相談者:よっしーさん(33歳)
8月AIH後、ルトラール服用。月経が来ましたが、生理周期が通常よりも早く25日(通常は29-32日周期)だったため、通院スケジュールが合わず9月のAIHは断念しました。
10月AIH後もルトラールを服用。月経が来たため、生理開始から11日目に通院予約を入れています。ルトラールを服用すると、生理周期が狂ってしまうことがあるのでしょうか。
前回がたまたまなのか、今後はもっと早く予約を取ったほうがよいのか知りたいです。
藤沢IVFクリニックの佐藤卓先生にお話を伺いました。
2002年岩手医科大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室入局。同医学部産婦人科学教室助教、医療法人財団荻窪病院虹クリニック院長等を経て、2024年8月に藤沢IVFクリニック開院。国内のPGT-Mの第一人者であり、細胞1つからの遺伝子解析の研究は今日のPGT-Mの検査方法の確立につながっている。日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医。日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医。日本生殖医学会 生殖医療専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
よっしー様、人工授精 (artificial insemination with husband’s sperm: AIH or intrauterine insemination: IUI)の周期で、排卵後にルトラールを使用しているということでした。
おそらく、黄体機能不全と呼ばれる病態 (高温期が長く継続しない、あるいは排卵後の黄体ホルモン=プロゲステロンの分泌が十分になされていないと診断された状態)に対する処方だと思います。黄体機能不全がなくとも、妊娠の可能性をわずかでも高めるために処方されることがあります。
人工授精の周期に限らず、体外受精の周期ではないならば、排卵後の黄体ホルモンの使用が妊娠率・生産率を向上させるとする報告は存在しません。また、「黄体機能不全」という病気自体が存在するのか?近年は疑問視されています。したがって、いかなるタイプの人にこの薬剤の投与が有効となるかについては明らかではなく、私自身は使用する場面が思いつきません。
ルトラールを内服した後で、次の月経周期の初日が早まることはあり得ると思います。ただ、これは一般的な事実とは言えませんし、次周期も同様に再現されるとは限りません。
ある程度内服し続けていた黄体ホルモン製剤を急に断薬しますと、脳からの分泌が抑制されていた卵胞刺激ホルモンが、そのリバウンドにより普段より急峻に分泌され、引き続く周期では「排卵までにかかる時間が短縮される=排卵が早まる」というメカニズムが考えられます。「排卵が早まる=一定期間中での排卵の回数が増加する」ことが成り立つならば、「累積妊娠率」は上昇するかも知れません。しかし、周期の短縮が、妊娠にポジティブな影響ともたらすという考えは、あまり一般的ではありません。むしろ、排卵の時期を予見したり、最適なタイミングで受診したりすることを難しくするのではないかとも思います。
29-32日型の月経周期の方であれば、12日目より以前に排卵してしまうことは少ないと思われます。一方、25日の間隔で月経が来る可能性があるならば、早ければ8日目にも排卵してしまう人が、20に1人程度に存在します。今回の周期も、前周期の排卵後にルトラールを内服しているのであれば、少し早めに受診しておくこと、すなわち8日目頃の受診は決して早過ぎないかも知れません。もしクロミッドを内服している周期であれば、その飲み終わりぐらいの受診でも良さそうです。クロミッドには、その内服中に排卵を制御する効果も期待できるからです。
いずれにしても、最終的に人工授精で妊娠を目指すのであれば、ルトラールの内服は必須ではありません。排卵誘発剤は, クロミッドもフェマーラでも、IUI周期であれば似たような成績だと思いますので、どちらでも良いと思います。フェマーラで効きが悪かったというのが、どういう事実に基づいているのかお伺いしたいところですが、周期ごとに薬剤への反応は異なりますので、いろいろ試して頂いて良いと思います。
人工授精での妊娠率は、おおむね10%程度です。3周期程度では、まだまだ成果が出なくとも当然のことです。焦らずに、もう少し人工授精の周期を過ごしながら、主治医と今後の相談を重ねて頂くのが良いと思います。もし、早く妊娠できるならどんな方法でも構わないと考えるのなら、体外受精を考慮することになります。