【Q&A】橋本病の不妊治療~小川先生【医師監修】

はなさん(41歳)

現在、顕微授精を行っています。採卵5回、移植3回、着床はしていません。橋本病を持っていてチラージンを87.5mg服用しています。病院の検査でTSHが2.8だったのでチラージン100mgに増えました。血液検査でプロラクチンの値が21あったのですが、移植時の値として問題ないか知りたいです。

小川誠司先生に教えていただきました。

藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

橋本病と不妊の関連について教えてください。

不妊患者様の中で何らかの甲状腺機能異常を持っている方は少なくありません。特に橋本病などの甲状腺機能低下症の患者様は適切な治療を行わないと流産のリスクが上昇するとされています。一般的に、妊娠を考える場合は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)を2.5μU/ml未満にコントロールすることが良いとされています。質問者様もTSHが2.8のために、チラージンを増量されておられますので、2.5未満になったことを確認してから、移植に臨まれることをお勧めします。
また甲状腺ホルモンとプロラクチンは関連があり、甲状腺機能低下により、TSHが上昇すると、同時にプロラクチンも上昇します。プロラクチンの上昇は排卵抑制や、着床障害の原因ともなりますので、プロラクチンの観点からもTSHを適切な値にコントロールすることが重要です。

プロラクチン値が21なのは、移植時の値として問題ないでしょうか?

プロラクチンの基準値は検査方法により異なりますが、一般的には5〜30ng/mlとされています。従いまして、21 ng/mlであれば、移植には特に問題ないと思います。以前はプロラクチンをできるだけ下げるような治療もなされてきましたが、最近では下げ過ぎも良くないと言われており、先に記載した基準値以内で、症状がなければ積極的な治療は行われなくなりました。またプロラクチンは日内変動があり、早朝や食後に上昇しますので、昼食前などの一定時間に採血されることをお勧めします。

橋本病など甲状腺機能低下症の患者さんの場合、どのような検査や治療を提案されますか?

上記に記載の通り、TSHが2.5μU/ml未満になるよう甲状腺機能を適切にコントロールした上で、移植に臨むよう説明しています。

採卵を連続して行うと経血量が減るということはありますか?

採卵周期にクロミッド®︎を長期、複数回使用すると内膜が菲薄になり、月経量が少なくなることは可能性としてあると思います。また最近よく行われている排卵誘発法であるPPOS法でも内膜が厚くなりにくく、月経血量が減る可能性があります。

今後の治療へのアドバイスをお願いします。

3回の移植不成功を考えますと、着床不全検査は全てやられた方が良いと思います。

着床不全検査には慢性子宮内膜炎検査、適切な着床時期を調べるERA検査、子宮内細菌叢を調べるEMMA/ALICE、免疫検査、自己抗体検査、凝固因子検査などがあります。また検査の結果に応じた対応をされた上で、移植時に多血小板血漿(PRP)などの着床を促進する因子を用いた治療を併用することも可能です。

次の移植の前に何か他にできることがないか主治医の先生によく相談された上で移植に臨むことをお勧めします。

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