【Q&A】不妊治療と体重増加の関係~重富先生【医師監修】

Mさん (31歳)
流産してから体重が増え、さらに不妊治療をしてからも増えてしまい、運動習慣をつけましたがなかなか痩せません。
もともと太りやすい体質ではなかったのですが、流産や不妊治療によって体質が変わることはありますか?前回は自然妊娠しましたが、その後、男性不妊発覚しました。
男性不妊が原因で流産になることはありますか?

重富先生に聞いてみました。

【医師監修】ASKAレディースクリニック 副院長 重富洋志 先生
2003年、奈良県立医科大学卒業。星ヶ丘厚生年金病院、奈良県立医科大学で産婦人科医の経験を重ね、2017年よりASKAレディースクリニックの副院長として従事。患者様が納得して治療を進めてもらえるような診療がモットー。患者様の生活スタイルに合わせた診療を行い、土日祝だけでなく、夜は20時まで受付時間を設けている。生殖医療専門医、日本産科婦人科学会専門医。趣味はマラソン。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

流産や不妊治療を経験した後に体重が増加したことについて、それらの経験が体質に変化をもたらす可能性はあるのでしょうか?

体重が増加したことについて、体質が変わってしまったのではないかと不安に感じられていると思います。不妊治療や流産が直接「体質を変える」というわけではありませんが、治療の過程やホルモンの変化、ストレスなどが体重に影響を与えることは十分に考えられます。以下のような要因が関係している可能性があります。

1. ホルモンバランスの変化
不妊治療では、様々なホルモンを使用することが多く、これらが体内の水分量や代謝に影響を与えることがあります。特に黄体ホルモンは、体に水分をため込みやすくし、一時的に体重が増えたように感じることがあります。治療が終了すれば徐々に元に戻ることが多いですが、個人差があるため、回復には時間がかかることもあります。

2. 流産後のホルモン変動
流産後、体は妊娠前の状態に戻ろうとする過程でホルモンバランスが変化します。この時期に代謝が一時的に落ちることがあり、以前と同じ生活をしていても体重が増えやすくなることがあります。また、体がエネルギーを蓄えようとする働きが強まることもあります。

3. ストレスの影響
不妊治療や流産の経験は、心にも大きな影響を与えます。ストレスがかかると、体は「コルチゾール」というホルモンを分泌します。コルチゾールの分泌が続くと、食欲が増したり、脂肪が蓄積しやすくなったりすることが知られています。また、ストレスによって睡眠の質が低下すると、代謝が落ちることもあります。

4. 生活習慣の変化
不妊治療中は体を大切にしようとするあまり、運動を控えたり、食生活が変わったりすることがあります。また、治療のストレスから甘いものを食べたくなったり、食生活が乱れたりすることもあります。こうした生活習慣の変化が、体重増加につながることがあります。

体重増加が不妊治療に影響を及ぼす可能性はありますか?

体重の増加が不妊治療に影響を与えるかどうかは、体重の増加の程度や体脂肪の割合によるところが大きいです。適度な体重増加であれば、妊娠に大きな悪影響を与えることは少ないですが、過度な体重増加(肥満)がある場合、妊娠のしやすさや治療の効果に影響を及ぼす可能性があります。
ただし、患者様の身長158cm、体重60kgの場合のBMI(Body Mass Index)は、約24.0です。このBMI値は、日本肥満学会の基準では「普通体重」に分類されます。そのため、極端な体重増加がなければ過度に心配する必要はありません。

なお、体重増加の具体的な影響は以下のものが考えられています。

1. ホルモンバランスの乱れ
体脂肪が増えると、脂肪細胞からエストロゲンが過剰に分泌されることがあります。これにより、排卵のリズムが乱れたり、月経周期が不規則になったりすることがあります。
また、体重増加によりインスリンの働きが悪くなると、卵巣の働きに影響を与え、排卵しにくくなることがあります。特に多嚢胞性卵巣症候群の方は、体重の影響を受けやすいとされています。

2. 不妊治療の成功率への影響
体重が増加しすぎると、排卵誘発剤の効果が出にくくなったり、体外受精の際の卵の質が低下したりする可能性があります。また、子宮内膜の状態にも影響を及ぼし、受精卵の着床しやすさにも関係してくることがあります。

3. 妊娠後のリスク増加
体重増加が大きい状態で妊娠すると、妊娠糖尿病や高血圧症のリスクが上がることが知られています。また、流産や早産のリスクがわずかに高まる可能性もあります。

自然妊娠した後に男性不妊が発覚しましたが、男性不妊が流産の原因となる可能性はあるのでしょうか? また、その場合の男性不妊の種類 やその理由について教えてください。

男性不妊と流産の関係について男性不妊の一部の要因が流産のリスクを高める可能性はありますが、必ずしも直接的な原因とは言い切れません。流産の原因は多岐にわたり、多くは受精卵の染色体異常や女性側の状態などが関係しています。
しかし、男性側の精子に問題がある場合、受精卵の発育がうまく進まないケースもあることがわかってきています。男性不妊にはさまざまなタイプがありますが、流産のリスクと関連すると考えられるものには、精子DNA損傷(精子DNAフラグメンテーション)があります。これは、精子の遺伝情報(DNA)が傷ついている状態です。精液検査では精子の数や運動率が正常に見えることもありますが、受精後に胚の発育がうまくいかず、流産のリスクが高まる可能性があります。原因として考えられるもの
・高度な酸化ストレス(喫煙・飲酒・肥満・ストレス・精索静脈瘤など)
・高熱環境(長時間のサウナや熱いお風呂、ノートPCを膝の上に長時間置くなど)
・加齢(特に40歳以上で増加)
・精巣の炎症や感染対策
・生活習慣の見直し(禁煙・禁酒・バランスの良い食事)
・酸化ストレスを軽減する抗酸化サプリ(ビタミンC・E、コエンザイムQ10など)
・精索静脈瘤がある場合は手術を検討

今回のケースにおいて、男性不妊が流産の直接的な原因であったかどうかを断定することは難しいですが、精子の状態が妊娠の経過に影響を与える可能性はあります。ただし、その影響の割合は決して高くないため、過度にご心配される必要はないと考えます。

現在の体重増加に対する対策として、特に注目すべき生活習慣の改善点や運動習慣の改善方法について、先生のご意見をお聞かせください。

「体重を落とさなければならない」と焦る必要はありませんが、健康的な体を維持することは、不妊治療をより効果的に進めるうえで重要です。

・無理のない範囲で食生活を整える
– 野菜、タンパク質(魚・鶏肉・豆類)、良質な脂質(オリーブオイル・ナッツ)をバランスよく。
– 血糖値が急激に上がりにくい食品(玄米・全粒粉パンなど)を取り入れる。
– 糖分の多い飲み物やお菓子を少しずつ控える。・適度な運動を習慣にする
– 激しい運動は不要。ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの軽い運動を取り入れる。
– 無理せず楽しめるものを選ぶことが大切。

・ストレスをため込まない
– 体重管理は「我慢」ではなく、「心地よく生活を整える」ことが大切。
– 睡眠をしっかりとり、リラックスできる時間を持つ。

もし体重の増加が気になる場合は、少しずつ生活を見直すことで、妊娠しやすい体に近づくことができます。不妊治療を頑張っている中で「体重管理もしなければ」とプレッシャーを感じるかもしれませんが、焦らずにできることから始めてください。
また、体重だけが妊娠に影響するわけではありませんので、「健康的な生活を意識すること」が何より大切です。

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