【Q&A】低AMHでも良好胚2個凍結は目指せる?~小川誠司先生【医師監修】

マリーさん(41歳)

6月の凍結胚以降、採卵してもカルシウムとイムジーでも胚盤胞にならず、11月はすでに排卵してしまい(未熟GVはとれてCB胚を一個凍結)、今月12月は2個採卵予定だったが二つとも空胞で卵子がありませんでした。
AMHが低く、卵胞は常に一個か二個見える程度。8月はカルシウムとイムジーをやっても胚盤胞までたどりつきませんでした。今月は卵子がとれない事態で、お休み期間に入ります。
今年の春まで約8年間勤めた夜勤の仕事をやめて、食生活もタンパク質を多く摂るように心がけ、散歩もしています。
保険適用もあと一回で、次回はグレードの良い卵を2個移植予定ですが、肝心な胚盤胞まで辿りつきません。いつも、クロミッドで刺激してます。
良好胚を2個凍結するためにできることはありますか?

小川誠司先生に教えていただきました。

藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月から准教授に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。2026年2月より東京ARTクリニックを開院予定
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

●AMHが低い場合の最適な採卵方法を教えてください。

採卵における誘発方法の選択は、AMHだけでは決定できず、患者様の年齢や月経期に見える前胞状卵胞数(AFC)も考慮して決定します。
マリーさんの場合は、年齢とAMHから考えますと、低刺激あるいはAFCが複数見えている周期には中等度の刺激が望ましいと考えます。低刺激とは、クロミッドやフェマーラ内服のみ、あるいは後半に1〜2回のrFSHやHMGによる注射、中等度刺激とは、内服薬と注射隔日投与を併用する方法です。

●クロミッド効果と、クロミッド以外に試すべき刺激方法があれば教えてください。

クロミッドは抗エストロゲン作用により卵胞発育を促す内服薬です。同様の内服薬にフェマーラがあります。クロミッドには長期あるいは複数回の使用により内膜が薄くなる方がおられます。採卵の周期で新鮮胚移植をお考えの場合は、フェマーラを用いた誘発方法が良い場合があります。


●胚盤胞まで育たない原因として考えられる要因と、次回移植に向けて良好胚を2個凍結するための対策を教えてください。

胚盤胞まで育たない原因の多くは受精卵の染色体異常であり、その原因は卵子の染色体不分離(卵子ができる際に、染色体が均一に分かれない)といわれています。
したがって、より良い卵子を獲得する必要があり、上記に記載した誘発方法、使用薬剤の変更、あるいは採卵のタイミングの変更(一般的に採卵のタイミングを決める18〜20mmよりも早い段階で採卵する)などが対策として考えられます。また体外培養の環境も受精卵にとって必ずしもベストとは限りません。分割胚の時点で移植するというのも選択肢です。ただ、あくまでも胚盤胞に進む可能性が高い分割胚を移植する必要がありますので、分割スピードが正常範囲で、かつ発生の過程で異常分割が見られないなどの条件をクリアした分割胚を2個移植するというのも受精卵を極力有効に活用する選択肢だと思います。

●精神的なストレスが不妊治療に与える影響を教えてください。

精神的なストレスが妊娠率を低下させるという明確なエビデンスはありませんが、慢性的なストレスはご本人の内分泌(ホルモン)的な変化をもたらすことが知られています。精神的なストレスは、やがて不眠や、抑うつ状態につながる可能性があり、妊娠成績にネガティブな影響を及ぼす場合があります。

●お休み期間中にできることが何かございましたら、先生からのご提案をお願いします。

せっかくのお休み期間ですので、なるべく気持ちをリフレッシュできるよう旅行に行かれたり、運動したりとご自身の環境を変えていただくことが大切だと思います。またたくさんのサプリメントを摂取されておりますが、DHEAやメラトニンなど卵子の質改善にエビデンスのあるサプリメントを追加で摂取されることをお勧めします。
お休み期間は「何かを頑張る期間」ではなく、「心身を整える期間」と考えていただき、治療から一度距離を置くこと自体が、次の治療周期に向けた大切な準備になるかもしれません。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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