【Q&A】転院後に薬中止、不安です。~船曳先生【医師監修】

りのさん(35歳)

転院前と転院後で薬の処方が代わり、何か正解なのか心配なったので質問してみることにしました。

転院前の病院では、HOMAーRの結果が3.20で耐糖能障害で診断され、グリコランが一日3錠処方されました。
飲み忘れると妊娠に影響するので飲み忘れないように、と念押されました。
転院後の病院では、初診で不要とのことで中止になりました。

産婦人科学会の見解を確認したところ、主に肥満やPCOSの人へ処方する薬とのことで、採卵から中止ということで理解しました。(間違っていたら申し訳ありません。)

転院前は移植後の妊娠判定まで飲み続けていたのが正しかったのか不安になりましたし、転院後の病院では、採卵前なのに中止してしまってよかったのか不安になりました。

上にも記載しましたが、肥満でもPCOSでもありません。それぞれの病院の経験によるそれぞれの判断なのかもしれないですが、どのように考えたらよろしいでしょうか。

オーク銀座レディースクリニックの船曳先生にお話を伺いました

【医師監修】オーク銀座レディースクリニック 船曳美也子 先生
日本生殖医学会生殖医療専門医・指導医。日本産科婦人科学会専門医。母体保護法指定医。神戸大学文学部心理学科、兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学、西宮中央市民病院、パルモア病院勤務を経て医療法人オーク会へ。エジンバラ大学で未成熟卵の培養法などを学んだ技術と自らの不妊体験を生かし、患者さんのライフスタイルなどに合った診療を行う。また、早くから不妊と肥満の関係性に着目し、2ヶ月で14kgの減量に成功した患者様の排卵障害が改善したことから、ダイエット・プログラムを発案。国内外の学会発表多数あり。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

こんにちは。オーク会の船曳美也子です。今回はグリコラン®の適応が院により異なる点と、妊娠に与える影響というご質問と理解しました。

まず、後者の妊娠に与える影響についてです。グリコラン®の添付文書からは、妊婦または妊娠の可能性のある女性には投与しないこととなっていますが、文献で傕奇形性を示唆する報告はなく、妊娠判明したら早期に治療中止という方針も、問題ないと考えられます。ですので、前医で妊娠判定までのみつづけていたのが正しかったか、についてのお答えは、問題はないということです。

では、前者の質問、つまり、グリコラン®の内服が適応かどうか、についてです。
グリコラン®の有効成分はメトホルミン塩酸塩で、インスリン抵抗性改善薬です。炭水化物が分解され、小腸から吸収され、血液中に放出された糖は、筋肉の細胞にとりこまれてエネルギーにかわります。この取り込みに必要なのが、インスリンというホルモンで、インスリンがあると、糖を筋肉へとりこむGLUT4トランスポーターというものが働いて、糖を筋肉にとりこみます。インスリンがあるのに、糖が筋肉内にとりこまれない状態がインスリン抵抗性で、この薬はこのGLUT4の発現を促し、インスリンが作用しやすくするので、糖尿病の治療薬として保険適応があります。

インスリン抵抗性は、空腹時血糖とインスリン分泌量で計算されます。検査会社により基準値が異なることがありますが、HOMA-R≧2.5でインスリン抵抗性ありと判断されることが多いです。
 
不妊治療での保険適応は、PCOS(つまり排卵障害がある状態)で、インスリン抵抗性や肥満があるかたのみが対象です。インスリン抵抗性が高いと、インスリンが利用されず、卵巣内が高インスリン状態になるため、成熟卵胞が抑制されたり、卵巣からの男性ホルモン分泌を促し、排卵を抑制したりするためです。

では、今回のように、PCOSではない、つまり排卵障害がないが、インスリン抵抗性のある方に保険外であるが処方すべきかどうか、が問題になります。現状のガイドラインや論文では、基本、メトホルミンはインスリン抵抗性があるPCOSの方に限り推奨、とされていますので、別院で不要とされたのはガイドラインにのっとってという判断と考えられます。

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