【Q&A】空胞ばかり、刺激法を変えるべき?~西川先生【医師監修】

ワドヤンさん (38歳)
二人目の妊活で今月より採卵(PPOS法)するために通院を始めました。低AMHの割には生理1日目のE2:33.16、LH:5.6 、FSH:7.08と数値は悪くないようでした。
ゴナールエフの自己注射で刺激を行い、右に3つ、左に2つ卵胞が見られました。低AMHですが、刺激がうまくいったと喜んでおりましたが、実際採卵してみると空胞ばかりで、1つ未成熟卵が採れただけでした。このまま同じ治療で刺激しても空胞が続くのか不安です。違う刺激法がいいでしょうか?また、卵子が取れるようにするには何が必要でしょうか?漢方や鍼治療も再開しようと思っています。

西川先生に聞いてきました

【医師監修】とよた星の夢ARTクリニック 院長 西川和代 先生
旭川医科大学卒業。旭川日赤病院、旭川医科大学病院、木場公園クリニック、愛育レディースクリニックなどで経て、平成30年1月より現職。日本産科婦人科学会認定専門医。日本生殖医学会認定 生殖医療専門医。臨床遺伝専門医。各治療のメリットデメリットをお伝えし、最終的にはご夫婦の意思を最大限に尊重する「インフォームドチョイス」を重視。 ご夫婦の納得のいく治療を心がけてます。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください

FSHの数値は良く、卵胞発育も複数見られていることは大変期待が持てます。一方穿刺してみると、未熟卵1個であったとのことは残念な結果でしたね。AMHの値が低い場合、卵巣機能の低下により採卵しても空胞であるということは臨床上経験します。
個人差が大きい部分ではありますが、刺激法や生活習慣の見直し等で改善していくケースもありますので、根気強く対策していくことが大切です。

対策として

①排卵誘発法の見直しをおすすめします。
PPOSから低刺激法に変えてみるのも良い方法かと思います。
PPOS法では黄体ホルモン製剤による排卵抑制のため、ご自身の脳下垂体から分泌しているFSH(卵胞刺激ホルモンやLH(黄体化ホルモン)が抑制されています。LH(黄体化ホルモンの抑制が強すぎると卵胞や卵子の成熟に影響を及ぼす場合があるので、刺激方法の変更を検討します。注射剤としてゴナールエフ(FSH製剤)のみを使用されている場合には、HMG製剤などLH(黄体化ホルモン)を含む製剤を追加することで、卵胞の成熟を促すことができる可能性があります。クロミフェンやレトロゾール内服も内因性(ご自身の脳下垂体からでる)FSH、LHホルモンの分泌を促し、自然排卵に近い形での排卵誘発となることから、FSH LHホルモンのアンバランスによる卵胞の発育不良を改善してくれる可能性があります。採卵のタイミングも重要です。卵胞を十分に発育させてから採卵した方が良好な卵子が得られる方もいれば、逆にやや小さめの卵胞を穿刺した方が良好卵子を得られるという方もいます。患者様ごとに産卵に適した時期が異なるという経験をします。採卵の時期は卵胞の大きさとホルモン値から決定しているので、主治医に相談してみると良いと思います。

良好な卵子や胚が得られない場合にはトリガーの変更も検討します。採卵2日前の夜にトリガー注射やスプレーを行いますが、こちらもhCG単独、GnRHアゴニストのスプレー単独ではなく、両者を併用したデュアルトリガーを行うなど工夫してみることで、採卵率が改善することがあります。

②栄養療法の重要性:高たんぱく抵糖質が大切!
現代人が栄養不足に陥っていると言われると驚くかもしれませんが食事はしっかり取っていても体に必要な栄養素が不足しているということは数多く経験します。
良好な卵子や胚が得られない場合、卵胞の発育や卵子、精子の合成に必要な栄養素が不足しているかもしれません。
タンパク質やビタミン、亜鉛などの微量元素が不足する一方、糖質は過剰摂取となり、身心のトラブルの原因となっているケースがあります。下記は一般的な栄養指導の内容ですので必要な部分があれば取り入れてみて下さい。

<低糖質(低GI)のメリット>
糖質の過剰摂取は、血糖値の乱高下を引き起こし、インスリン分泌を増加させることで卵巣機能に悪影響を及ぼす可能性があります。低GI食(血糖値の上昇を緩やかにする食事)を意識することで、ホルモンバランスを整え、卵巣への負担を軽減することが期待されます。

ポイント
・精製された糖質(白米、パン、麺類、菓子類)の摂取を控える
・食物繊維が豊富な野菜や全粒穀物を積極的に取り入れる
・食事の順番を意識する(野菜→タンパク質→炭水化物)
・インスリン抵抗性がある場合(PCOS傾向など)、低糖質食が特に有効

<高タンパク質のメリット>
卵子の成長やホルモン合成には、十分なタンパク質摂取が不可欠です。特に低AMHの場合、卵巣の機能を維持するためにアミノ酸の供給が重要となります。

おすすめのタンパク質源
・良質な動物性タンパク質(鶏むね肉、魚、卵、赤身肉)
・植物性タンパク質(大豆製品、ナッツ、豆類)
・オメガ3脂肪酸を含む食品(青魚、亜麻仁油、えごま油)
※タンパク質の代謝にはビタミンB群が必要です。ビタミンB群の摂取もおすすめします。

<微量元素の役割と重要性>
亜鉛やマグネシウム、セレンといった微量元素は、卵子の発育や受精能力をサポートします。

・亜鉛:細胞分裂を促し、卵子の質や受精後の発育を向上
・マグネシウム:ホルモンバランスを整え、ストレス軽減にも寄与
・セレン:抗酸化作用があり、卵巣の老化を防ぐ

<ビタミン摂取の重要性>
ビタミンB、ビタミンC、ビタミンDの摂取も大切です

・ビタミンB6・B12・葉酸:タンパク質の代謝を助け細胞の成長、DNAやホルモン合成をサポートする。また、ホモシステイン(妊娠に悪影響を及ぼす代謝物)の代謝を促し、卵子精子の質の改善や着床率の向上、流産防止に関与する。
・ビタミンC:抗酸化作用により精子・卵子の酸化ストレスを軽減し、受精や胚発育をサポートする。
・ビタミンD:卵巣機能子宮内膜の受容性を向上させ、着床率を高める効果がある。また抗炎症作用により子宮内膜の環境を整える。

③オ―ソモリキュラー栄養解析について
ご自身の自覚症状だけでは自分の栄養状態がわかりにくいため、当院では採血検査でオ―ソモリキュラー栄養解析を行い不足している栄養素が採血の結果からわかるようにしています。不足している栄養素を正確に把握し補うことで効率良く体質改善を行うことができます。

④心のケアもとても大切です。
不妊治療は、身体だけでなく心にも大きな負担がかかるものです。思うような結果が出ない時には不安や焦りを感じることもあります。そんな時には一人で悩まず、熟練した不妊カウンセラーやコーディネーターに相談して下さい。心の辛さだけではなく治療に対する疑問や不安も解消することで、一歩前へ進む力につながっていくのではないかと思います。当院では、院内、院外を問わず、不妊治療を行っている患者様へのサポートを行っております。転院なども気にせずにご利用頂けます。

長くなりました。どの選択が最適かは、状況や体質によって異なりますが、治療法を見直すことや、栄養や心のケアを取り入れることで、少しでも良い方向へ進んでいかれることを願っています。今、この瞬間の積み重ねが未来につながると信じて無理をならさず一歩一歩進んでください。心より応援しております。

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