【Q&A】治療の選択肢について~中村先生

MONOさん(28歳)  
主人(29歳)精液検査不良のため顕微一択です。
●A院
採卵2回(ショート法・ロング法)、新鮮胚移植2回(2回とも1つも胚盤胞にならず)
●B院
採卵1回(アンタゴニスト法)
・ホルモン補充 胚盤胞4AB SEET法
・ホルモン補充 初期胚9G3 8G2
エンブリオグルー g-csf ピシバニール+プレドニン
・自然周期 胚盤胞3BB、4CB
エンブリオグルー スクラッチ ピシバニール+プレドニン
●C院(保険診療)
採卵1回(PPOS法)
5日目G1、G2 6日目4CC
次周期、自然周期で3個戻し予定
最初の新鮮胚移植のみhcg8。その他、全くかすりもしません。
毎回、成熟卵は7〜9個取れますが未熟が多く、受精率は100%ですが胚盤胞到達率がかなり乏しいです。
内膜はしっかり厚くなるのでPRPは今のところする予定はありません。それ以外の検査、方法はありますか?
夫婦染色体検査は主人の意向でしない予定です。
2段階移植をまだしていないのですべきとは思っています。ひたすら採卵→移植をしていくのがいいのでしょうか?
26歳から採卵をしていますが、頑張って治療しているのに医師からは「若いから」と言われ、治療方針を考えてもらえず、楽観視されて片づけられるのが一番辛いです。

中村先生に聞いてみよう!

なかむらレディースクリニック 中村 嘉宏 先生
大阪市立大学医学部卒業。同大学院で山中伸弥教授の指導で学位取得。大阪市立大学附属病院、住友病院、北摂総合病院産婦人科部長を経て、2013年より藤野婦人科クリニック勤務。2015年4月なかむらレディースクリニック開院。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。

ご相談内容を見て、28歳と若く、男性因子のみであれば妊娠しやすいため、漫然と治療をしている、あるいは方向違いな治療をしているような印象です。

それぞれの医院ごとに考え方があるとは思うのですが、A医院は、1回目、2回目共に胚盤胞に至っていません。B医院では胚盤胞にはなっていますが、ピシバニール+プレドニンの治療は全くエビデンスがありません。C医院は3個移植を予定していますが、ガイドラインでは多胎を防ぐ観点から2個までの移植が許容されます。29歳と若い方なので、3個移植は多胎の危険性があります。

まず、未熟卵が多いことに対する対策は、卵胞径が通常の切り替えの目安となる18mmより大きい22mm〜24mmの時点で切り替える、あるいは切り替え時間を早くするといった対応が効果的でしょう。

次に胚盤胞到達率が低い点ですが、卵子だけでなく、より成熟した精子を選別するアプローチも考える方がいいです。具体的には成熟した精子はヒアルロン酸に結合するという性質を利用したPICSIという方法で精子を選別してICSIを行うのもいいかもしれません。

PICSIは自費診療ですが、先進医療Aに含まれていますので保険診療と同時に受けることができます。

また、胚盤胞到達率は低いのですが、4ABや3BBなどの形態良好胚でも妊娠が成立していないので、いわゆる「着床の窓」がずれている可能性も考えられます。通常、胚盤胞は排卵後5日目の内膜に移植すると着床率が最も高くなります。つまり、「着床の窓」が通常排卵後5日目なのですが、反復不成功の方の場合、着床の窓がずれている可能性があります。

「着床の窓」の窓を調べる検査にはERA検査があります。

これは、胚移植と全く同じ方法で内膜の調整を行い、胚移植を行う日に内膜を採取してRNAを抽出。RNAを解析し、着床に関係する遺伝子がどのようなパターンで発現しているのかを決定します。この結果を膨大なデータに基づいたアルゴリズムに参照して最適な移植日を決めます。例えば、「着床の窓」が開いている最適な移植日が排卵後6日目であれば、1日移植日をずらすことで対応します。この検査は同時に、子宮内の細菌叢の中の善玉菌の割合を調べるEMMA検査や、慢性子宮内膜炎の起炎菌が内膜内にいないかを調べるALICE検査と同時に行えます(TRIO検査といいます)。TRIO検査はすべて、先進医療Aに含まれます。

2段階胚移植は、私見としては宣伝されているような相乗効果は無いように思います。ただ、分割期胚と胚盤胞が残っていて2個移植を考える時にはいいでしょう。これも先進医療Aに含まれ、保険診療と組み合わせて行えます。

以上から、結論から言いますと、プライオリティーをおくべきものは、より卵胞を成熟させてから採卵する。精子の選別にPICSIを検討する。TRIO検査を行う、という対策になると考えています。二段階胚移植は分割期胚が無い場合は考慮する必要はありません。

現在結果がでていないのですが、まだ改善できる余地が十分にあります。諦めずに、粘り強く治療を続けてください。

 

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