【Q&A】PGT-A正常胚移植後の出生前診断について~大野田章代先生

みきさん(35歳)

PGT-A正常胚(グレードは4BCか5BCどちらかでした)の移植を受けて妊娠中です。正常胚の移植でしたが、出生前診断を受ける意味はありますか。
PGT-Aは障がいを持って生まれてくる子どもの率とどの程度関係があるのでしょうか。

おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮の大野田先生に、聞いてみました。

おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮 大野田章代 先生 
東京慈恵会医科大学 卒業、東京慈恵会医科大学附属 柏病院、国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター、東京慈恵会医科大学附属 柏病院、獨協医科大学埼玉医療センターを経て、おおのたウィメンズクリニック埼玉大宮 副院長就任。
日本産婦人科学会専門医。日本女性医学会 女性ヘルスケア専門医。

 

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
この度は、ご妊娠おめでとうございます。体外受精を経て大切な命を授かり、喜びもひとしおのことと存じます。ただそれと同時に、PGT-Aを受けられたとはいえ、赤ちゃんに生まれつきの病気がないか、ご心配な気持ちもあることと思います。

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)とは、流産率を減らし、胚移植あたりの妊娠率・出産率を高めることを目的とした検査です。PGT-Aで「正常胚」と判定されたことは、主にダウン症候群(21トリソミー)などの原因となる染色体の数に大きな変化(異数性)がないことを示しています。また、これまでなかなか妊娠に至らなかった方に、2個の胚を移植することがありましたが、PGT-Aを実施し、「正常胚」を1個移植することができるようになり、結果として双子以上の妊娠を減らすことができるようになりました

みきさんが出生前診断を受けるかどうかを考えるにあたり、PGT-Aの精度についてお話させていただきます。現在行われているPGT-Aの精度は、受精卵に染色体異数性があっても「正常胚」と判定されてしまう割合がわずかながらあるとされています。これは、PGT-Aで用いられる細胞が将来的に胎盤になる部分(栄養外胚葉)の細胞であり、胎児になる部分(内細胞塊)の細胞の染色体と一致しない場合があるためです。また、受精卵の中で、染色体異常の「ある細胞」と「ない細胞」が混在しているケース(モザイク状態)というのが存在します。その場合にも、「正常胚」と判定されてしまうことがあります。さらに、PGT-Aは染色体の数の大きな変化がないかをみる検査であり、単一遺伝子疾患(特定の遺伝子の異常)については調べることができません。以上のことから、PGT-Aは精度が高い検査ではありますが、実際には、PGT-A後の妊娠で赤ちゃんに生まれつきの病気がみられるケースもまれですが存在します。
これらのことをふまえて、出生前診断を受けたいかどうか考えていただきたいと思います。

次に、出生前診断を受ける場合についてですが、PGT-Aで正常胚と判定された胚の移植により、妊娠した赤ちゃんの染色体がどうなっているかを確認する最も適切な検査は羊水染色体検査です。羊水検査は、妊娠15、16週以降に実施されます。お母さんのお腹に細い針を刺し、子宮内の羊水を少量採取して、羊水の中に含まれる胎児由来の細胞の染色体を直接調べる検査です。しかし、羊水検査には、非常に低い確率ですが、一般的には流産(0.3%程度) などのリスクを伴います。
では、ほかの検査はどうでしょうか。NIPTや絨毛染色体検査では、将来的に胎盤になる部分(栄養外胚葉)の細胞をみている検査であり、将来的に胎児になる部分(内細胞塊)の細胞を調べているわけではありません。また、胎児超音波検査は検査の選択肢として有効ですが、胎児の体や臓器の異常を調べる検査であり、胎児超音波検査で異常がなかったからといって、赤ちゃんに生まれつきの病気が100%ないとは必ずしも言えません。

ここまで、PGT-A後の出生前診断について説明してきました。
出生前診断は、医学的な情報だけでなく、みきさんとパートナーさんの考え方や価値観に深く関わる重要な選択です。この選択をするにあたり、まずは現在通院されている産科の主治医の先生と十分にご相談ください。ご自身の不安な点や疑問点をすべて洗い出し、主治医の先生と詳しく話し合いましょう。

また、検査を受けるかどうか迷う、あるいは検査結果を受けて不安が大きい、またはお二人のどちらかに既往歴や遺伝的な不安があるといった場合は、遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることも大変有用です。遺伝カウンセラーは、検査の内容や結果の意味を専門的な立場からわかりやすく説明し、お二人が納得して選択できるよう精神的なサポートを行いますので必要に応じて主治医の先生に遺伝カウンセリングを実施している施設を紹介してもらうことをお勧めします。
重要なのは、みきさんとパートナーさんのお二人が納得し、後悔しない選択をすることです。検査を受けるという選択は、赤ちゃんの状態を知り、出産や育児に向けた準備をより確実にするための前向きな選択肢です。どうか、お二人でよく話し合い、安心してマタニティライフを送れるよう、ご検討ください。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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