体外受精の成功率に影響 PGT–A、どんな検査?

今、特別臨床研究という形で条件付きで実施しているPGT–A。その検査内容と実際に妊娠しやすいかなどを、
荻窪病院虹クリニック院長の佐藤卓先生に教えていただきました。

荻窪病院 虹クリニック●佐藤 卓 先生 2002 年岩手医科大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室に入局。生殖医学および臨床遺伝学、特に「着床前遺伝子診断」の診療と研究に携わる。2020 年5 月より虹クリニックの院長に就任。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医。

染色体の数の異常を調べるのがPGT―A

PGT – Aとは、「着床前遺伝学的検査」の一種です。着床前遺伝学的検査とは、簡単にいうと体外受精で採卵し受精させた卵が、どんな遺伝情報を持っているかを移植する前に調べる検査になります。いくつか種類があり、筋ジストロフィー症など重い病気にかかる遺伝情報がないかを調べる検査をPGT – М、習慣流産などの原因となる染色体の構造異常がないかを調べる検査をPGT – SRといいます。

今回、取り上げるPGT – Aは、PGT – SRと同じく染色体を調べるものですが、PGT – Aはどんな人にも生じうる染色体の数の過不足がないかを確認するための検査です。もともとヒトの受精卵は、1個あたりに染色体が23組、46本あります。それがなんらかの理由で少なかったり、多くなることがあります。そういった数に異常のある受精卵を移植してもうまく着床しない、あるいは着床しても流産の原因になってしまうことがあります。特にヒトは、染色体異常が頻発する動物なので、PGT – Aを行い、正常な染色体数の受精卵をみつけて移植することで、妊娠・出産の可能性が高まると期待されている、新しい検査方法です。確かに日本では「新しい」技術ですが、アメリカをはじめ、欧米では、以前より不妊治療の現場で広く行われている検査になります。

PGT―Aの検査対象が海外と日本では異なる

日本に先がけてPGT – Aが行われている欧米では、検査の有効性を調べる研究などがいくつか行われています。現在まで実施された最大規模の研究によるデータを見ると、PGT – Aを行った胚盤胞を移植したグループと、PGT – Aをせず、見た目のグレードが良い胚盤胞を移植したグループの妊娠20週までの妊娠継続率は、ほぼ同じという結果になっています。この結果だけをみると「PGT – Aって本当に必要な検査なのかな?」と感じた人もいるかもしれません。ここでお伝えしておきたいことは、PGT – Aの検査対象が海外と日本では大きく異なるという点です。

たとえばアメリカや多くのヨーロッパの国では、PGT – Aは、年齢などに関係なく、希望する女性すべてが受けることのできる検査です。

一方で日本では、「PGT – A=特別臨床研究」という認識のため、どこの施設でも受けることができる医療ではありません。日本産科婦人科学会により、PGT – Aの実施施設として認可を受けた施設でのみ検査を提供することができます。受ける側(研究対象)も「2回以上の体外受精をしても妊娠しない人、ないしは2回以上の流産をした人」に限定。要するに海外で行われている研究対象と、日本での研究対象とでは条件が大きく異なるのです。そのため、海外での研究データを参考にする際も、注意が必要になります。

年齢が高めの方が受けるとメリットが大きい可能性が

では、日本での研究データではどのような結果になっているかというと、まだまとまったものはありません。今まさに有効性について調べている最中です。そのため、P G T -Aを受けたことで妊娠・出産の可能性が高くなるかについてはまだはっきりとはわかっていません。ただ、高齢になるにしたがって、自然と染色体の数が異常な受精卵が増えていきます。PGT – Aを受けることで染色体の数が正常な受精卵を移植できるようになるため、年齢が高めの方がこの検査を受けるメリットが大きい可能性が高いといえるでしょう。

ただし「メリットがある」と、言い切れるようになるまでには、さらなる研究が必要だと私は考えています。現にPGT – Aをしたうえで移植しても妊娠しないこともあります。検査の有用性だけでなく、検査をしたうえで移植したのにうまく妊娠に結びつかない場合の研究も今後はしていかないと、検査の信頼性は得られないと考えています。

将来的には多くの方が受けられる検査に

先にも述べたように、PGT – Aは日本ではまだ「研究中」の検査で、実施している医療機関は日本産科婦人科学会が承認している144施設と限られています。でもより研究が進み、ヒト胚に関する知見がさらに深まり、検査の正確性が上がることで、将来的には不妊に悩む多くの患者さんにとってさらに役立つ検査になると思います。実際に患者さんからもPGT – Aについてどういった検査なのか、検査を受けるメリットなどを質問されることが多くなってきました。そういった状況を鑑み、当院でもPGT – Aの実施を検討しているところです。

一部では「PGT – Aをすることで受精卵にダメージを与えているのではないか」という考えも出ています。そういったPGT – Aでまだわかっていない疑問などを確かめるためには、よりいっそうさまざまな角度から研究することが必要です。そのためには、積極的に研究に協力していただける患者さんが不可欠なのです。今後、ご自身が受ける不妊治療をより良いものにするために、PGT – Aの研究対象に該当する方は、積極的に研究に参加していただきたいと考えています。

「PGT – Aのこと、もっと詳しく聞きたい」という方には、できるだけわかりやすくお話しいたしますので、お気軽にお問い合わせください。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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