この1~2カ月のストレスが卵子の発育に影響する?

なぜストレスは 妊娠のためによくないの?

不妊治療中はなにかとストレスもたまりがちですが、 ストレスと妊娠率は相関するのでしょうか。

英ウィメ ンズクリニックで外来はもちろん、オンラインでも多 くの患者さんの相談にのっておられる十倉陽子先生に お話を伺いました。

十倉 陽子 先生 2005年関西医科大学医学部卒業後、東京北社会保 険病院で臨床を受ける。その後、帝京大学医学部附属 溝口病院へ入局。母子愛育会総合母子保健センター 産婦人科新生児科、帝京大学医学部附属溝口病院 産婦人科を経て、2011年12月より英ウィメンズクリニッ ク勤務。2012年8月より女性医学部門部長就任。
Sharonさん(?歳)からの相談 Q.わたしは流産後のお休み期間中で、来月からIVFを再開するところです。この1~2カ月強 いストレスがあり、あまりよい精神状態ではありませんでした。体外受精を再チャレンジ するのは次の周期からなので、たぶん影響はないと思うのですが、卵子は2~3カ月かけて つくられるとも聞いたことがあるので、質の悪い卵子が来月できないか心配しています。 流産したのでナーバスになっているとは思いますが、皆さんのご意見などを伺いたく投稿 しました。なるべくストレスフリーでいたほうがいいのは、生理1日目から排卵までの2週 間だと思いますか? それとも、その前の2~3カ月も影響があると思われますか?

ストレス状態が続くと、 睡眠や不妊治療にも影響が

ストレスとは医学的にどのようなものでしょうか。「ストレスとは肉体的、あるいは精神的に負荷がかかり、その状況から逃避したいというような反応が体の中で起こることです」と十倉先生。「緊張したりストレスがかかると交感神経が、リラックスした時には副交感神経が優位に働きます。仕事や楽しいことで交感神経が働くのはあるべきことですが、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて交感神経が亢進している時間が長いと睡眠の質が下がり思考回路もネガティブになり、ますますストレスフルな状態に。また、交感神経・副交感神経は血流もコントロールしています。交感神経が過剰に亢進すると卵巣の周囲や子宮の血流が低下し、ひいては卵子の質や数、着床率に影響する可能性もなくはないのです」。不妊治療中の女性にとって、ストレスは大敵と言えそうです。

自己コントロールのできない 不妊治療こそ大きなストレス

「そもそも不妊治療を受けていること自体がものすごいストレスなんですよ」と先生。それはなぜでしょうか。「たとえば、勉強なら努力すれば成績が上がります。仕事も成果が出ます。不妊治療の場合はどんなに頑張っても、その成果をすぐに自分の目で見たり感じたりすることができません。次から次に検査を進められて、ダメなところを突きつけられる。でもそれはどうしようもないことも多く、卵子の質が悪いと言われてもどうやって改善したらいいかわからないですよね。自己コントロール感がない部分がとても多いので、精神的に結構きついと思います。

新しい治療に入ること自体もストレスだし、新しい検査を受けることもストレス。悪かったらどうしよう、これで妊娠したい、できなかったらどうしようの繰り返しです。そのアップダウンの激しさがストレスにつながるのです」。この精神状態は、不妊治療中の誰もが経験することかもしれません。この状態を少しでも軽減するにはどうすればよいのでしょうか。

「自分なりに何か好きなことに打ち込むことはよいと思います。読書など時間を忘れて集中できるもの、手先を動かす作業、達成感のあるもの。お料理や音楽、体を動かすのが好きならエクササイズやヨガもいいですね。そして何よりもよく眠ることが大切です。私は患者さんによくお伝えするのですが、自分なりにやれる範囲で今日一日やり遂げたら、自分をほめて終わること。『朝晩忘れず薬を飲んだ!』など小さなことでいいのですよ」。

自分の気持ちを楽に、前向きに切り替えることは不妊治療においてとても大切だと思います。

相談者の Sharon さんはストレスの強い時期を過ごし、質の悪い卵子ができないかを心配しています。「何日から何日までストレスフリーでいなきゃと思うと一層ストレスに。ストレスがある日もない日もあると思います。全体的に少しずつ軽い日が増えるといいですね。できるなら『流産した』ということを『一度妊娠できた』、『着床できる子宮であることが証明された』と思うようにしてみませんか。そうなるとつらかった 2 ~ 3 カ月も、価値のある 2 ~ 3 カ月になると思います。妊娠できたということを胸に、少し休んでもいいので、その次につながるように受診を続けていければよいですね」。

ストレスは妊娠にも影響が

緊張モードの交感神経とリラックスモードの副交感神経はバランスをとりながら 働いていますが、ストレスを感じて交感神経が優位になり続けると血管が収縮し て血流が悪くなり、眠れなくなったりします。この状態が続くと自然妊娠まで時 間がかかったり、卵子の質や採卵数、着床率に影響が出たりと、妊娠には良い影 響がありません。

不妊治療自体がストレス!

そもそも不妊治療は診察や検査など初めての体験がつきまとい、結果が出てもどうしよう もないことも多く、ストレスなく治療を受けている人はいないと言えます。不妊治療中は 誰もがストレスや不安を抱えているものと理解して、前向きに発想を転換しましょう。 「流産した」という時も、「妊娠できた」「あと一歩なんだ」と捉えてみませんか。

リラックス時間を増やすには

ストレスを緩和し、前向きな気持ちでいることは妊娠にもよい影響を及ぼします。一番 大切なのはよく眠ること。そして、趣味や運動など自分の好きなことに打ち込み、達成 感を得ること。一日一日頑張っている自分を認めてほめること。自分の気持ちを楽にす ることが大事ですが、難しい場合は外来で医師や看護師さんに相談してみてください。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。