【医師監修】塩谷 雅英 先生 島根医科大学卒業。卒業と同時に京都大学産婦人科に入局。体外受精チー ムに所属し、不妊症治療の臨床に取り組みながら研究を継続する。1994 ~2000年、神戸市立中央市民病院に勤務し、顕微授精による赤ちゃん誕 生に貢献。2000年 3月、不妊専門クリニック、英ウィメンズクリニックを 開院する。A 型・しし座。先生監修の本『ふたりで取り組む 赤ちゃんが欲 しい人の本』(西東社)が1月に発売。さらに同月から、現在のクリニック があるビルの2階に加え、7階、8 階の新フロアがオープン。先端治療に 欠かせない最新の培養室をはじめ、待合室もより広く快適に。
エミーさん(36歳)からの投稿 Q.人工授精を1回した後、体外受精で7個採卵。体外受精、顕微授精で 1個ずつ育ったものの、胚盤胞に至りませんでした。変形した卵子が多 かったことが原因だそうです。次の周期に2回目の体外受精を予定して います。なぜ卵子が変形するのでしょうか。また、今回はロング法でし たが、良質な卵子が得られる方法は、人によって違うのでしょうか。体 外受精と顕微授精のどちらがよいのかも知りたいです。
卵子の変形、原因は?
なぜ卵子が変形するのでしょう?
塩谷先生 理由は3つ考えられます。
1つ目は、排卵誘発によって発育した卵子に、もともと変形しているものが多かったということ。
2つ目は、排卵誘発治療中のホルモン環境(薬剤量や使用法など)が卵子に最適でなかったために、発育中に変形してしまったということ。
3つ目は、採卵時あるいは採卵後の培養中の環境(温度や酸素、二酸化炭素の濃度など)が卵子や胚に最適でなかったために変形した可能性です。
このなかで最も考えられるのが1つ目です。
今回、たまたま排卵誘発剤に反応してしまったのかもしれません。
ですから1カ月、2カ月と期間をおいて次の排卵誘発剤を使うと、今度はものすごくいい卵が含まれている可能性もあります。
実は、体外受精、顕微授精ともに、1回目で妊娠される人はまれなのです。
もちろん、1回で妊娠を目指すことは言うまでもありませんが、体外受精をした約 80 %の人が3回目で妊娠しているという統計もありますので、3回を一つの目安に頑張っていただけるといいですね。
違う誘発法を試す意義
ロング法を選択されていますが、これはどうでしょうか?
塩谷先生 この方のように、 36 歳で抗ミュラー管ホルモン値が年齢相応であれば、当院をはじめ多くの施設でも、まずロング法をおすすめすると思います。
しかし、残念な結果になった場合、今度は思いきってアンタゴニスト法かクロミフェン法、いずれかの排卵誘発法を選択されるといいですね。
違う方法にしたらいい卵子ができたという事例は、私たちが日常的に経験していますので、試してみる価値はあります。
ただし、それぞれの方法にメリットとデメリットがあるので、先生とよくご相談してください。
体外?顕微?選択の基準
体外受精と顕微授精の適応基準はありますか?
塩谷先生 ご主人のSMI(精子の自動性指数)値は 70 で、7個の卵子のうち、4個を体外受精、3個を顕微授精されています。
このように卵子を2グループに分けるのがスプリット法です。
当院でも、SMI値が 50 以下なら顕微授精、 50 〜 80 ならスプリット法、 80 以上なら体外受精という基準でおすすめしています。
一方で、すべて顕微授精にするという考え方もあります。
しかし、受精方法としては体外受精のほうがより自然に近いと考えますし、この方の場合、体外受精できる可能性もあったので、いい選択だったと思います。
そもそも、このご夫婦の不妊の原因は2つのことが考えられます。
1つ目は、ご主人がうまく射精できないこと。
2つ目は、SMI値が 80 以下であることです。
SMI値が 80 以上なければ自然妊娠は難しいと思います。
ですが、今回1個とはいえ、実際に体外受精できているわけですから、ご主人の精子に受精力があることは証明されています。
今後は体外受精だけでなく、並行して人工授精も検討されてはいかがでしょう。
※ロング法:体外受精を目的に卵巣から採卵するため、ホルモン剤を使って排卵を誘発する方法の1つ。月経前の黄体期からGnRHアナログを使用する。その後、月経開始3日目からHMG製剤を7日間連続 して筋肉注射する。
※抗ミュラー管ホルモン(AMH):発育卵胞、前胞状卵胞から分泌されるホルモン。AMHの検査値から卵巣の予備能を知ることができる。ミュラー管抑制因子ともいう。
※アンタゴニ スト法:ある程度まで卵子が成長したところで、GnRHアンタゴニストいう薬剤を注射し、卵巣を刺激する方法。GnRHアンタゴニスト製剤は黄体形成ホルモンの分泌を抑制する働き持ち、採卵前に排卵してし まうことを防ぐ。ショート法やロング法での点鼻薬の代わりにGnRHアンタゴニスト製剤を用いる。
※クロミフェン法:抗エストロゲン作用を持つ経口排卵誘発薬のクロミフェンを用いて、排卵誘発する方法。