不妊治療の技術の進歩により、妊娠率が高い手段として 体外受精や顕微授精が注目されるようになりましたが、 どんな人にとってもそれがベストな手段なのでしょうか。 自然な妊娠を理想とする梅ヶ丘産婦人科院長の辰巳先生と ファティリティクリニック東京の小田原先生に 治療の現状と意見を伺ってみました。
ドクターアドバイス
必要最小限の不妊治療で 妊娠していただくことが理想
体外受精が世界に普及するようになって約 30 年、顕微授精が行われるようになって約 20 年が経ち、不妊治療において日本でもART(生殖補助医療技術)が定着してきましたが、辰巳先生は現在も「それぞれの患者さんの必要最小限の治療で妊娠していただくこと」を基本方針とし、一般不妊治療を重視されているということですが……。
辰巳 20 年以上不妊治療に携わってきましたが、その方針はぶれずにやってきました。両側の卵管閉塞や重症の男性不妊といった例外はありますが、必ずしも体外受精をしなければならないという方が多いわけではありません。
患者さんもそのような治療を望まれる方 が多いですか?
辰巳 そうですね。おそらく多くの方が自然な形で妊娠したいと思っているのではないでしょうか。順番にステップアップしていくことで、最終的にARTによる治療をしなければならなくなったときも、納得して臨んでいただくことができると思います。
小田原 辰巳先生のクリニックでは、ステップアップの期間はどのように考えられていますか?
辰巳 まずタイミング指導を約半年間行って、妊娠されなかったら次に人工授精を半年程度。それでも結果が出なかった場合は、その時点で体外受精をご提案しています。
小田原 他の施設と比べて、一般不妊治療の期間を長めにとられていますね。特にAIH(人工授精)の期間が長いような気がしますが……。
辰巳 AIHはあまり回数をとらない施設も多いようですが、僕は非常に有効な手段だと考えているので重視しています。1回あたりの妊娠率は8%程度しかないのですが、繰り返しても妊娠率がそれほど落ちないんですね。
小田原 トータル的に見て、一般不妊治療の結果はいかがですか。
辰巳 当院では平成3年から来院されたご夫婦の約6割の方が妊娠されているんですが、そのうちタイミング指導などの一般不妊治療で妊娠された方は約4割、人工授精まで考えた場合には6割以上という数字になっています。
小田原 それはかなり高い数字だと思います。初めて不妊治療の門を叩く方にとって、一般不妊治療というのは決して不要なものではないということをお伝えしたいですね。不妊だからすべて体外受精にしなければいけないということではないと……。
年齢が上がったことでARTが 増えてきたことも事実です
多くの方が一般不妊治療だけで妊娠されるのが理想だと思いますが、年々体外受精を受ける方が増えているのも事実ですね。
辰巳 10 年ほど前は体外受精で妊娠される患者さんは妊娠例の 25 %くらいだったのですが、最近では、 40 %近くにまで増えてきています。
小田原 ARTに対して抵抗がなくなってきたこともありますが、一番の原因は患者さんの年齢が上がってきたことではないでしょうか。
辰巳 そうですね。やはり年齢の問題は大きいですね。当院の場合もあくまで自然な形でというのが基本ですが、年齢が上がるに従ってステップアップの期間を早めるご提案をするなど、柔軟な対応をとるようにしています。
そのような事情も含め、後悔しない不妊 治療を受けるために、患者側はどのようにすればいいのでしょうか。
小田原 今、いろいろな情報があるので迷われることも多いと思いますが、やはり医師や医療スタッフとよくディスカッションされることが大切だと思います。ちょっとでも疑問に思うことがあったら聞いて、それをその施設がどう考えているか納得しながら治療を進めていく。
小田原 医師側も判断に迷うケースがありますので、本当にその治療方針が正しいのかどうか、セカンドオピニオン的なことでいろいろな先生のお考えを聞くというのもあっていいと思います。
辰巳 医師としては患者さんに、今どのような状態で、どんな選択肢があるかということを最初にきちんと言ってあげなければいけないと思っています。
小田原 やはり、 ※ インフォームド・コンセントと自己決定権が重要。それぞれの治療のいい点と悪い点、その方にどれが合うかという見解も含めてお話しして、そのうえで患者さんが選択する。お互いに後悔しないためにはそれが必要だと思います。