不妊治療を受けていたから、妊娠のごく初期の段階から流産の診断ができたけれど、自然妊娠の場合は流産に気付かないケースもありますしね。
初期の流産は、遺伝的に生まれてくることができない、大きな事情を抱えた受精卵が淘汰されていくのだというとらえ方もあります。

年齢的な要素も含めて考える

自分を責めることなく、まいこさんには前向きに治療に取り組んでいってほしいということですね。
渡辺先生 その通りです。
何度もくり返してしまうのでは、という不安に陥るかもしれませんが、流産は、胎児の染色体異常など、何らかの原因があって起こることですから、1回の流産が引き金になってくり返されるということは決してありません。
女性にとって心身ともにつらい、とてもショックな出来事だと思います。
しかし、年齢的にもまだ諦めるのは早いと思います。
どうしても気になるようでしたら、日本産科婦人科学会が推奨する不育症の検査を受けてみてはいかがでしょう。
前向きに次の妊娠にチャレンジされるといいと思います。

★抗リン脂質抗体症候群

自己免疫異常の一つ。
血液中に抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントなどの自己抗体ができることによって、体中の血液が固まりやすくなる疾患。
動脈や静脈の中で血の固まりができて血栓症を起こす。
産婦人科領域では、習慣性流産、妊娠中毒症、胎児発育遅延などの原因として注目される。
血液を固まりにくくする低用量アスピリンの内服、ヘパリン注射など、抗凝固治療法が行われることが多い。

★着床前診断って?

受精卵診断ともいう。
受精卵が子宮で着床して妊娠が成立する前に、その遺伝子や染色体を解析する医療技術。
細胞分裂の段階で遺伝子や染色体を検査し、診断が確定した受精卵だけを子宮に戻すため、体外受精の妊娠率上昇、体外受精後の流産の減少といった目的で行われる。
特に習慣性流産の患者さんにとっては、身体的な負担なしに流産率を下げる画期的な治療法であるが、日本ではまだ実施できる症例や施設が限られている。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。