【医師監修】京野 廣一 先生 福島県立医科大学卒業後、東北大学医学部産科婦人科学教室入局。体外受 精の第一人者、鈴木雅洲教授に学ぶ。1995年、京野アートクリニック(古川市) 開院。2007年、同 (仙台市)開院。好奇心旺盛で行動的なおひつじ座のB型。 若いころ、美大進学も考えたことがある先生。海外旅行の際は美術館巡りも 欠かさない。ロシアのエルミタージュ美術館にはぜひ訪れてみたいとか。
しっぽなさん 45歳 Q. 自然周期で採卵し、 体外受精に3回トライしました。 3 回とも桑実胚までは成長するのですが、 一度も胚盤胞になったことがありません。 培養液によって胚盤胞になるかならないかの 違いはあるのでしょうか?
培養液が胚の成長に影響を及ぼすということはあるのでしょうか。
京野先生 全体の1割から2割弱と確率は低いのですが、培養液と相性が合わないケースもあるようです。現在、日本では8〜9種類の培養液が市販されています。私のクリニックでも、常に3種類程度の培養液を使っています。
3種類を試しても合わないという場合は……?
京野先生 患者さんが他の施設で使った培養液が合っていたというデータがあり、ご本人がそれを使うことを希望されれば、取り寄せて使う場合もありますよ。その判断はクリニックによって異なると思いますが。
まれなケースですが、影響を及ぼすことがあるということは、現在使われている培養液はまだ完全なものではないということでしょうか。
京野先生 そうですね。残念ながら完璧とは言えません。培養液は人体の卵管液に近い状態に作られているのですが、実際の卵管は想像以上に優れた働きをしているんです。
卵管内はシリアという線毛で覆われているのですが、これが受精卵を子宮まで送り出していきます。その間、受精卵は必要なものを取り入れて、いらなくなったものを排出する。受精卵はただじっとしているのではなく、細やかな代謝を繰り返しながら成長し、移動しているんですね。
このようなことから考えて、現在使われている培養液を含めて培養環境にはもっと必要なものがあるのではないか、と研究が続けられています。
すごい! 生命の神秘ですね。
京野先生 培養液が100%完璧ではないことから、胚盤胞まで成長させて移植しても妊娠までいかないというケースも少なくありません。
では、胚盤胞移植にこだわることはないのでしょうか。
京野先生 卵管の環境がベストということを考えれば、体外で培養・受精後、前核期胚になったら腹腔鏡を用いて卵管内に戻す「ZIFT(ジフト)法」なども選択肢の一つになるのではないかと思います。