妊娠率を上げるためにできること

移植に失敗した場合、次の手は?
妊娠率を上げるためにできること

胚を移植してあとは結果を待つだけ――。不妊治療の最終段階でうまくいかず、悩んでいる方も多いのでは?
この段階で何ができるのか、松本レディースIVF クリニックの松本玲央奈先生にお話を伺いました。

松本レディースIVF クリニック 松本 玲央奈 先生 聖マリアンナ医科大学卒業。東京大学大学院修了。2015 年にはヨーロッパ生殖医学会において着床に関する研究で、最も権威のあるAward など国内外で多数受賞。2020 年松本レディースクリニック/リプロダクションオフィス理事長就任。「患者さん一人ひとりにご納得いただける診断や治療を提供すること」が当院のモットー。

内膜への着床効果を上げる高濃度ヒアルロン酸含有培養液

「受精卵ができて、良好な胚を移植したのになかなか着床しない」と、悩んでいる方は少なくないのではないでしょうか。胚を移植しても、それが子宮内膜にしっかり着かないと妊娠には至りません。一般的にこのようなケースは着床不全といわれており、状況を改善するために当院ではいくつかの方法を患者さんにご提案しています。

そのうちの一つが高濃度ヒアルロン酸含有培養液。着床不全については昔からいろいろ研究されてきました。胚が子宮内膜にペタッと着くように助けてあげれば妊娠に至るのではないかという説もあり、それを実現したのが高濃度ヒアルロン酸含有培養液です。

ヒアルロン酸は粘性のある物質。ベタベタした糊のようなものとイメージしていただくといいかもしれません。そのヒアルロン酸を高濃度に配合した培養液に胚を漬けてから移植すると子宮内膜に着床しやすくなると考えられ、従来の培養液を使った場合と比較すると、妊娠率が上がったという報告もあります。

着床する可能性が上がる培養液を使える選択肢があるのなら、そちらを選んだほうがチャンスも増えると考え、当院でも高濃度ヒアルロン酸含有培養液を導入しています。

さまざまなメーカーがこの培養液を製造・販売していますが、当院では患者さんが安心して移植に臨めるよう、安全性や信頼性・実績・効果などをきちんと検討しています。2003年に発売されてから、さまざまな研究で効果が実証され、世界中のクリニックで100万件以上の胚移植に使用されているメーカーの培養液を使用しています。

2回目の移植から適用。保険診療内で使えます

高濃度ヒアルロン酸含有培養液を用いた胚移植は保険診療の適用(自己負担3000円程度)になっていますが、特殊な理由を除き、初回の胚移植で使うことはできません。基本的には2回目以降の胚移植からということになります。当院でも、1回移植して着床しなかった患者さんに次の手立ての一つとしておすすめしていますが、移植前に治療の選択肢について詳しくご説明しているので、ほぼ全員が使用を希望されますね。

やっと受精卵を得て、最後の段階でうまくいかずに悩んでいる方にとって、この培養液のように何かできることがある、使えるカードがあるというのは気持ち的にも前向きになれるので、とてもいいことではないかと思っています。

着床の窓のずれが妊娠しない原因であることも

着床に関する悩みについて、当院ではERA(子宮内膜受容能検査)という選択肢もご用意しています。

見た目は良好な胚を移植してもなかなか妊娠に至らない場合、患者さんとしては「えっ、どうして?」という気持ちになりますよね。妊娠しない原因は受精卵側の原因であることが7割、その他の原因が3割といわれています。

2回移植して妊娠しなかったら2回とも受精卵のせいであるという可能性が高いと考えられますが、その他のことが原因であるというケースもゼロではありません。この「その他」の中には着床のタイミングという問題もあります。

以前から受精卵を受け入れる適切な時期があると考えられ、これを着床の窓といっています。移植しても妊娠に至らない人は着床の準備が整っていないことも。ERAはこの着床の窓のずれがないかどうか、遺伝子レベルで調べることができる検査です。

子宮内膜に受精卵が着床できる時期や時間には個人差があり、着床の窓が開いている、適切な時期に移植をすることにより、妊娠の可能性を上げることができます。

ずれが見つかったら腟剤の投与日や移植日の設定を補正。これにより、今まで何回移植しても結果が出なかった方が妊娠したケースもあります。

ERAをしたから必ず妊娠するというものではありませんが、受けてみないと自分の着床の窓が合っているのかどうかわかりません。結果、異常がなかったとしても、妊娠しない原因を消去していくという点からみても受けてみる価値は十分あると思いますね。

ERAは保険診療中でも先進医療として受けられます

現在、ERAは保険診療ではありませんが、保険で治療している方は先進医療という形で受けることができます。もともと高額な検査ですが、東京都など、自治体によっては助成金を出していますし、民間保険に加入している方は先進医療分の保障を受けられる場合があります。ご興味をもたれた方はお住まいの自治体に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

限られた治療回数で後悔しない選択を

当院では胚を移植して2回不成功だった方全員にERAをご提案しています。反復不成功の場合、「できることはすべてやりたい」というお気持ちが強いので、希望される患者さんは多いですね。

保険診療になって経済的に不妊治療のハードルが下がったという良い面が注目されていますが、年齢の高い方にとっては治療の回数制限が設けられるなど厳しい部分もあります。

40歳の方だと保険で移植できるのは3回まで。2回移植して不成功だったら、チャンスはあと1回しかありません。また、自費診療になると自治体からの助成金は受けられません。そう考えると、残り1回の移植からでもできる検査や治療など選択肢はたくさんあったほうがいいです。今回お話しした、ERAと高濃度ヒアルロン酸含有培養液を組み合わせることで、さらに着床する可能性を高められるかもしれません。皆さんには後悔しない不妊治療を選択していただきたいですね。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。