【Q&A】流産後のステップアップについて~中島先生【医師監修】

りょーさん(35歳)

一昨年に死産、今年の2月に流産しました。今は人工授精をしています。

通院している病院では「前回は自然妊娠しているので妊娠できなくはない」と言われています。
体への負担や通院の大変さなどが気になりできれば体外受精はせずに妊娠を希望していますが、年齢的にも体外受精へステップアップした方がよいでしょうか?

福岡ARTクリニックの中島章先生に伺いました。

【医師監修】中島 章 先生 先生 (福岡ARTクリニック)
鹿児島大学医学部卒業。久留米大学病院産婦人科、国立成育医療センター周産期診療部不妊診療科(現・国立成育医療研究センター)などを経て、2025年9月、福岡ARTクリニック開業。サッカー観戦が趣味で、特にアビスパ福岡を応援しているそう。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

りょうさんはこれまでに自然妊娠歴が2回あるということ、ポリープ切除を2回実施されていること、治療年数も3-4年と長くなってきていることから、かなりの心的ストレスも大きかったのではないかと思います。その中でさらに負荷のかかる体外受精に進むかどうか?についてのご相談と解釈しております。

1. 自然妊娠を希望していますが、体外受精へのステップアップは必要ですか?

確かにりょうさんは通院されている病院の先生が言われる通り、タイミングや人工授精で妊娠できる可能性はあるとおもいます。
ただし、これから「本当に妊娠できるか」ということと、2度の流産のご経験がある点から、「その妊娠を継続できるか」は別の問題として考える必要があります。
体外受精は「必ず必要」という状況ではありませんが、現在の卵巣予備能(残っている卵子の数を予測するもの)やこれからの家族計画を踏まえ、すこし大きくとらえて、どの治療を行うか?を考えてみる視点をもってもよいと思います。妊娠を急ぎたい、確率を高めたい、子供は2人以上欲しいなどのお考えに応じてどの治療を選んでいくか?のコーディネートはあってもよいかと思います。

2. 年齢的に考慮すべき治療方法やタイミングについて

体外受精などの治療においても、35歳は妊娠率が下がり始める節目の年齢といわれています。わかりやすく言えば、35歳未満なら、タイミング法や人工授精を比較的長めに継続してもよいですが、35歳以上の方ならば、通常は人工授精を3〜6回ほど行って妊娠に至らなければ、体外受精へ移行を検討するという流れが多いです。
つまり、今の年齢では「人工授精を数回試みた後にステップアップする」方針が妥当です。
また、35歳からは妊娠しても流産率が徐々に上昇してきますので、治療をダラダラと続けてしまうより、回数や期限を考えながら随時ステップアップしていくことをお勧めします。むしろ体外受精の方が、妊娠率が高いことを考えると、早めに妊娠できることで、心的・身体的な部分や通院そのものの負担はむしろ軽くなるという可能性もあります。

3. 人工授精を続ける場合の成功率や改善策について

人工授精(IUI)の妊娠率は、一般的に 1回あたり5〜10%程度 とされています。
改善策としては、排卵誘発剤の併用(クロミフェンやレトロゾール+必要に応じてFSHやHMGなどの注射)が妊娠率を改善します。一方で多胎妊娠になるリスクも上昇するので注意が必要です。

4. 流産後の人工授精における体への影響や注意点

流産後の子宮は通常、1〜2周期で回復し、人工授精や自然妊娠に支障はありません。ただし、妊娠時の子宮内組織が一部残存し、出血しやすい病変としてしばらく残存することがありますので、十分にエコーや子宮鏡検査で子宮内膜の状態の回復を確認してから治療再開することが望ましいです。また、流産手術後に子宮内腔の癒着が生じることもありますので、内膜がきれいに形成されているか?こちらも確認が必要です。
流産後の場合、次に妊娠成立したとしても、心理的なストレスや不安が強くみられる傾向があります。医師や看護師、必要な場合には心理カウンセリングなども行いながら治療できる環境が望ましいと考えています。

5. 流産経験がある場合の妊娠継続のためにできること

流産の原因の多くは「受精卵の染色体異常」であり、防げないことが多いですが、2回の流産歴がある場合には、不育症として流産しやすい状態がないかを不妊治療再開前に精査することとお勧めいたします。特に12週以降の死産があれば、抗リン脂質抗体症候群については少なくとも検査しておきましょう

他にも血液凝固因子や子宮形態、甲状腺ホルモンなどに異常がないか、子宮鏡や子宮内細菌叢など、子宮内の環境やその他の内科的合併症などについての精査をしておきましょう。特に子宮内膜ポリープを2回手術していることからは、慢性的な子宮内の炎症があることも想定されます。
また、流産を繰り返す夫婦の3-5%程度に、ご夫婦のいずれかに流産しやすい染色体パターンを有しておられることもあるため、必要に応じて検査し、結果に応じて遺伝カウンセリングなどをお勧めすることもございます。

まとめ

まずは不妊治療再開の前に、なぜ流死産したのか?についての精査を行うことが大事です。

その結果に応じて、「妊娠継続」のためにどのような治療ができるのかを方針として固めておく必要があります。
年齢的には確かに体外受精へのステップアップについては現実的な選択肢と考えますので、卵巣予備能評価も行いながら、総合的判断をもとに回数の期限を区切っての人工授精が望ましいと思います。
可能ならば前述のような精査ができる不妊治療専門施設に転院し、治療内容を検討していただくことをお勧めします。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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