初めての検査や治療を受ける前は、不安や恐怖心がつきもの。 その一つが人工授精。卵管造影検査と比べてもっと痛いの? 幸の鳥レディスクリニックの 山先生に、痛みについて伺いました。
【医師監修】ささ山 高宏 先生 産業医科大学医学部医学科卒業。産業医科大学病院、和歌山労災病 院、九州労災病院、セントマザー産婦人科医院の勤務を経て、1997 年4月、不妊治療から分娩まで手がける、幸の鳥レディスクリニックを 開業。09年12月から、より一人ひとりの患者と向き合えるよう、生殖 医療に専念する態勢を整える。A型 ・おひつじ座。地元FM局では〝ミッ ク〞 の愛称で知られ、ロックを愛する先生。休日は、近所のライブハ ウスの最前列を陣取り、学生さんと一緒にノリノリで汗を流すそう。 サッカーも好きで、サンフレッチェ広島の熱狂的なサポーターです。
ドクターアドバイス
医師のテクニックや 患者さんへの気遣い一つで、 痛みの感じ方は全然違うと思う。
匿名さん(主婦・年齢秘密)からの投稿 Q.痛みにかなり弱い私に教えてください。先日、卵管造影検査をしたところ、 右側に多少の癒着。左側は通っているということで、 しばらくタイミング療法で頑張っています。 けれど、今朝また撃沈したため、人工授精にトライしようかと考えています。 そこで、人工授精って痛みをともなうのでしょうか? 卵管造影検査の痛みを10としたら、人工授精の痛みはどのくらいでしょう?
卵管造影は痛い?
生は、患者さんの痛みをどうとらえていますか?
ささ山先生 そもそも卵管造影で、診察台に上がる時から怖がっとる人もおるよ。
患者さんは「卵管造影は、お産より痛い……」って聞いてくるけぇ(笑)。
本当に痛い人もいると思うけど、逆に「聞いたほど、痛くなかった」という人も多いから、先生のやり方によっても違うんじゃないかな。
たとえば、僕なら、あらかじめ足のあたりにちょっと触れて、患者さんに声をかけながら器具を入れるようにしている。
痛み止めを使ってもいいんだよ。
それにガチャガチャと器具の金属音しか聞こえないのは、ちょっと不安じゃない?
じゃけぇ、患者さんに声をかけることは、痛みを和らげるうえでとても大事だと思うよ。
なるべく子宮の入り口をつかまない、バルーンの液量を少なめにする、造影剤をそっと入れるなど、自分がされているつもりで、丁寧にするとやっぱり痛みの感じ方は全然違う。
それに、卵管造影を乱暴に行うと、子宮に攣縮が起きて、卵管に造影剤が流れなくなる。
実際は卵管が通じているのに、診断上は通じていないように見えたりすることもあるから。
これは人工授精についても同じ。
他にもチューブが一番奥まで行くと、その刺激で痛みを感じたり、濃縮した精子を入れる時に、量を多めに入れたり、早く入れようとすると痛みが生じることもある。
ただ人工授精が「先生、もう終わったん?」という人は多いよ。
医療機関の心使いも…
テクニックも必要だけど、先生の気遣い一つで痛みの感じ方も違うということですね。
ささ山先生 テクニックもあるし、気遣いも大事。
基本的にはそんなに痛いことではないけど、初めての患者さんだったら、どんなことをされるのか心配じゃろう?
もちろん、どうしても子宮の方向を探さないとチューブが入りにくいこともある。
それでも、患者さんと話しながらするのと、医師の仕事だからと、ただ一方的にするのとは違うと思うよ。
本来、子どもが欲しいために、したくない検査をしたり、治療を受けているわけだから、この先も治療を続けたいと思うかどうかは、僕らの接し方一つで大きく変わってくると思うよ。
それと同時に、たとえば、卵管造影だったら「卵管がスムーズに通るには痛みもあるからね」と伝えて、痛みを前向きにとらえてもらうことも必要。
卵管が通る痛みがあってこそ、妊娠する人もおるから。
患者さんには「なぜ、この検査をするのか」という医療的な理由を伝えてあげることも大切かな。
情報を整理する
検査や治療への不安が大きくなると、妊娠という本来の目的を見失ってしまいそうですね。
ささ山先生 インターネットや人から 聞いて不安になる情報を、医師側がどう整理してあげるかが、ものすごく大事な気がするよ。
僕のところでは、勝手に思い悩んでしまったり、情報整理が苦手な患者さんには、「気になることがあれば、その情報を持っておいで」って言うんじゃ。
だって治療は夫婦で選択することだけど、実際には夫婦だけでは選択しきれんから。
それと、ご主人と認識のずれが あってもいけん。
夫婦の間にずれがあると「なんで私ばっかり……」となる。
この検査や治療をなぜする必要があるのか、きちんと理解してもらわんと。
そのうえで、たとえば、人工授精をする前に、腹腔鏡検査という選択肢や、ひょっとして内膜症の可能性があるかもしれないという話をして、次にどうするかを一緒に考えることが大事かなと。
逆に患者さんが持ってくる、いろいろな情報のなかには、「なるほど、そうしてみよう」ということもあるしね。
患者自身が出来ること
患者さん側でもできる不安の対処法はありますか?
ささ山先生 自分へのご褒美や楽しみを見つけることかな。
たとえば「検査の帰りにあそこのラーメンを食べて帰ろう!」とかね。
単に通院だけにしない。
それから、卵管造影の時に、先生と話しながらするのが一番いいけど、携帯プレーヤーで自分の好きな音楽を聴いてもいいと思う。
それと、「何のためにこの検査や治療を受けるのか」を理解しておくこと。
さらに、痛みをともなう治療でも「なるべく痛くないようにしてくれる、そう配慮してくれる」と先生を信じること。
お互いに信頼感をもって治療や検査に入るといいんじゃないかな。
要するに、患者さんが自分のペースを大切にするのが一番ということ。
僕の患者さんにも、「春と秋のゴルフシーズン以外だけ治療したい」という人がいるよ(笑)。
そういう人は心にゆとりがある。
年齢という問題もあるけど、自分を追い込むような治療は違う気がするなあ。
ゆとりがなくなればかえってストレスになるし。
結婚は、子どもをつくるためではなくて、ベースは夫婦。
だから夫婦としてのセックスが大切だと思うし、どこで妊娠するかは誰にもわからんから。
体外受精するつもりだったのに、 自然妊娠したということも実際にある。
僕らが思っているより、妊娠は神秘的なものだからね。
仕事や遊びといった、治療以外に尊重するものもあるだろうし、価値観がそれぞれあると思う。
それとのバランスを上手にとりながら、心にゆとりをもって妊娠に向かってほしいと思うな。