未来のトビラ第三回

未来の トビラ第三回

悲しい別れと新たな決意

不妊治療と不育治療を19年間続けている ことりmama*さんとご主人のオット君。

9 回の流産を乗り越え、妊娠。

しかし、4カ月検診の結果、つらい決断をすることに——。

そして、経済的事情から体外受精を諦めようとした矢先、 主治医が二人を思いやった打開策を提案してくれます。

悲しい別れの瞬間―毅然としていた夫の涙

結婚以来、不妊治療と不育治療を 続けてきた、ことり mama* さんと オット君。

2011年の夏、顕微授 精を見送った後に、思いがけず自 然妊娠をしていることがわかりまし た。

無事に出産するため、徹底した 絶対安静の日々を送ってきたことり mama* さんでしたが、4カ月検診で 告げられたのは、赤ちゃんの染色体 異常。

「お腹の中で頑張って成長した としても、生まれてきた瞬間に死ん でしまう — 」。

そう主治医の先生に告げられた 二人は、赤ちゃんと悲しい別れをす ることになりました。

「2泊3日の入院の間、夫は会社を 休んで、一緒に病室に泊まってくれ ました。

陣痛を起こす薬を投与され、 私がお腹の赤ちゃんに何度も『ごめ んね』と言いながら泣いていると、 夫もお腹をなでてくれました。

泣く のは、私のために必死に我慢してく れているようでした」(ことり mama* さん)そして、死産。

産声を上げることな く生まれてきた赤ちゃんを、看護師長 さんが二人のもとに連れてきてくれ ました。

小さな体だけど、とてもか わいい、立派な赤ちゃん。

手と足の 指の1本1本、目鼻口もあるのを目に した瞬間、それまで毅然としていたオ ット君が、涙を流して泣きました。

「長く一緒にいて、こんなに泣いて いるのを見るのは初めてでした。

そ れまでの流産の時も、夫はつらい思 いをしたと思うのですが、死産だっ た子を抱いた時に、『今までの子も、 こんなふうに育っていたんだ』とい う実感が生まれたのだと思います」 (ことり mama* さん)

普段は優しく見守ってくれている オット君が、赤ちゃんを失ったこと で見せた心の内。

ことり mama* さ んはそれを知って、もう一度、オッ ト君に赤ちゃんを抱かせてあげよう と決心したのです。

長年見守ってくれた先生が 経済的な悩みに 打開策を提案!

長い期間にわたる治療ですが、ことり mama* さんは休まずに続けてきた というわけではありませんでした。

「不妊治療や不育治療は体もつらい ですが、ゴールが見えないという点で 精神的な負担がすごく大きくて。

これ までも、何度か治療をお休みしてい ます。

でも、2~3周期休んでいる時、 周りに妊娠した人が出てくると焦っ てしまうんですよね。

休んでばかりい られないって思うんです」(ことり mama* さん)

しかし、体と心は前に進もうとし ても、経済的な事情から、思うよう に治療ができない悩みもありました。

「2年間のタイミング療法の後、人工 授精に進み、主治医が体外受精のでき るクリニックを開業したのをきっか けにステップアップしました。

実はも っと早く体外受精をしたい気持ちが あったのですが、当時はまだ年齢が若 かったし、費用の問題もあり断念して いました。

助成金制度ができて少しラ クになりましたが、それでもまだ経済 的な負担は大きいです」

ことり mama* さんが住む北海道の 場合、※特定不妊治療に対する助成金 は、1回につき 15 万円まで。

1年目は年3回、2年目以降は年2回まで 申請が可能です。

「 15 万円の助成金はとても助かりま すが、それでもまだ大きな自己負担 があります。

それに、不育症でもあ るので、妊娠してからはヘパリンの 自己注射をします。

私の場合は1日 2本。病院や必要な本数によって費 用は違うようですが、当時は保険適 用外だったため、私は月4~6万円 かかりました。

今は保険が適用にな り、ヘパリンの費用の負担はなくな りましたが、当時は大変でした」(こ とり mama* さん)

経済的負担を少しでも軽くするた めに、途中でお休み期間を入れたり、 タイミング療法を取り入れたりと工 夫もしました。

「でも、これからはいろいろな事情 で、体外受精をする経済的な余裕がなくて……。

タイミング療法しかで きませんと、先生に伝えました」

すると先生は、励ますようにこう 言ってくれたのです。

「負担にならない範囲で顕微授精を しましょう。

1年に2回顕微授精を して、それ以外の期間はタイミング 療法でいこう。

ことり mama* さんは、 ずっと頑張ってきたんだから」

これまでも、できるだけ費用がか からないように、できる範囲で配慮 してくれていた先生からの、二人を 思いやったご提案でした。

「私たちの十数年間の治療を見守って くださった先生が『体外受精は諦める』 という告白をした私にしてくださっ た、配慮だったのだと思います。

費用を抑えるために、排卵誘発 剤の質を下げました。

そうすると、 採卵できる卵子の数は少なくなるんです。

でも先生は、『そんなにたく さん卵子をつくらなくても、2個採 卵できればいいんだから』と言って くださって」こうして、ことり mama* さんは、 諦めかけた体外受精での不妊治療を 継続することになったのです。

コミュニケーションで築く 主治医との信頼関係

ことり mama* さんの経済的な事情 に配慮して、最善の治療方法を提案 してくれた主治医の先生。

普段の診 察の際にも、ことり mama* さんが不 安になるようなことは、あえて言わ ないようにしてくれているのが感じ られるそう。

「長く不妊治療をしているので、ホ ルモン数値を聞くと、私はその数字 に縛られてしまうんです。

気持ちが 前に進まなくなってしまい、私にと ってマイナスになります。

先生はそ れをわかっていらっしゃって、ホル モン数値を言わないでくださった りするんです。

でも、いい時は『い い数値が出てるよ』と教えてくれる ので、言わない時は、ああ、あまり よくないんだなってわかってしま うんですけどね(笑)」(ことり mama* さん)

安心して治療を続けるためには、 主治医とのコミュニケーションや信 頼関係も大切。

確認したいことや疑 問に思うことがあっても、担当医に なかなか聞けないという人も多いと 思います。

ことり mama* さんは、「言いたいことを言える、聞きたいこ とを聞けるという関係は、大変だけ ど自分からつくっていかないとでき ないものなのかもしれませんね」と、 先生との十数年間を振り返ります。

「彼女は、病院から帰ってくると

『今 日はこんな検査だったよ。先生にこ んなことを言われたよ』

と細かく教 えてくれるのですが、その話を聞い ていると、彼女の場合、先生に言わ れたことを

『はい。はい』

と聞いて 帰ってくるだけの患者ではないよう なんです」とオット君。

先生との小 さなやりとりの積み重ねが現在の信 頼関係につながっているのではない か、と言います。

「私、心配性なので、検査結果や自 分の状態でわからないことがあると、 すべて質問するんです。

そうすると 次の検診で、前回私が何を質問した か、何を心配していたかを先生が覚 えていて、それについて一言かけて くださいます」(ことり mama* さん)

そんな積み重ねが先生への信頼感 につながっているそう。

「先生は妊娠がわかっても、私には 『おめでとう』と言わないんです」

それが、妊娠してからは不育症を 乗り越えなくてはいけない、自分へ の気遣いだということも、ことり mama* さんは感じているそう。

先 生からの「おめでとう」を聞ける日 を目標に、ことり mama* さんは、 体質改善も含めた治療を今も続け ています。

(つづく)

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