【Q&A】自然周期かホルモン補充周期か~村田先生【医師監修】

ぽんさん (33歳) AMH:16.47

<検査・治療歴>
もともと半年に1回ほどの頻度で生理不順があり、妊活開始後半年で不妊治療クリニックを受診。プロラクチン若干高め、PCOSぎみと診断。フェマーラを服用し排卵させ、4回人工授精を行いましたが、妊娠せず、夫が乏精子症ということもありステップアップ。レコベル6μgを9日間自己注射、採卵前日は点鼻薬ブセレリンで採卵に臨み、24個採卵、そのうち4個を凍結(4BB、4BC×2、4CC)。採卵1週間前から下腹部痛が酷く、当日は歩行も困難。採卵後卵巣が10cmに腫大、腹水も多かったことから採卵当日に入院。

<現在の治療方針>
昨年9月に初採卵し、自然周期で移植予定でしたが、その後4周期まともに排卵せず。エコーではPCOSの症状が強く出ている様子。卵が育つのを待ってみたり、それでもダメな時は生理を来させる薬を服用するなどしています。

<相談内容>
自然周期で移植を予定していましたが、ここ4周期排卵しなかったため、薬を使った移植に切り替えるか迷っています。
採卵で卵巣にダメージが大きかったのかと思いますが、そのような状態でホルモン補充周期に切り替えても問題ないでしょうか。それとも卵巣をもう少し休ませた方が良いのでしょうか。
また、主治医からは「完全な自然周期」か「ホルモン補充周期」の2択を提示されましたが、以前使っていたフェマーラ等の排卵誘発剤を利用しての移植はあまりしないものなのでしょうか。
(主治医に排卵誘発剤を用いての移植を聞いてみたところ、あまり実施していないようでした)。

ご助言よろしくお願いいたします。

ARTクリニックみらいの村田先生にお話を伺いました。

ARTクリニックみらい 院長 村田泰隆 先生
1994年 名古屋大学医学部卒業後、安城更生病院にて産婦人科全般に従事。1998年 名古屋大学付属病院にて、周産期・不妊症を専門に診療および研究。2003年 名古屋大学医学部大学院卒業後、IVF大阪クリニック・なんばクリニックにて4年にわたり体外受精年間1500周期以上の臨床経験を積む。2007年 竹内病院トヨタ不妊センター長、2010年 エンジェルベルクリニック不妊センター長を経て、2016年 ARTクリニックみらい開院。7年間で約5,500例を妊娠出産に導く。個々の背景や将来の家族計画に合わせた治療を信条としている。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医学会認定生殖医療専門医。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

●ぽんさんへ

多嚢胞性卵巣症候群(PCOSに伴う排卵障害があるようですね。AMHが非常に高く、採卵後に卵巣が腫れた(OHSS:卵巣過剰刺激症候群)ことも、多嚢胞卵巣特有の副作用と考えられます。胚盤胞が4つ凍結保存できたとのこと、移植に向けた準備を進めている中で、なかなか移植の機会が得られず、迷われているのですね。
「完全な自然周期」での移植を予定していたものの、排卵が起こらず移植できていないとのこと。もともと半年に1回ほどしか月経がなかったため、なかなかチャンスが巡ってこないことは想定の範囲内です。PCOSでは、生活習慣の見直しやインスリン抵抗性改善薬の服用で排卵周期の回復を期待しますが、即効性はなく時間がかかることが多いです。
すでに体外受精のステージに進まれていることを考えると、半年以上待つ可能性のある自然排卵にこだわるよりも、「排卵誘発剤を用いた移植」または「ホルモン補充周期での移植」の2択で、より迅速確実に治療を進めるのが良いのではないでしょうか。フェマーラ(レトロゾール)で排卵誘導ができていたとのことなので、排卵誘発剤を用いた移植は問題なく可能です。
また、採卵からすでに4か月以上が経過しているため、卵巣への採卵後の影響はほぼ消えていると考えられます。したがって、追加で卵巣を休ませる必要はなく、ホルモン補充周期への切り替えも問題ありません。

●「ホルモン補充周期」と「排卵誘発剤を用いた移植」の比較

それぞれの方法には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
(1)ホルモン補充周期
〇メリット
• ホルモン環境を安定させやすく、高い妊娠率が期待できる
• 移植日を計画的に決められる(通院回数が少ない)
✕ デメリット
• 妊娠初期までホルモン補充が必要で、薬剤費がかかる
• 最近の研究で、癒着胎盤などの周産期リスク上昇の可能性が報告されている(因果関係は不明ですが、黄体が存在しないためではないかと考えられています)
(2)排卵誘発剤を用いた移植
〇メリット
• 黄体が存在する自然に近い環境での移植が可能(ホルモン補充が不要または最小限)
• 最近の報告では、ホルモン補充周期よりも周産期リスクが低い可能性が示唆されてい
✕ デメリット
• 排卵を確認する必要があり、スケジュール調整が難しい
• 移植日を事前に決めることができず、通院・検査の回数が多くなる
主治医の先生からは「完全な自然周期」か「ホルモン補充周期」の二択を提案されているとのことですが、排卵誘発剤を用いた移植(排卵周期)も選択肢の一つとして考えられます。治療方針や考え方は施設や医師によりさまざまですが、再度主治医と相談してみてもよいかもしれません。
いずれにせよ、ぽんさんにはまだ複数の選択肢があり、妊娠の可能性は十分にあります。納得のいく方法を選択して治療を進めていってください。近いうちに、コウノトリが訪れることを願っています。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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