不妊の一般的な検査では異常がなく、タイミング法を1年間続けても妊娠できない――。今後どのような治療方針を立てていったらいいのか、大野基晴先生にアドバイスしていただきました。
2010年東海大学医学部医学科卒業。順天堂大学医学部附属順天堂医院、賛育会病院、越谷市立病院、大島医療センター、セントマザー産婦人科医院勤務を経て、2022年に順天堂大学浦安病院リプロダクションセンター副センター長に就任。2023年に北千住ARTクリニックを開院する。タイミング法からステップアップという従来の概念にとらわれず、すべての選択肢を提示し、その方にとってベストな方法で治療を行っていくことを大切に考えている。主役は患者さん本人。主人公が輝けるよう、アンパンマンのジャムおじさんのような存在で支えていくのが理想。
不妊クリニックに通い、そこでの一通りの不妊検査は実施しました。ヒューナーテストで結果がゼロだったので抗精子抗体を調べましたが陰性、精液検査も特に問題は見つかりませんでした。子宮卵管造影検査もしましたが、2本とも問題ない結果でした。基礎体温を毎日測っており、排卵予定日近くにタイミングをとるようにしてすでに1年が経ちますが一向に妊娠しません。年齢が問題なのでしょうか。クリニックでは特に原因が見当たらなかったためタイミング指導しかなく、このままで良いのか年齢的にも不安です。適切な妊活レベルを把握するにはほかの病院にも行ってみるべきなのでしょうか?
ヒューナーテストはスクリーニング検査として有用というエビデンスはないという報告もあります
ヒューナーテストを受けた結果、運動精子がゼロだったということ。ヒューナーテストは排卵日の夫婦生活後に女性の頸管粘液を採取して、その中に動いている精子がいるかどうか調べる検査です。簡単に行えるので実施している施設は多いと思いますが、この検査をして陰性でも性交後に腹水を採取すると高頻度で精子がいることが報告されています。ヒューナーテストで異常があったことを理由に人工授精やARTを選択するエビデンスもありません。現在海外では、スクリーニング検査としては推奨しておらず、僕個人の考えでは受けなくてもいい検査だと思っています。精液検査の結果は異常なしということなので、男性に関しては特に問題はないと思います。
キャッチアップ障害を調べるために腹腔鏡検査という選択肢も
また、子宮卵管造影検査で異常はないということは、卵管は2本とも通っていたということです。しかし、この検査では排卵した卵子をきちんとキャッチできているかどうかまではわかりません。卵管は通っている、精子にも問題はない。それでも妊娠できないのはキャッチアップ障害があり、卵子と精子が出会っていないということも考えられます。
自然妊娠にこだわられるのなら、一度腹腔鏡検査を受けてみるという選択肢もあるのではないでしょうか。クラミジアや内膜症性の癒着などがあると卵管が自由に動けず、卵子をキャッチできないことがあります。腹腔鏡でお腹の中を見て、癒着があったらそれを取り除いてあげる。しっかり治療できればその後、自然妊娠も可能です。
ただし、この検査には少し難点もあります。手術扱いになってしまうので実施している施設を探さなくてはいけません。当院では行っていないので、検査が可能な施設へご紹介するという形になると思います。また、検査をして必ずしも癒着が見つかるとは限りません。お腹の中を洗うことに意味はありますが、お腹を傷つけて、費用もかけたのに何のためにやったのか後悔するケースもあります。検査後に行う治療はタイミングや人工授精であり、妊娠率も加味して考える方が良いと思います。不妊治療のゴールはあくまで妊娠してその後の家庭生活を送る事であり、受けるか受けないかは主治医の先生の説明をよく聞いてから決めましょう。
患者さんのライフプランに合わせた治療の提案が大切
もし自然妊娠を希望されているのならあと半年間、一般不妊治療を続けられてもいいかもしれません。タイミング法と人工授精を合わせて6回程度。それでも結果が出なければ体外受精に進むことを考えてもいいと思います。
「子どもが二人欲しい」と思っていらっしゃるのなら、現在38歳ですので、妊娠率や2人目を望んでの治療することも逆算すると、あまり時間はないように思います。年齢的にも不安を感じられているようなので、すぐに妊娠率の高い体外受精にステップアップされてもよいのでは?と思います。
体外受精で多くの卵子を採ることができれば、二人目も妊娠できるチャンスが生まれるでしょう。何人子どもが欲しいのか、いつまでに欲しいのか、それに対する適切な治療法の提案がなく、漫然と同じ治療を続けている状態であれば転院を検討されてもいいと思います。ご夫婦でよく話し合って早めに決断しましょう。