排卵誘発から見えてくるもの【医師監修】

 

排卵誘発からみえてくる、 医師の考え、患者のあり方、 現代の不妊治療まで

皆さんは自分の排卵誘発について、どのくらい理解していますか? 特に治療の本質を知ることなく体外受精へと進んだ場合などは、 注射による強い卵巣刺激に抵抗を感じる人も多いようです。 ステップアップにともなう排卵誘発の必要性や意識の持ち方など、 浅田レディースクリニック院長の浅田先生と 岡山二人クリニック院長の林先生にお話を伺ってきました。

不妊治療患者の高齢化が 排卵誘発の選択にも影響

排卵誘発は、どんな方法で行うかが医師によって異なりますが、その理由は?

林 排卵誘発は広い意味で、前周期の調整から、排卵抑制、卵巣刺激まで、準備しなければならないことがたくさんあります。

治療によるメリットやデメリットを説明したうえで、こちらのするべき準備と患者さんの準備も必要になります。

排卵誘発に限らず、患者さんと医療提供者の信頼関係をしっかりつくったうえで治療に入ることが大切だと思いますね。

浅田 私の体外受精のクリニックでは、初診前に必ず説明会を受けていただき、診療1ヶ月前からコントロールできるようにしています。

その間、卵巣予備能力を測定する抗ミュラー管ホルモン(AMH)の検査や卵胞のチェックなどを行い、条件を整えたうえで刺激の方法や薬剤の量も決めています。

だから、治療を始めてすぐに「はい、採卵します」というわけにはいきません。

ジネコには「なぜ次の治療へ進んでくれないんですか?」、「どうしてこの治療をしなければいけないんですか?」という相談が多いんです。その治療の意味を理解できないまま治療を受けている患者さんが多いのかもしれません。

林 患者さんによって薬の反応性が異なることも、医師によって方法が異なる要因です。

患者さんの反応がみんな同じならば、みんな同じやり方をすればいいのですが、当然そうではありません。

また、同じ一人の患者さんでも、周期によって反応が違うことが多いのです。

浅田 不妊治療を取り巻く状況はどんどん変化しています。

というのは、今の日本の生殖年齢がどんどん高くなってきているからです。

たとえば、昔だったら 30 代前半で不妊治療を受けていたところが、今は 30 代後半~ 40 代にかけての患者さんがものすごく増えています。

昔の分類からいったら、これはほとんど生殖不能期で閉経が近い年齢です。

この年齢の女性の体は、女性ホルモンの量も全体に下がってきて、そのフィードバックで卵胞刺激ホルモン(FSH)の値が不安定に上がったり下がったりします。

生理はあっても、妊娠しにくい年齢に差しかかっていくのです。

私がFSHの値があてにならないと思い始めたのも、患者さんが高齢化してきたから。

30 代前半の患者さんを治療していた5~6年前なら、FSHは今よりあてになっていたと思いますが、今では卵巣予備能力を評価しないと、体外受精の排卵はうまくコントロールできません。

林 AMHは若い人でも低い場合があるので、若い人も測ったほうがいいですね。

浅田 そう。年齢が若くても早発閉経の予備軍という人はいっぱいいるんです。

たとえば、昔だったら自分のお母さんが 25 歳や30 歳で自分を生んだから、 30 歳そこそこで閉経していてもわからなかった。

ところが今は出産の時期がだんだん遅くなってきているから、妊娠を望むようになって初めて自分の卵巣予備能力に気付いて困るわけ。

そういう人に「早くしないとダメだよ」ということを教えるためにも、AMHを調べることはとても有効なんですよ。

林 患者さんの信頼感を得るためにも、「こういうデータが出ているからこんな治療をしますよ」「刺激も強めたほうがいいと思うので強めますよ」と伝えられますよね。

事前にわかっていることを患者さんと情報共有して前へ進むべきです。

そうしないと結局、患者さんも納得できません。

たとえ妊娠できなくても、次の治療に生かせるプロセスの情報をきちんと残すことが大切です。

医師も真剣勝負だからこそ ときには強い誘発が必要に

排卵誘発に、いつも同じ、誰にも同じ方法はありえない。だからクリニックによって差が生じるということですね。

林 何をしても体がみんな同じ反応をしてくれるのなら、強い刺激なんてありえません。

個別にみんな違うから、状況にどう対処していくかが大切なのです。

浅田 卵はずっと卵巣で出番を待っているのですが、特に年齢が高くなってくると、卵が成熟障害を起こし、成熟卵が採れにくくなります。

卵の成長にばらつきがあるのは閉経移行期の特徴で、ショート法で一時的に刺激を強くするなど工夫しないと、いい卵が採れないことが多い。

必要な人には強い刺激を、逆に強い刺激に卵巣が反応しなくなっている人にはクロミフェンなど弱い刺激で少しずつ。

患者さんにとって一番いい刺激の方法は何か、我々医師は真剣に考えて選択しています。

人と比べて不安になったり、これでいいのかと迷ったりする前に、治療の意味を正しく理解することが必要ですね。

浅田 当院で収集しているデータを見ると、昔の常識から考えると注射を打ち過ぎと思われるかもしれません。

しかし、私はいい成熟卵を得るために、必要な人にはちょうどよい量だと考えています。

昔のやり方だけにとらわれていてはダメです。

判断基準がどんどん変化してきているのですから。

林 同じ施設のなかで、医療者の知識や診断が異なっても患者さんは混乱します。

当院では医師、看護師、医事ラボのスタッフまで同じ内容の試験を実施。

医療者側でも情報を共有するしくみを整えています。

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