重症の乏精子症と診断されましたが顕微授精が必要ですか?

精液中の精子の数によって診断される乏精子症。 福井ウィメンズクリニックの福井先生に 治療の選択肢について詳しくお話を聞きました。

福井 敬介 先生 1989年、日本大学医学部卒業。卒業と同時に愛媛 大学産科婦人科に入局、愛媛大学大学院医学専攻科 修了。2000 年愛媛大学産科婦人科学助教授。 2001年、「高度な生殖医療をより身近な医療として 不妊カップルに提供したい」と、福井ウィメンズクリニッ クを開設する。A 型・やぎ座。院内のクリスマス会で は弾き語りを披露するなど、音楽をこよなく愛する先 生。忙しい診療時間の合間をぬって続けているバンド 活動も楽しみの一つ。

ドクターアドバイス

今後の治療の方向性を定めるためにも まず泌尿器科を二人で受診するといいでしょう
ぽんたさん(無職・31歳)からの投稿 Q.3回の精液検査の結果、精子の数は90万/mL。夫が重症の★乏精子症と 診断されました。いきなり顕微授精をすすめられたので 別の病院へ行き、人工授精からスタート。ただ、そこの先生も 「男性不妊の治療として手術もあるし、念頭に置いておいて」という感じでした。 もし精子の状態が少しでも改善されるのなら、手術を考えて泌尿器科を 受診してほしいのですが、乏精子症と診断された方はどのように 治療しているのか気になり、質問しました。

乏精子症について

重度の乏精子症ということですが、 90 万/ mL という数値ではやはり自然妊娠は難しいのでしょうか。
福井先生 残念ですが、かなり厳しいといっていいでしょう。
運動率はそう悪くないということですよね。
今は人工授精を行っておられるようですが、やはり顕微授精を視野に入れて治療を進められたほうがいいと思います。
そして何より、まずご主人が泌尿器科の診察を受けることをおすすめします。
乏精子症は原因のはっきりしない原発性のものと、尿路感染症、前立腺炎、★精索静脈瘤といった疾患が原因で起こる続発性のもの、この2種類に大きく分けることができます。
もし泌尿器科で続発性の乏精子症と診断されれば、それを治療することでかなり症状が改善される可能性があるでしょう。
もしかすると顕微授精は必要なくなるかもしれません。

乏精子症の治療

どのような治療がありますか?
福井先生 性感染症や尿路感染症が原因なら抗生物質、前立腺炎の場合も投薬で改善されます。
精索静脈瘤の場合は手術が必要です。
しかし、検査をしても原因が見つからないケースだって当然あるわけですよね。
もしそうなると、 90 万/ mL という数値では人工授精では難しいかもしれません。
100万/ mL 以下では体外受精も厳しいといわれていますから。

原因を究明する必要性

いずれにせよ、まず泌尿器科を受診したほうがいいのですね。
福井先生 そうです。
もし泌尿器科系の疾患が隠れているのだとしたら、それを治すことが先決でしょう。
最終的に体外受精や顕微授精に進むことになっても、やはり男性の性感染症なども、受精卵の培養に影響を及ぼす可能性があります。
放っておくと本人の健康にも影響を与えますから、治す努力をしたほうがいいでしょう。
そして、もし精子の造成機能に問題がある原発性の乏精子症なら、これはもう迷わず顕微授精を考えたほうがいい。
いずれにせよ、そこをはっきり確認したほうがいいということです。

不妊治療は、夫婦間の問題

なるほど。ご主人に男性不妊外来の受診をすすめるのは、女性からは切り出しにくいという意見もまだまだ多いです。そのような場合、先生はどうアドバイスされますか?
福井先生 まずは二人でセミナーなどに出席することから始めてはいかがでしょう。
不妊には男性側にも原因があるということをよく理解してもらう必要があります。
体外受精などの高度な治療に進む場合は特に重要です。
当院でも、夫婦で面談に来られない方には体外受精や顕微授精を行っていません。
男性と女性の不妊原因は半々、そのうち 25 %は男性と女性の両方に原因があるといわれていますので、実に4人に1人の割合で男女の両方に不妊の原因があるということになります。
それはどちらが悪いということではなく、不妊治療は夫婦の問題であるということ。
それをまず夫婦で理解することが大切です。
当院でもまだ全体の1割くらいですが、診察には必ず二人で来られる方もいらっしゃいます。
毎回は無理でも、治療の節目や新しい展開がある時などは、二人で受診されたらいいと思いますね。

運動精子が見つかれば

デリケートな問題だからこそ、ご主人との話し合いや協力が欠かせないということですね。
福井先生 そうです。
だからぽんたさんご夫婦にもしっかりと話し合ってほしいですね。
ぽんたさんの投稿を見していると、少しご主人に遠慮しているのかなぁと感じる部分もありました。
もしかしたら「子どもはもういいよ」と言われるのを恐れていらっしゃるのかもしれない。
男性心理として「あなたにはほとんど精子がありません」と言われるのは相当ショックなことです。
いわば「告知」のようなものですから、精神的にガックリきて当然です。
精液検査は1回だけだとストレスや体調に数値が左右されることも多いのですが、3回とも結果がよくなかったということは、重度の乏精子症という診断はほぼ間違いないでしょう。
ただ、昔ならばすぐに子どもを諦めなければならない状況ですが、今は無精子症でも、精巣内から組織を採取するTESEという技術がある時代です。
ご主人の場合は、数が少ないながらも精液中に運動精子が確認されています。
年齢もお若いですし、本当に子どもを望んでいらっしゃるなら、まだ諦めるのは早いと思います。
乏精子症だからといって顕微授精での妊娠率が著しく低くなるというデータもありませんし、運動精子さえ見つけられれば、顕微授精で妊娠できる可能性がある。
少なくともそこは納得というか理解してもらってほしいです。

一緒に受診しよう!

あとはご主人に受診をどう切り出すかですね。
福井先生 最初に顕微授精をすすめられた時、ご自身の意思で転院して人工授精も試みたとのことですし、ぽんたさんのなかではもう納得されて、ある程度の道筋は立っているのかもしれませんね。
それならやはり勇気を出して、まずはご主人と一緒に男性不妊外来のある泌尿器科を受診してください。
投稿には「受診してほしい」とありましたが、理想は「一緒に受診しよう」です。

不妊治療は夫婦の問題ですから、二人で行って話を聞くのがベストだと思います。

教えて★乏精子症って?

精液中の精子の濃度が低い状態のこと。一般的には精子濃度が1 mL 中に2000万未満の状態 をいう。
精子濃度が100万/mL以下の重症度の乏精子症では、自然妊娠の可能性が極端に低い。
軽度の場合は人工授精が有効だが、それでも妊娠が困難な場合には体外受精や顕微授精が。
その他の男性因子による不妊症の原因として、精液中に精子がまったく見つからない無精子症、精液中の動いている精子の数が 50 %を下回る精子無力症 などがある。

教えて★精索静脈瘤って?

精巣の上部に位置する静脈(蔓状静脈叢や精巣挙静脈)に血液が逆流・うっ滞し、拡張する疾患。
血流障害により精巣内の温度が上昇し、造精機能に悪影響を与えることから、乏精子症など男性不妊の原因となっているケースが多い。
精索静脈瘤は左側に発生することが多い。
これは、右の精巣静脈がそのまま大きな下大静脈に合流するのに対し、左精巣静脈は一度腎静脈にほぼ垂直に入ってから下大静脈につながるため、血液の還流が悪くなりやすいためとされる。
※精巣内精子採取術(TESE):精巣内から精子を採取する方法で、精巣を少し切開して採取する。

 

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