顕微授精が異常受精。
従来のふりかけ法の受精卵は問題ない?
これまでの治療データ
●検査・治療歴
過去に顕微授精2 回、良好胚盤胞3 回移植→妊娠に至らず。
今回、採卵10 個、体外受精(ふりかけ法)5 個中4 個→正常受精 顕微授精5 個→すべて異常受精
●不妊の原因となる病名
抗精子抗体陽性
ドクターアドバイス
●顕微授精ですべて異常受精になることは稀なケース。
●通常の体外受精で再挑戦を!
通常の体外受精では正常受精したのに、一緒に行った顕微授精のほうはすべて異常受精だったとのことです。
生田先生●まやさんはスプリット法(採卵した卵子の半分は通常の体外受精=ふりかけ法で、もう半分は顕微授精で受精させる方法)を行ったということですね。
顕微授精は、1個の卵子に1匹の精子を直接注入します。その後、受精卵を確認すると前核が2つ(男性側と女性側それぞれの遺伝子情報)見えるのが正常受精ですが、3PNは前核が3つ見える異常受精です。
顕微授精で3PN になるのは、何らかのストレスで卵子の細胞質の調子が悪くなり、受精後の分裂でできた余分な染色体をうまく放出できなかった第二極体放出不全によるものです。ただ、ふりかけ法では5個中4個の卵子は正常受精しているので、顕微授精のほうも、5個のうち1個か2個は異常受精になることはあるかもしれませんが、全部が異常受精になるということは、まずありません。
異常受精が起きた原因としては、どういったことが考えられますか?
生田先生●顕微授精というのは、ヒアルロニダーゼ(ヒアルロン酸を分解する酵素)を用いて裸化(卵子を取り囲んでいる顆粒膜細胞を取り除く)した卵子に針で精子を注入しますので、その過程のどこかで卵子の調子が悪くなる可能性はあります。
転院した病院が何をどのようにしているのか詳しいことはわかりませんが、たとえばヒアルロニダーゼの質が良くなかったということがあるかもしれませんし、顕微授精をするまでの過程で、卵巣刺激から採卵までの間の卵子の環境が悪かったり、何らかの問題から卵子にとって良くない影響が及んだのかもしれません。
もともとの卵子の質や状態の問題というより、顕微授精における技術的な問題が考えられるということでしょうか?
生田先生●卵子自体の問題がまったくないとはいえませんけれど、前の病院の顕微授精では良好胚盤胞ができたということですから、今回はストレスに弱い卵子がたくさん採れた、ということかもしれません。
要するに、通常の体外受精(ふりかけ法)は卵子と一緒に十分な精子を培養液の中に入れるだけですから、そのままであれば受精できたのかもしれません。顕微授精によって卵子にストレスがかかる場合がありますから、それによって正常な反応が起きにくくなった、という可能性もあります。
まやさんは30歳とまだお若いですし、治療データからも卵子の質自体の問題はなさそうですね。
生田先生●年齢からすると、基本的には染色体異常が発生する頻度は低いと思います。卵子というのは、卵子の周りを取り囲んでいる顆粒膜細胞が育てています。エネルギーや電気を注入して宇宙へボーンと飛んでいくロケットと同じように、卵子の成熟に必要な物質が顆粒膜細胞から注入されますが、そこで排卵の刺激が加わると、注入がパパパパっと全部切れて卵子が独り立ちします。
その時に良い物質を詰め込んでもらっていないと卵子の調子が悪くなるので、先ほど話した、余分な染色体を外に放り出すエネルギーがうまく作用しない可能性があるんです。
そうした場合でも、全部が異常受精になることはあまりないということですね。
生田先生●そうですね。当院でも、顕微授精してもうまく受精しなかったり、たまに異常受精が起こることはありますが、受精卵がすべて異常受精で、しかも3PNという、放出不全とはっきりわかる異常はめったにありません。
今後の治療としては、どのように進めていくといいと思われますか?
生田先生●顕微授精ではなく、普通の体外受精でいいのではないでしょうか。ご主人の精液所見が書いていないのでわかりませんが、精子の状態が悪くなければ顕微授精をする必要はないと思います。
不妊原因が抗精子抗体なので、抗体がないところであれば普通に受精する可能性が非常に高い。実際、今回ふりかけ法の場合は5個中4個が正常受精しているので、受精率は80%。これはごく普通の受精率ですから、通常の体外受精をされれば何も問題はないと思います。
前の病院の顕微授精で、異常受精に気づかず移植した可能性もあるのでは? と気にされていますが。
生田先生●それはないと思います。受精したかどうかは翌日にきちんと確認しますので、その時に3PNが見落とされることはないです。
3PN は体外受精や顕微授精をしたから起こるわけではなくて、自然妊娠でも起こる可能性はあります。ずっと培養していくと正常な核になってきれいな胚盤胞ができる場合もありますが、たいていはダメになって流産してしまうことになるので移植は行いません。