透明帯除去術について

不妊治療の新たな治療方法「透明帯除去術」で、世界で初となるケースの妊娠に成功したと2020年に発表されたミオ・ファティリティ・クリニックの見尾保幸先生にお聞きしました。

ミオ・ファティリティ・クリニック 院長 見尾 保幸先生 鳥取大学医学部卒業後、同大学医学部産科婦人科を経て、1993年「ミオ・ファティリティ・クリニック」を開設。婦人科から不妊、産科外来まで女性の生涯にわたる部門を併設。タイムラプスシネマトグラフィー装置を独自開発して第一人者で、ヒトの卵子を精子が受精する瞬間を世界で初めてとらえた。妊娠・出産の夢に向かって頑張るカップルのサポートを行っている。

透明帯除去術とはどのような治療なのでしょうか?

体外受精させた受精卵の周りを覆う「透明帯」と呼ばれるたんぱく質の膜を最初の細胞分裂前(前核期)に取り除く方法です。

タイムプラス培養法で卵の発育状況を観察し、胚発育の不良の原因が卵細胞膜と透明帯の間の癒着にあり、この癒着が繊維状構造物に起因するということが明らかになりました。この繊維状構造物を人為的に除去するのが透明帯除去術です。透明帯を除去した受精卵は透明帯のないまま問題なく胚盤胞期まで発育できます。

透明帯除去術を行った胚のその後の発育は、除去術を行わない胚に対して、明らかに形態が良好な胚に発育する割合が多く、それらの胚で妊娠できることを確認しました。

  • 癒着からできる限り遠い箇所にレーザーを当て、透明帯の一部を照射して取り除く(a〜c)
  • 取り除いた箇所からピペットを用いて癒着部分に培養液を静かに吹きかけ少しずつ両側均等に癒着を剥がす(d〜i)
  • 完全に癒着が剥がれ、透明帯から脱出させる。(j〜l)

 

不妊治療においてフラグメントが発生するケースは多いのでしょうか?

人の卵子の場合、形態の良し悪しを決める一番のポイントがフラグメントです。受精卵が細胞分裂する際にきれいな細胞の形態にならず、断片化することは頻繁に起こり、それをフラグメントと言います。このフラグメントがないきれいな胚を「良好胚」、一部の胚が断片化してバラバラになった胚を「フラグメントの多い胚」と言い、形態が良くないと評価します。必ずしも形態が良い胚が妊娠に繋がるというわけではありませんが、一般的には良好胚を戻した方が妊娠確率は上がります。

残念ながらどうしても高齢の方は卵の質が低下します。また若くても卵子の質が悪い方もたくさんいらっしゃいます。そういう方の卵子は受精してもフラグメントがたくさん起こってしまいます。結果として発育が止まってしまい、胚盤胞まで至らず胚盤胞移植ができません。

なぜ細胞分裂の際にフラグメントが起こるのでしょうか?

我々は2008年頃、タイムラプス観察により、細胞分裂の際にフラグメントが生じるということを見出し、その年のヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)で発表しました。それ以降なかなか「なぜフラグメントが起こるのか」について検討できていませんでしたが、2017年頃のある外国の論文がきっかけとなり、卵子の周囲にある透明帯という殻と卵細胞膜が一部癒着した状態になっていると、その箇所にフラグメントが生じるということを我々のタイムプラスによる観察で明らかにしました。

実際にこの治療を受けられた患者様はどのくらいいらっしゃいますか。またこの治療の注意点やリスクはありますか?

WEBなど各メディアでも報道されたこともあって反響も大きく日本全国各地、また中国、オランダやドイツ、アメリカなど世界各国の方から問い合わせがあり、多くのご夫婦がこの治療をお受けになるため治療に来院されました。

透明帯除去術は受精卵が得られるものの形態良好胚の得られない方に対して、2020年1月以降実施してきました。2021年11月末までに400症例、1,000個以上の卵子に透明帯除去術を行い、その後に胚移植をした方が150名(胚移植周期でいうと約350周期)、うち50症例が妊娠されました。これまで胚移植もできなかった方がこの治療により、患者あたりでは30%、胚移植あたりだと14%程度のご夫婦が妊娠されました。したがって、これまで良好胚盤胞が得られなかった治療困難な症例に、透明帯除去術は明らかに妊娠の可能性を向上させることにつながっていると言えるのではないでしょうか。

この治療は卵子の透明帯という外側の殻を除去するので、卵子自体に全くダメージが及びません。そのため、正常受精を確認できれば、その後の操作によって卵子に影響がでることはありません。そのため、この透明帯除去術は安全で有効は方法だと思います。

◆上段の通常培養の発育の様子

動画で受精卵の発育状態を追っていくと、癒着がある箇所は細胞分裂が綺麗に行われずフラグメントの多い胚となってしまい、成長も途中で停止したりして胚盤胞期まで成長できずに終わる。このような胚は自然の受精でも恐らく多くあると予測できるが年齢要因によってその発生の確率は高くなっていると言える。

 

◆下段の胚発育状況

癒着のストレスを取り除いた細胞は、概ねフラグメントも最小限に分割成長し、しかも、個々の細胞も透明帯の中で育つ時と同様に離散することなく桑実胚から胚盤胞まで正常に発育する。

今後の展望など教えてください。

当クリニックでは透明帯と卵子の癒着の有無を確認しています。そうすると半数以上の卵子に癒着が見られます。ですから、将来的には、受精確認後に癒着を確認し、癒着がある場合は患者さんの同意が得られれば透明帯除去術を行い、その後、胚盤胞まで発育した胚を治療に利用するという培養室での一連のルーチン作業となっていくのではないかと思います。

実はフラグメントの原因は癒着だけではありません。そのため透明帯除去術も卵子の状況によっては効果的でない場合もあり、明らかに限界もあります。現在、複数の施設と共にこの治療法の有効性の幅広い確認を行っています。そのデータを比較検討していく中で、今後はさらにより多くの方にお子さんの夢が叶うよう、研究・治療を進めていきたいと考えています。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。