【Q&A】移植時のホルモン検査~藤本先生【医師監修】

みきさん(31歳)

現在の病院で6個凍結胚ができました。2点質問があります。
1.
前回移植をしたがその病院ではホルモン値をみる血液検査がなく内膜の厚さだけで不安でした。
前に通っていた病院では細かくホルモン値を見ていただいていました。病院によると「血液検査の結果が全てではないから見ない」といわれたが、ホルモン値はそこまで重要ではないのでしょうか?
セカンドオピニオンとして行った病院は不妊治療専門で、血液検査はあるし出して欲しい薬も出してもらえます。胚輸送をして転院すべきでしょうか。

2.
現在の胚盤胞はほとんどAAばかりの良好胚です。5回目の移植となりますが、2個移植すべきでしょうか。
また、AAを2個移植するとどれくらい双子のリスクが上がりますか?

さっぽろARTクリニックn24の藤本先生に聞いてきました

【医師監修】さっぽろARTクリニックn24 藤本 尚先生
日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、臨床細胞学会細胞診専門医。札幌医科大学産婦人科、神谷レディースクリニック 副院長を経て、医療法人社団 さっぽろARTクリニック開院し理事長に就任。2019年5月 医療法人社団 さっぽろARTクリニックn24開院。

※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

2回の流産既往がありますので反復流産ということになると思いますが、1回目はしないとして、2回目の流産時にも絨毛染色体検査はしていないということなので、原因不明な況と言えます。そのためこの状況で行う検査が不育症関連の検査になります。

一般的な抗リン脂質謡などの検査異常なし、夫婦染色体検査異常なしとのことですので、あとは免疫関係検査があります。この検査はどれも保険の効かない自費の検査になってしまいますが、Th1/Th2比を調べる検査などです。説明は、シンプルに記載すれば、自己の免疫が人より強く出てしまっている方の場合に胎児も異物として攻撃されてしまう可能性があるため、検査で陽性の場合には免疫を抑える薬の内服をするということになります。これは保険適用ではなく自費での治療になります。

胚移植の際のホルモン値についてはいろいろな見解があります。これが正解というのはなかなかないのですが、僕はどうしているかといえば、初回の胚移植の際にはホルモン採血をします。2回目以降は初回のホルモン値が問題なければ、検査しません。

子宮内膜が十分な厚みを確保できて(8mm以上)、ホルモン値も異常がなければ胚移植を行いますが、ほとんどの方についてはホルモン値で問題になることはなく、ホルモン値が低いから投薬量を増やすということはありません。

一方で内膜の厚みが基準に到達しない場合には、仮にホルモン値が問題なくても投薬するホルモン量を増量する場合はあります。以上のこともあり、初回の胚移植時にホルモン値に異常がない場合には、2回目以降の胚移植の際にはホルモン採血をしていません。理由は2つです。無駄な採血を減らすためと、2回目以降でホルモン投与量を減らすことは基本的にはしないため、初回でホルモン値に異常がなければ2回目以降に低くなることはないと判断するためです。

そして胚のグレードについてですが、あくまでも胚のグレードは『形態評価』であり『質』をあらわすものではありません。例えば、2つの胚があり、どちらもガードナー分類の4AAとします。つまり見た目はほぼ同じ胚です。でも、1個は30歳の人の胚、1個は40歳の人の胚の場合には、この2つの胚の妊娠率は大きく異なります。もし、グレードが質を反映するものであれば、この2個の確率は同じでなければなりません。

以上も踏まえてリスク評価になりますが、単純に30歳の女性の凍結基準を満たした胚であればAAであれ、BCであれ双子のリスクはそれなりにあると考えるべきです。それは30歳だからです。一方ですでに4回の胚移植をしていて着床が2回ある方であることも踏まえてもやはり双胎のリスクはそれなりに高いと言えます。

ただ具体的に30歳でAAを2個戻しての双胎率が●●%ですという数字データは存在しません。そして、保険での胚移植の残りが2回(6回できるうち回の移植をすでに行っている)ということを踏まえてどういう戦略で進めていくのか考えることになります。

リターンとリスクはトレードオフです。理想はノーリスク/ハイリターンですが、そんな虫の良い話はありません。リターンを多く取ろうと思うとリスクをとらないといけなくなります。リスクを減らしたい場合にはリターンも減ります。しかし、これはどちらが良いというものではありません。このような選択は実は私たちが日々の生活の中でも行っている選択です。仮にどちらかの選択肢を選んで、そちらが正解でもう一方が不正解です、という話でもありません。

だから選択が難しいのですが、残り2回の保険適用での胚移植を双子のリスクを抑えて1個のAA胚盤胞移植をするのか?双胎のリスクを踏まえて1回あたりの高い妊娠率を優先してAA胚盤胞を踏まえて2個移植をするのか?はご夫婦の考え方次第になります。

どちらを選んだから正解というものではありません。じっくりと夫婦で話し合いをして決めることになります。

胚の輸送についてですが、現在は専門業者に依頼が必要となり、費用が高額になります。そのため、転勤などでやむない場合を除いて基本的にはあまり勧めていません。

最後に、不妊治療は細かい部分で、各施設毎にやり方が異なります。各施設の先生が考えてそれが最良と思う方法で診療を行っています。これは自費診療の際には本当にたくさんのことが施設毎で異なりました。これは費用も含めてになりますが、、。今は保険で体外受精を行うことができるようになったので、大きな部分では同じですが、細かな部分での違いがあります(行う検査や投薬の種類や量)。これもどれが正解というものではありません。

ネットで出てきた検査や投薬などを何でもしてくれる施設が必ずしも良い施設というわけではありません。僕自身、不要な検査は極力しないように、そして有用な検査については極力費用が掛からないようにやりたいと考えて日々診療を行っています。こんな検査があるけど私はしなくていいですか?と聞かれた際には、きちんと説明してこの検査は今の現状でのあなたには必要ではないなどと説明しています。どうしても今の施設が信用できないということでなければ、せっかくグレードの良い胚を一緒に作った病院です。そこで胚移植を目指してもよいのかなと思います。

以上になりますが、妊娠できるかの一番の肝はやはり女性の年齢になります。みきさんの年齢であれば必ずや妊娠できるものと思います。失敗が続くと不安になる気持ちもわかりますが、自分と自分の年齢を信じて治療を進めていってほしいと思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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