PGT-Aのこと、詳しく教えて!

流産を防いで、妊娠率を上げると注目
PGT-Aのこと、詳しく教えて!

近年、注目されているPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)。検査を受けるメリットやデメリット、検査の将来性について、IVF なんばクリニックの中岡義晴先生にお話を聞きました。

IVF なんばクリニック●中岡 義晴 先生 広島大学医学部卒業後、広島大学医学部産婦人科に入局。広島県立安芸津病院産婦人科、広島大学医学部産婦人科、尾道総合病院産婦人科の副部長を経て、2000 年にIVF 大阪クリニックに入職。2013 年、IVFなんばクリニックの院長。診療モットーは「誠実」。国内有数の治療件数を誇り、質の高い治療で短期間での妊娠を目指す。

流産を繰り返す年齢が高い人が対象

PGT – Aは受精卵(胚)の染色体数を調べて流産を防いだり、妊娠率を上げることを目的とした検査です。見た目はきれいな受精卵でも、多くの割合で染色体異常が見つかります。実際に染色体異常があると妊娠しない、または妊娠しても流産につながってしまいます。

日本産科婦人科学会のガイドラインでは、体外受精において2回以上の反復不成功例や反復流産の人、ご夫婦のどちらか、または両方の染色体に構造異常がある人を検査対象としています。さらに、当院では年齢が高く、移植可能な胚がたくさんある人や、流産の可能性を少しでも下げたい人に特に有用な検査だと考えています。染色体異常は女性の年齢と一番関係しているといわれ、35歳あたりから増えはじめ、特に40歳以上になると高くなります。当院のデータでは、染色体異常の胚を移植しても基本は妊娠に至らないのですが、10%くらいが妊娠して流産となります。

国内では2020年からPGT -A特別臨床研究が行われており、その分析データ(1万人を対象)が最近公表されました。これによると、染色体が正常な胚の確率は、35歳で25%、40歳で20%、45歳で約10%でした。さらに正常、異常の判別ができないモザイク胚がどの年齢にも約10%存在します。これを含めると、40歳では30%が移植対象となります。

また、PGT – A後の正常胚とモザイク胚の移植あたりの妊娠率は、どの年齢も60〜70%という結果が出ています。たとえば、40歳で胚盤胞が10個できれば、3個が移植対象になります。そのうち60〜70%が妊娠するとすれば、お子さんが2人できる可能性もあるかもしれません。流産率は10%になるので、妊娠のほぼ90%が出産にたどりつくことになります。

P G T – A は妊娠、出産に早く近づけるという考え方もありますが、はっきりとしたデータはありません。ただ、流産してしまうと、治療開始から次の治療まで半年かかります。それを防ぐ意味では有用な検査だと思います。

検査で生じるデメリットも事前に知っておこう

現在、PGT – Aは全国220の認可施設で実施されており、検査を受けられる機会は増えています。一方で検査によって生じる課題もあります。

一つは、細胞生検による胚へのダメージです。これを説明するのはとてもむずかしく、デメリットは明らかにあるものの、どのくらいの割合で起こるかはわかっていません。そのため、PGT – Aの条件に当てはまっても、染色体異常の確率がそれほど高くない若い人にはおすすめしません。また、胚盤胞が1つしかなく、妊娠を希望される場合も、PGT – Aをするか、そのまま移植するのが良いかは、判断がむずかしいところです。

もう一つは、モザイク胚の取り扱いについてです。P G T – A は胚を選別することが目的です。遺伝性疾患を診断する厳格なPGT -Mとは、検査の質や方法論がまったく異なり、不確実性を伴ったファジーな検査といえます。モザイク胚と診断された場合、それが正常、異常かはわかりません。現状では、モザイク胚は移植対象とされていますが、モザイクの異常の割合が高いほど、妊娠率が低くなり、流産率が高くなります。それでも赤ちゃんになる可能性は一定数あるので、それを移植せずに廃棄するかどうかは、患者さんと相談して決めていく必要があります。

染色体と胚の質は両輪まずは良好胚をつくること

胚盤胞といっても、良好な胚盤胞は100〜200個の細胞がぎっしり詰まっていて、細胞を少し採ってもあまり影響はありません。一方、グレードが低い胚盤胞は細胞が50〜100個しかなく、スカスカの状態です。そこから同じ数の細胞を採ると、かなりダメージが大きくなり、モザイクの割合も増えてきます。

つまり、良好な胚盤胞をつくることが、その後の妊娠率に大きくかかわってくるということです。染色体と胚の質は両輪になっていて、その両方が良い場合、出生につながっていきます。当院でも、ある周期で採った胚はあまり妊娠しないけど、違う周期で採るとどれも妊娠する、といったことを経験しています。また、染色体を調べると、前周期は正常胚がなかったのに、今周期は正常胚が見つかったということもあります。その一例として、海外でPGT – Aを繰り返してすべて異常胚だった人が、当院で1回目のPGT – Aで正常胚が見つかり、妊娠されたケースもあります。

PGT – Aで妊娠率を上げていくためには、その人に合った排卵誘発法や採卵時期の見極めが重要で、医師と胚培養士のチームワークでいかにラボのレベルを上げていくかがポイントだと考えています。PGT – Aを受ける場合は、体外受精の実施件数が多い施設を選ぶと良いでしょう。

ただ、体外受精の保険適用化によって、P G T – A を受けると体外受精すべてが自費になってしまうことが大きな問題です。当院は大阪大学と一緒に、先進医療B(体外受精と混合診療が可能)として、PGT – Aが実施できる研究施設の一つに認められています。これから検査の有用性が客観的に明らかになり、近い将来、保険適用化や先進医療の認可につながっていけば、いろんな人にとってメリットのある検査になってくると思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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