不妊治療は、通院する手間や時間、交通費など、大変なことがたくさん。 そんな通院のストレスを軽減できる方法の一つが、在宅自己注射です。 不安やさまざまな疑問から、躊躇してしまっている方も多いと思いますが、 正しい知識を持って適切に使用すれば、治療の強い味方になってくれるはず。 そこで、詳しいお話を徳島大学病院の苛原稔先生に伺ってきました。
【医師監修】徳島大学教授 苛原 稔 先生 徳島大学大学院医学研究科修 了。医学博士。米国メリーラ ンド大学医学部産婦人科研究 員などを経て、徳島大学医学 部産科婦人科学講座教授に就 任、周産母子センター長を兼 任。生殖医学、不妊症学など を専門とする。日本生殖医学 会常務理事。
医学的にも社会的にも 大きなメリットのある治療
在宅自己注射は、不妊治療で排卵誘発治療や生殖補助医療(ART)を受けられる方のうち、遠方の病院に通う方や、働いていて毎日の通院が困難な方、さらには副作用である卵巣過剰刺激症候群などを起こしにくい投与法である「低用量漸増法」を選択する方に適した治療方法です。
不妊治療は、注射のために毎日の通院が必要なことが多く、肉体的にも精神的にも大きな負担がかかりますが、自己注射を使用すれば、通院のための時間や費用が減り、精神的なストレスも軽減することができます。
また医学的には、排卵誘発治療を行う場合に安全性の高い治療法が選択できます。
このように在宅自己注射は、医学的にも社会的にも大きなメリットがある治療法なのです。また、排卵障害がある方の排卵誘発治療に、リコンビナント(遺伝子組み換え)FSH製剤のみ、保険が適用されます。
正しい方法で使えば 通院注射と効果に差はない
在宅自己注射をしたい場合は、まずは主治医の先生にご相談ください。
患者さんからは「痛いのでは」「自分で打つのは怖い」「効果はあるの?」などの不安の声をよくお聞きします。
まず、痛みについては、自己注射用の注射針は 29 ゲージというとても細い針を使用しますし、注射するお薬の用量が少なくてすみますので、ほとんど痛みはないと思います。
また、注意事項をきちんと守れば失敗することもありません。
一般に、自己注射は糖尿病のインスリン注射など、他の多くの疾患でも行われているものですから、数回練習すれば、どなたでもできると思いますよ。ぜひ、かかりつけの医療機関で相談して、確実な使い方をマスターしてください。
また、操作方法を解説したDVDやパンフレットなどの説明ツール、年中無休で朝6時〜夜 10 時まで対応してくれるコールセンターなどもあります。
次に、通院注射との効果の違いについてですが、排卵率や妊娠率、副作用の発生は、1周期に投与されるFSHあるいはHMG製剤の全体の総量に関係します。
通院注射でも自己注射でも、適切に注射できていれば卵胞成熟までの総量に差はありませんので、基本的には排卵率、妊娠率、副作用に差はありません。
その他では、薬剤の保管方法に十分気をつけてください。
使用した針や器具は一般ごみに捨てず、医療機関に持っていきましょう。処方された薬剤は個人の治療用ですので、自分以外の第三者には渡さないように。
また、外国では一緒に治療をしている気持ちを持ってもらうため、患者さんがご主人に注射してもらうケースも多いようです。
ご主人と一緒に治療を受ける気持ちはとてもすばらしいことですので、おすすめですね。
自己注射 なんでもQ&A
「やってみたいけど不安」 「使い方は難しくないの?」 「もし失敗してしまったら?」
みなさんの、そんな自己注射への 疑問と不安にお答えします!
注射を打つ時間は 決まっていますか?
注射を打つ時間は、都合に合わせて 設定できます。医療機関で指導を受 ける際に相談してください。毎日同 じ時間に注射できる時間帯を選んで ください。お仕事のある方は夜に、 お子様がいる方は幼稚園に行ってい る時間や就寝中がおすすめです。
もし注射するのを 忘れてしまったら?
予定時刻から12時間以内の場合 は、気づいた時点で注射しましょ う。12時間を経過している場合 は、その回はとばして次の予定 時刻に注射します。
飲み合わせの 悪い薬はある?
一緒に使用することで、排卵誘発 の効果が強くなったり、弱くなっ たりする薬があります。一緒に使 用する薬がある場合には、医師や 薬剤師に相談してください。
うまく注射できなくて 効果が薄れてしまうのでは?
手順を守って自己注射した場合、効 果が薄れることはありません。薬液 が漏れるなどのトラブルがあった場 合は、医療機関に相談してください。