未来のトビラ第四回

つらい流産と死産を二人で乗り越えながら、 不妊治療と不育治療を続けている ことりmama *さんとご主人のオット君。

20 回目の結婚記念日を迎えた今年、 二人の気持ちに変化が生まれつつあります。

未来のトビラの前に立つお二人に、あらためてお話を聞きました。

今できるのは、地道な 不妊治療と体質改善

ことり mama* さんとオット君のお 二人に、初めてお話をうかがったの は2012年の夏。

当時、お二人は、 長い不妊治療と不育治療を経てやっ と授かった赤ちゃんの死産から、ま だ一年も経っていない頃でした。

今回は、この連載の最終回のため に、再びお会いして、今のお気持ち を聞かせていただきました。

この8 カ月、お二人はどう過ごされてきた のでしょうか。

「これまでと変わらずに、助成金を 使っての顕微授精とタイミング療法 での不妊治療を続けています。

私の 住んでいる北海道では、特定不妊治 療の助成金の申請は、2年目以降は 年に2回まで。

経済的な負担が大き く、全額を自費で行うのは難しいの で、顕微授精のチャンスは年に2回 ということになるんです」

と、ことり mama* さん。

今は、卵 子の質を上げるため、そして妊娠し やすい体をつくるために、さまざま な形で体質改善に取り組んでいるそう。

8カ月前にお会いした時にも、 たしか毎朝のウォーキングを習慣に されていましたね?

「はい。でも、北海道では冬の間は外 での運動は体を冷やしてしまうので、 今は筋トレや骨盤トレーニングなど 家の中でできることをしています。

今年は4月に入ってもなかなか暖か くならないので、ウォーキングはも う少し先かな」

筋トレで筋肉を増やすこと、スク ワットや股関節トレーニングで股関 節の柔軟性や太ももの内転筋を鍛え ること、ウォーキングなどの有酸素 運動で血流をよくすることなど、ど れも不妊治療を支える体づくりには 大切なことです。

「毎日欠かさず運動することで、血流 改善になっている気がします」

ことり mama* さんが特に気を付け ているのは、体を冷やさないこと。

毎日の運動のほか、睡眠時には遠赤 外線で体を温めるマットを、日中は 腹巻きをはずしません。

「ダイエットの効果は出ていないの ですが(笑)、この頃はお腹が冷えな くなってきたのを感じます。

以前は、お腹の辺りに手のひらをあてると夏 でもひんやりとしていたのですが、最 近はそれがなくなりました。

家の中で 足もとが冷えていたり、背中がざわざ わっとする時でも、お腹は冷えていな いんです」

食事も、カフェインは摂らず、お砂 糖も最低限にするなど、気を遣ってい ます。

そんな毎日の積み重ねが、冷え の解消につながっているようです。

不妊治療卒業を前に 二人で悔いのない毎日を

体質改善は、毎日地道に続けるしか ないと話すことり mama* さんですが、 続けるためのモチベーションを保つ のはやはり大変だそう。

そこで、ウォ ーキング用の靴やウエアを“ご褒美” として購入したり、ダイエットが成功 したら着られるようにワンサイズ小 さめの洋服を買ってみたりと、ちょっ とした工夫を取り入れているそう。

「後悔しないように、できるだけのこ とはしておきたいんです」

ふと、いつもの元気な話し方とは違 う、少しトーンを落とした声でぽつり とつぶやいた、ことり mama* さん。

実は、そろそろ不妊治療を卒業しよ うかなという気持ちもあるのだと、 打ち明けてくださいました。

「年齢的なこともあるのか、質のい い卵子が育たないんです。

排卵誘発 剤を使っても採卵できるのは2個く らいだったり、空胞が多かったり。

この状態で妊娠したとしても、また 流産や死産になってしまうのではと いう恐怖感もすごく大きくて……」

赤ちゃんを授かりたい気持ちはあ る。

でも、気分が落ち込むとやめよ うと考えてしまう。

そんな葛藤のな かで不妊治療と不育治療を続け、約20 年がたった今、良好な卵子が育た ないという現実と向き合わなければ ならなくなったのです。

私たち取材 スタッフが、かける言葉に迷ってい ると、ことり mama* さんは、

「ところがね、体を温めた効果が出 たのか、卵子の状態がすごくよかっ た時があったんです。

それで、利用 できる助成金が残っているうちは 治療を続けようかという気持ちに なって。

あとあと後悔するよりは、できる ことはすべてしたと思える状態で卒 業したいんです」

と、決意を感じさせるすっきりと した声で話してくれました。

新たなゴールを決め、そこに到着 するまでは悔いの残らないよう、体 質改善と不妊治療を続けると決めた ことり mama* さん。

その決心をオッ ト君はどう受け止めたのでしょうか。

「助成金が使えるうちは続けたいと、普段の会話のなかで自然に話してく れました。

彼女が続けたいなら、や めることはないと僕は思っています。

以前は不妊治療の大変さがわから ずに、あまり協力的ではなかった時 期が僕にもありました。

でも、彼女 が治療のことや、自分の想いを隠さ ずに話してくれたことで、赤ちゃん が欲しいという彼女の強い気持ちが 今はよくわかります。

今回、彼女が今後の方向性を決め たことで、僕も無理なく自然な気持 ちで、一緒に不妊治療にあたってい くつもりです」(オット君)

今は、精子の運動率などを改善す る効果が期待できるトマトジュース とクルミを毎日摂っているそうです。

今年、結婚 20 周年を迎えた二人は、 結婚してからずっと治療を続けてきました。

「頑張り続けてきたので、これ以上 頑張ると息切れしちゃいます。

だか ら、今していることを、これからも 続けていこうと思っているんです」 (ことり mama* さん)

いつもマイペースで、無理なく治 療に取り組むオット君との、二人三 脚の日々が、まだしばらく続きます。

これまでの経験を生かした ほっとできる場所をつくりたい

ことりmama*さんが不妊治療 と不育治療の日々をつづっている ブログ。

同じ悩みを持つ女性たち の交流の場所にもなっています。

ことり mama* さん自身、寄せら れるコメントに励まされることも 多かったとか。

「不妊治療を卒業したら、今度は ブログという形ではない、別の場 所をつくれたらいいな、なんてこ の頃思い始めているんですよ」(こ とり mama* さん)

不妊や不育の悩みを抱える方た ちが、ことり mama* さんの家に 遊びに来るような感覚で、気軽に 悩みを話したり、心を休めたり。

そんな小さなウェブサイトのイメ ージです。

「 20 年間、つらい思いもしたし、 悩みもしました。不妊治療を卒業 したら、今度はその体験を、誰か のために役立てられたらいいな、 なんて思っています」

(完)

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