二人の合い言葉〝大丈夫〟を支えに わが子に会えるまで頑張ります。
Eさんはまだ20代なのですが、不妊治療専門クリニックでいきなり顕微授精からスタートすることになりました。採卵2回、顕微授精5回試みるもうまくいきません。
心が折れるたびに支えてくれるのは夫・Sさんの温かい言葉でした。
20代なのに最初から顕微一択と言われて
Eさん(28歳)が夫・Sさん(31歳)と出会ったのは2022年5月。最初からフィーリングが合い、お互いに一生そばにいたいと思ったそう。2カ月後には結婚を決意し、23年1月に入籍しました。
「結婚前から、子どもは早く欲しいねと話していて。でも、私がもともと生理不順だったので、妊娠しづらいかなという予感はありました。実際、結婚して半年経ってもまったく兆候が見られなかったので、早めに行動しようと思い、不妊専門のクリニックへ行きました」とEさん。
内診で超音波検査をしたところ医師から「子宮が大きいね。卵巣と子宮が癒着しているし、排卵もうまくいっていない。子宮内膜症の兆候が見られるね」と言われました。その後、卵管造影検査で卵管狭窄であることが判明します。
「自宅で夫にそのことを伝えようとした時、ふだん泣かない私なのですが、涙が溢れて止まらなかった。でも、彼は『早めにわかってよかった。夫婦二人の問題なんだから一緒に頑張ろう、大丈夫!』と言ってくれました。
その翌日。EさんはSさんの精液を病院に届け、その場で検査を受け、結果を聞きます。医師からはSさんが精子無力症、乏精子症であること、そして「このままでは妊娠は難しい。顕微一択です」と告げられたのです。
「不妊治療はタイミング法から始まって人工授精、体外受精とステッ プアップしていくものだと思っていたのにいきなり顕微授精なんて。しかも、私はまだ20代……。心が追いつかなくてなかなか自分事とは思えませんでした」
Eさんは先生に「顕微授精なら妊娠できますか?」と聞きました。「うーん。やってみないとわからないですね」と難しそうな顔でひと言。その時のつらさを引きずりながらSさんに報告しました。するといつものように明るく「精子だってゼロじゃないんだから大丈夫だよ」と言ってくれました。
結果が出ない原因は毎回「卵の質」と言われ
Eさんは23年9月から24年10月までの間に採卵2回、顕微授精を計5回行いました。そのなかで流産も2回経験しています。最初は2回目の移植の時。4BBを2個移植し、1つが着床したものの、8週目で流産、自然排出しました。2度目は4回目の移植の時。4BBを2個移植し、1個着床したのですが、BT14、hCG19・4で化学流産となってしまいました。
「結果が出るたびに先生は『やはり卵の質に問題があるね』と言います。事実、採卵では10個以上採れていますし、受精率も9割。ただ、胚盤胞率が低くて毎回2~3割です。4AAの胚盤胞もあってグレードはいいけれど、それは見た目の問題で、中身が良くないみたいで」
結果が出るたびにひどく落ち込み涙するEさん。その姿を見るのは正直つらいものがあるとSさんは話してくれました。「ただ、落ち込むのは精神的にも良くないですし、体にも悪い影響を与えてしまう気がするので、彼女がマイナス感情にならないよう、『大丈夫 !』と言い続けていますね」とSさん。実は、“大丈夫!” は付き合い始めた頃からの二人の合い言葉とのこと。
「私がつらい時はいつもその言葉で励ましてくれる。その一言で本当に救われています」(Eさん)
採卵後はEさんをもてなす「接待旅行」
言葉をかけてくれるだけでなく、Sさんは労いも忘れません。Eさんがリフレッシュできるようにと、採卵が終わった後は必ず「接待旅行」と称してご褒美の旅に連れ出してくれるそうです。
「採卵までの排卵誘発剤の注射が本当に痛くてつらいのですが、それを労って採卵後、私が行きたい場所へ連れてってくれて、欲しいものは何でも買ってくれるという“接待”でもてなしてくれるんです。お陰ですごくリフレッシュできて、また頑張ろうという気持ちになります」とEさん。
基本的に不妊治療の主導はEさんなのですが、話を伺っていると二人できちんと話し合い、足並み揃えて頑張っていることがひしひしと伝わってきます。たとえば、朝のトマトジュースとミックスナッツといった食事はもちろん、卵子の質、精子のためにDHA、カルニチン、ビタミンD、亜鉛、葉酸、コエンザイムQ10などのサプリも毎日二人で飲むことを習慣化しているそう。
また、Eさんが悩んでいる時、Sさんはいつも的確なアドバイスで勇気づけてくれると言います。
「私は優柔不断で、先生から子宮内膜胚受容期検査をすすめられた時もお金もかかるし、2周期も移植を休まないといけないからどうしようかと。でも、相談したら『やったほうがいい 』とひと言。迷いはすぐ消えました」
なぜすぐ決断できるのか、Sさんに聞いてみると―。
「正直、僕も精子が少なかったこととかショックを受けることはあります。でも、落ち込んでいても前に進めません。それより妻が20代で僕が30代前半という早い時点でいろいろ判明してむしろよかったとポジティブに受けとめています。とにかく今やれることをやっていきたい。彼女と同じぐらい僕も子どもが欲しいですから」
顕微授精で移植ができる保険適用は6回なので、残りはあと1回。ただ、保険が使えなくなっても、一人授かるまでは治療は続けるとEさんたちは決めているそうです。
「よく『不妊治療は出口の見えないトンネル』と言われますが、まさにその通りだなと。でも、幼い頃からお母さんになるのが夢だったので何とかかなえたい。今後はPGT-Aのことや転院も検討したいと思っているところです」
“大丈夫”を胸にポジティブに治療と向き合う二人に幸あれと願うばかりです。