人工授精ってどんな治療

保険適用の開始により、人工授精を希望する患者さんが増えているそうです。そこで、en婦人科クリニックの木原祥子先生に、人工授精の正しい情報を教えていただきました。

監修 en婦人科クリニック 木原祥子先生
1999年、熊本大学医学部卒業。2006年、熊本大学大学院医学研究科卒業 医学博士。熊本県内、福岡市内の病院で産婦人科医療に従事し、分娩や不妊治療、手術執刀の経験を積んだのち、2019年11月、en婦人科クリニック開院。自身の陸上競技の経験から、専門的な診療で女性アスリートへのサポートも行っている。

体の中で起こる現象は自然妊娠とほぼ一緒

人工授精とは、採精した精子を洗浄・濃縮し、排卵する頃にチューブを使って子宮内に直接注入して、あとは「自分の力で受精して着床してね」という治療法。「人工」という名前に「怖い」「体に負担がありそう」などと抵抗感をもつ人が多いようですが、実は体の中で起きている現象は自然妊娠とほとんど変わらないのです。

適応となる不妊原因としては、子宮口付近の頸管粘液が非常に少ない人や粘稠な人、ヒューナーテストの所見が繰り返し良くない人、軽度の男性因子がある場合などです。精子を濃縮し、子宮内に直接精子を注入することで、卵子に到達できる精子の数の増加を期待することができます。特に上記のような原因が分かっていない場合でも、タイミング法よりは一般的に妊娠率が2倍ほど高いと言われており、タイミング法を繰り返して妊娠しない場合も治療のステップアップとして人工授精に進むことが多いです。

排卵予測日に通院して人工授精を行う

タイミング法だと「この日にタイミングをとってください」とお話しする、ちょうど排卵日頃に人工授精の処置を行います。処置は、通常は1-2分程度で終わり、さほど痛みもありません。まず、想定排卵日の2〜3日前(28日周期で順調に月経が来ている人なら月経周期の12日目前後)に卵胞チェックを行い、排卵日を予測します。予測が立ったら、ちょうど排卵日ごろに人工授精、という流れになります。ただし、卵胞発育の状況によっては、何度か卵胞チェックに来ていただいたり、途中から排卵誘発剤を使うこともあったりと、数回受診回数が増えることもあります。

通常は自然排卵を待ちますが、同じ人でも毎月同じように排卵するとはかぎらず、排卵誘発剤を使う場合もなかなか排卵しない周期があったりすることもあるので、その時々の状況に応じて対応していきます。

 

ステップアップの考え方はケースによって異なる

通常、一つの治療を5〜6回試して結果が出なければステップアップを考えますが、「何回タイミングをとってダメなら人工授精」という決まりはありません。年齢が若ければ、時間と回数に余裕をもって妊娠を目指すことは可能ですが、年齢が高ければ、短いスパンでのステップアップ、あるいは最初から体外受精を視野に入れることも。タイミング法を試した期間や年齢など人それぞれなので、治療の考え方も一律ではありません。

 

保険によって金銭的な負担が軽減

保険適用前に比べて不妊外来に初診で来る年齢層はかなり若返った印象です。人工授精は保険適用になって処置そのものは3割負担の5460円。排卵誘発剤や黄体補充などの薬を使ってもその分が数百円ずつプラスされるだけです。当院でも例えば注射と黄体補充、再診料、薬剤情報提供料などを合わせても人工授精当日の医療費は3割負担で6600円。保険適用で費用の負担が軽くなり、若い方々が治療を始めやすくなっていると感じています。

治療開始前に自分なりの計画を立てておく

治療を始めやすくなったとはいえ、人工授精は夢のような治療ではないということは知っておきましょう。若い人でも、そもそも人工授精という治療法を選択した時点でタイミング法では妊娠しなかった、ということ。自然妊娠よりも妊娠率が高いことに期待して人工授精を行うのですが、5回以上人工授精を繰り返して妊娠する人は20代でも4割弱で、30代前半は1/3程度。つまり、人工授精を5回10回と繰り返しても、結果が出ない可能性のほうが高いのです。何度も月経が来て、「また妊娠しなかった。なぜだろう」と落ち込むことのないよう、「何回やってダメなら、次はこうしよう」と自分なりの治療の見通しを立てて治療を開始するのがよいでしょう。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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