【Q&A】次の採卵までにできること~小塙先生【医師監修】

andyさん(40歳)  
保険でできる検査は、次は子宮フローラとERA検査が終われば全てやったことになるかと思います。今のままの治療でいつかうまく行くものなのか、非常に悩んでいます。今回は次の移植に向けて上記で述べました2つの選択肢がありました。年齢もあって一日でも早く次は採卵をやり直した方が良いという話もあるので非常に悩んだのですが、まずはできる検査を終えてから考えようかと思っております。
その場合に、
1)次の移植がダメだった場合に備え、次の採卵に向けての準備もしたいのですが、どういったことをしたら良いのかわからず、ただ時間
だけが経過していき悩んでいる状況です。例えば、比較的高値と思われるAMHや(たまたま数値がよく、半年後には下がっていることも
考えられるかもしれませんが)年齢、特に卵巣等に異常がないこと、等を踏まえ、どういう治療が良いと考えられるのでしょうか。
2)何回くらいを目処に自費診療に切り替える(PGT-A含む)のがおすすめなのでしょうか。投薬などは制限などが無くなる自費診療をした
ほうが確率が上がるというのは理解できますし、お金をかけることには躊躇していないのですが、今の自分に何が合うのかわからず悩ん
でいます。
3)「男性側の状態も、かなり変動するものです」と医院では言われましたが、運動率を上げ、次回の採卵に向けてできることはなんでしょ
うか(バランスの良い食事、適度な運動は欠かしておりません)。もともと初回の検査結果で「現時点では特に改善するポイントはない」と
言われて採卵に進んだのですが、「その日の状態が悪く顕微授精になった、精子の状態は頻繁に変わります」と言われてから、どうした
らいいかのアドバイスはいただけず、ずっと悩んで治療を受けています。
できれば次の採卵には私も主人も努力した上で臨めたらと思っております。何卒よろしくお願い申し上げます

小塙先生に聞いてみました。

【医師監修】医療法人小塙医院 小塙理人 先生
千葉大学医学部卒業。慶應義塾大学病院産科婦人科教室入局。2023年1月より医療法人小塙医院の理事長に就任。小塙先生で3代目。2代目の父より生殖補助医療を主とした不妊治療を開始し、不妊治療が今後の日本の社会を変えることができる医療だと考え、この分野を専攻。生殖医療を通して日本社会の成長に貢献したいと日々診療に従事。日本産科婦人科学会専門医。日本性感染症学会認定医。母体保護法指定医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
卵巣機能は保たれていてまだ胚盤胞移植は1回であり累積妊娠率(回数を重ねた上でのtotalの妊娠率)としては60%未満と考えられます。
下記はヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)の着床不全患者に対するガイドラインより抜粋した図ですが、約47万サイクルのビッグデータで35-39歳の方でも4回の胚移植を行ってやっと60%(上段)ですので、この閾値を超えた場合に着床不全(妊娠しずらい状態)と考え、検査が必要になると考えられます。
ただ、PGT-Aを行い正倍数性(胚の染色体の数の異常がない)場合には下段のように40歳を超えるの方でも3回の胚移植で60%の累積妊娠率に達すると考えられます。
次に下図は米国生殖医学会(ASRM)による着床不全に関する専門家によるワークショップからの抜粋です。約1.5万の胚のデータより、38-40歳では胚の異数性(染色体の数の異常)が50%あり、胚盤胞を7回移植することで累積妊娠率が95%に達するというものです。
このようにandyさんのご年齢では4回~7回胚移植を行い妊娠が達成する予想となり、胚移植を継続することが推奨できます。
胚盤胞がまだ2つあるかと思いますのでその2個を胚移植して妊娠しない場合に着床不全の疑いと判断し、検査として子宮内フローラ検査やERA検査などを検討するのが良いかもしれません。
また、検査としてはヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)の着床不全患者に対するガイドラインでは子宮内フローラ検査やERA検査は強い推奨はされておらず、血中ビタミンD値の改善や慢性子宮内膜炎の場合の抗生剤加療、そしてPGT-Aが検討できるものと提案されています。ガイドラインでもPGT-Aは考慮できるとされておりますが、網羅的なPGT-Aは海外のビッグデータ(海外11件の研究のまとめと米国の約13万サイクルのデータ)の結果からは推奨はされていません。
しかし、英国HFFAの約19万サイクルのPGT-AのビッグデータではPGT-Aを施行した場合の出生率が高く、特に40歳以上で胚移植の回数が減ると結論付けています。
このようにPGT-Aは着床不全として3-4回以上の胚盤胞移植で妊娠しない場合や高齢40歳以上の場合には移植回数を減らすという意味で有効な手段かとは思いますが、自費診療となってしまうため、費用対効果を考えるとまずは保険診療内でできる胚移植の継続が望ましいかと考えられます。

ただ、早く妊娠・出産を目指すという時間対効果を考えると、移植の回数を減らせる可能性があるため、PGT-Aは有効になるかもしれませんが、まだ2個の胚盤胞が残っているのでまずは移植を継続しても良いと考えられます。

精子に関しては、採卵時のパラメーターは悪すぎる状態とは言えないので、当院では通常は媒精(通常の体外受精)を行います。顕微授精は受精率は向上しますが、実際に媒精の方が自動的に良い精子が卵子と受精するという機構が考えられ、臨床妊娠率は良いことがあります。

こちらも費用対効果の観点から、顕微授精の方が料金がかかりますが、胚盤胞発生率や妊娠率が上がるわけではないので、媒精ができる場合は媒精を推奨します。

しかし、たしかに精子のコンディションは日によって変わることがあります。精巣は熱暴露に弱いので、生活習慣としては座位が多い、サウナに長く入る、ボクサーパンツなど熱がこもりやすいものは避けるなどの工夫を行うことを推奨します。また、酸化ストレスというものが精子、卵子の質を低下させると言われるので、適度な運動や抗酸化作用のある食事・サプリメント摂取が推奨されます。
運動は1週間に150分以上の中等度の運動または活動的な75分が有効と米国身体運動ガイドラインでは言われています。中等度の運動は早歩き、ゴルフ、ダンス、野球、サイクリング、ガーデニング、ウェイトトレーニング、エアロビなどが挙げられます。

食事はナッツや豆、新鮮な果物や野菜、魚などの地中海食を多くとると妊娠率があがるといわれています。これらに含まれる抗酸化物質やオメガ脂肪酸が精子卵子の質改善に寄与するといわれています。また、手軽に摂取できるもので納豆が推奨できます。納豆にはPQQ、イノシトール、Lアルギニン、Lカルニチンという抗炎症抗酸化、血流促進を促す成分がすべて含まれており、妊活サプリとしても重要な成分であり、これらをすべて含むスーパーフードとして当院でも推奨しております。
以上、簡単な当院によるandyさんへのアドバイスになります。
あくまでセカンドオピニオンに対する当院の見解ですので、最終的には現在の主治医の先生と、andyさんご夫婦のご判断が重要になります。
andyさんの早期の妊娠・出産を願っております。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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