たんぱく質摂取が子どもの発達に影響する!?

山梨大学研究チームが発表!!妊娠前・妊娠初期のたんぱく質摂取が子どもの発達に影響する!?

最近の研究で、妊娠中の食事内容と生後の赤ちゃんの健康状態に関連があることがわかりました。そこで研究を行った山梨大学大学院の三宅邦夫先生に、研究内容とわかったことなどを教えていただきました。

【監修】山梨大学大学院総合研究部医学域疫学・環境医学講座 准教授 三宅 邦夫 先生
静岡県出身。2004 年立命館大学理工学部生物工学科卒業。2009 年山梨大学大学院医学工学総合研究部博士課程修了(医科学博士)。山梨大学大学院医学工学研究部環境遺伝医学講座特任助教を経て2023 年4月より現職。専門はエピジェネティクス、分子生物学。

動物実験は行われていたがヒトでの調査は今回が初

妊娠中、妊婦さんが摂った栄養は、血液の流れに乗り、へその緒を通じて赤ちゃんへ運ばれています。そのため、今までも妊娠中に低栄養の食事を摂り続けていると、早産や流産など、お腹の赤ちゃんに影響を与えることはわかっていました。

今回の研究では、妊娠初期や妊娠前の過去1年間の食事で摂取するたんぱく質が少ない母親から生まれた子どもは、3歳時点の発達で3つの分野において発達の遅れがみられることが明らかになったのです。

もともとエピジェネティクスといって遺伝子がどのような働きをするかの研究を行っていて、その一環で妊娠中の母マウスにたんぱく質量を制限したえさを与え続けたところ、生まれてきた子マウスに、不安症や脳の発達異常がみられる場合があることが実験でわかっていました。今回の研究によって、ヒトでも同じような状態になることが示唆されたといえます。

たんぱく質の摂取比率が低いと3つの能力に影響が

調査したのは、環境省が行っている「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加されている10代~40代の母親と子どものうち77237組。妊娠初期と中期に栄養調査を行い、たんぱく質のエネルギー比率(エネルギーを産み出すたんぱく質、脂質、炭水化物の栄養素がそれぞれどのくらいの割合になっているか)を調べました。妊娠初期の調査では、過去1年間に遡った栄養状態も聞き、そこから妊娠前の栄養状態を割り出しています。

その栄養調査をもとに、たんぱく質の割合が13~20%以上を「標準」群(全体の人数比60・3%)、9.4 ~13%未満を「低たんぱく質」群(人数比37・ 9%)、9.4%未満を「極端な低たんぱく質」群(人数比1.8%)と3つのグループに分類しました。

3歳時の子どもの調査は、「乳幼児発達検査スクリーニング(ASQ – 3)」の質問に母親が回答。それをもとにコミュニケーション、粗大運動(走る、歩くなど)、微細運動(指先で物をつかむなど)、問題解決、個人・社会(他人とのやり取りなど)という5つの分野でどのような発達傾向がみられるかを調査しました。ただし発達状況は、妊娠中の栄養状態だけではなく妊娠前の母親のBMIや出産時の年齢、喫煙や飲酒の有無、出生体重なども影響するため、それらを考慮して分析しました。

その結果、極端な低たんぱく質群に属する母親から生まれた子どもは、5つの発達領域のうち、特にコミュニケーション、微細運動、問題解決の3つのジャンルにおいて発達の遅れがみられることがわかったのです。また、妊娠中期にたんぱく質の摂取比率が少ない場合も発達に遅れがみられましたが、妊娠初期、妊娠前のほうが、より子どもの発達への影響が大きいことも判明しました。

たんぱく質の摂取比率の低い母親は、やせ型で若年の人に多いことがわかりました。食事の栄養バランスにも偏りがあり、朝食を抜いている人が多いなどの特徴もみられました。

主食、主菜、副菜が揃った食事を3食しっかりと

厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、たんぱく質の摂取推奨量は成人女性の場合、、非妊娠時と妊娠初期は1日あたり50g、妊婦中期は55g、妊娠後期は75gです。たんぱく質は主に肉、魚、卵、大豆製品などに含まれるので、主菜をしっかり摂るようにしてください。あわせてエネルギーのもととなる「主食」、ビタミンやミネラルを補給できる「副菜」が揃った食事を、3食とるように心がけると、自然といろいろな栄養を摂れるでしょう。

栄養についてのより詳しい情報は、厚生労働省の「食生活バランスガイド」や、「妊娠前からはじめよう!健やかなからだづくりと食生活Book」などをご覧ください。

つわりの時期は無理せず食べられるものだけでOK

個人差があるものの、妊娠初期はつわりで思うように食べられない人も少なくありません。そういった場合は、食べられる時に、食べられるものだけでOK。頑張って食べようとすると、母子ともにストレスがかかる可能性があるので、つわりの時期、無理は禁物です。

将来、妊娠を考えるのであれば、今からバランスの良い食事を心がけるといいでしょう。そうすれば、つわりで思うように食べられない時期があっても大丈夫です。また、毎食バランスのいい食事をするのが難しい場合は、たんぱく質のもととなるアミノ酸のサプリメントや、プロテインなどの液体飲料を活用するのも方法の一つ。ただし、たんぱく質の摂りすぎは、別のトラブルを招く可能性も。あくまでも「足りない分を補う」形がいいでしょう。

今回はたんぱく質の摂取比率と子どもの発達への関係性に関する研究ですが、たんぱく質の比率が低いということは、炭水化物や脂質の摂取バランスも良くありません。今後は、たんぱく質以外の栄養の摂り方についても、引き続き研究が必要と考えています。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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