初めて体験した激痛と命を実感した瞬間
きほさん(33歳)が同い年のオレくんと約2年の交際期間を経て結婚したのは2018年。当初は自己流でタイミングをとっていましたが、いつまで経っても妊娠の兆しが表れなかったため、地元のクリニックを受診しました。
1軒目も2軒目も「先生との相性があまり良くなくて」早い段階で3軒目のクリニックに転院。人工授精を3回試してから体外受精にステップアップし、ようやく本格的な不妊治療が始まりました。
採卵では膀胱を空にする必要があったため、指示通り直前にトイレを済ませていましたが、尿が少し残っていたため急遽、尿道カテーテルを使用。これが過去に経験したことがないほどの激痛で、採卵中にも再び刺されるという悪夢のような時間。移植日にもまた、その瞬間は訪れました。
「尿溜めは必要ないから直前にトイレに行くようにと指示されたのに、処置台で突然、生理食塩水を 1パック入れます、と…。尿道カテーテルの激痛のあと、脳が痺れるほどの尿意で視界はぼやけ、宇宙空間にでもいるかのような感覚のまま移植して、カテーテルを抜く時にもまた激痛でした」
痛みに耐えた3AA胚盤胞の移 植結果は陰性。2回目の移植では自力で尿を溜めて尿道カテーテルを回避し、グレード1から4CCまで育った胚盤胞を移植。胎囊確 認はできましたが、大きさが十分でなく再判定を待つことに。「絶対に大丈夫という気持ちにはなれず、仕事で気持ちを紛らわせながら、大丈夫、不安、大丈夫…と複雑な気持ちで過ごしました」
再判定の日、7週1日で流産が確定。服用中の薬をすべて中止してから2〜3日後、生理のような出血とひどい腹痛があり、大きな塊となって流れ出てきました。「ショック以外の言葉が思いつかない ほど悲しくて。一カ月お腹の中でずっと一緒に過ごしたから、お腹と心にぽっかりと穴が空いたような感覚でした。でも、本当に存在してくれていたんだなって感謝の気持ちもあって…」命を形として初めて実感したきほさんとオレくんは、さらに専門的な治療を受けるため、県内でもっとも有名なクリニックに転院しました。
耳を疑う言葉に衝撃を受け、「最後の砦」に賭けた
4軒目のクリニックで凍結できた胚盤胞は5ABと5BCの2つ。先に移植した5BC胚盤胞は化学流産という結果でしたが、きほさ んはもう一つの移植を進めることに気持ちを切り替えました。
ところが移植当日の朝、担当者から「凍結胚の融解に失敗し、移植できなくなった」と事務的に告げられました。電話を切ったあともしばらく放心状態が続いたそう。
「そんな私を見て心配したオレく んが一生懸命慰めてくれているうちに、徐々に実感が湧いて涙が止まらなくなってきて。私たちにとって一つひとつ大切な胚盤胞なのに、 なんでって…」
泣いても落ち込んでも二人の受精卵が戻ってくれるわけじゃない。今できる最良の選択をするしかない。きほさんとオレくんは、「日本の最後の砦と言われているクリニック(きほさん談)」に希望を託すことにしました。
「絶対、妊娠できる!」 気持ちは先走ったものの…
「ここでダメなら諦められるって思えるくらいのクリニック」に5軒目にしてようやくたどり着いたきほさんは、血液検査でOHSS(卵巣過剰刺激症候群)であることを知り、オレくんは先端の丸い精子が多いことが判明しました。
低刺激でも採卵数は多く、初めての顕微授精後に「胚盤胞のグレードは良さそう」と医師から嬉しい報告。
「さすが、最後の砦。この時は絶対 ここで妊娠できるっていう気持ちになっていました」。
4回目の移植後、「記録のため」「誰かの参考になれば」と、BT5から自宅でのフライング検査を配信。陽性の印が出ても喜びすぎず、薄くなっても落ち込みすぎず、1日2回、検査を実施したきほさんでしたが、BT7のクリニックでの判定日、hCGは少し上がったものの妊娠継続率はあまり高くないという説明を受けました。「信じれば大丈夫だと思いつつ、再判定まで何も拠り所がないのはきついと思い、自分で検査を続けていたけど、だんだん薄くなり、判定日を待たずに真っ白に。その2〜3日後に生理がきてしまい、自然流産になりました」。
取材時は5回目の移植周期に入っていて、夫婦の染色体検査と不育症検査の結果待ちでした。転座など染色体の変化が見つかった場合、どちらにあったのかを聞くか、変化があったという事実だけを聞くか、選ぶことができたそうですが、二人が選んだのは後者。
「不育症は薬などで改善の余地は あるけど、染色体は生まれもったもので治療法はないわけだから、どうしようもないですよね。一生抱えることになるし、どちらか一方がつらい状態になるのはいやだから、犯人探しのように特定したくなかったんです」寄り添いながら治療に向き合っ ている二人らしい答えでした。
誰かのために、自分のために、 ありのままを発信し続ける
「きほ🐨妊活戦士」では涙を見せる回もありますが、「これ以上ないっていうほどみんな頑張っているから、最大限に優しい言葉を考えながら発信することを心がけています。見てくれる人がいると思うだけで私自身もすごく救われるような気持ちになっているので、私なりの発信を今後も続けていこうと思っています」と語るきほさん。動画から伝わる人柄と、通院ルーティンとしてたびたび登場するご褒美スイーツに、多くのフォロワーさんも癒され、勇気づけられているはずです。