抗リン脂質抗体と言われ薬を飲んでいましたが流産。
人工中絶後も妊娠できる?
不育症の原因の一つとされる抗リン脂質抗体症候群は、どのように検査や診断、治療が行われるのでしょうか。また、人工妊娠中絶後に起こりうることや、次の治療への影響は? 佐久平エンゼルクリニックの政井哲兵先生にお話を伺いました。
ドクターアドバイス
●APS が正式な診断かどうかを確認して。
●子宮の状態が整ったら体外受精の再開を。
抗リン脂質抗体症候群の診断はガイドラインに沿った診断が必要です
──抗リン脂質抗体症候群(APS)は、どのような疾患ですか?
政井先生●血液中に抗リン脂質抗体という特殊な抗体ができる自己免疫疾患の一つです。これが原因で血管に血栓(血の塊)ができやすくなり、妊娠中は流産や死産を引き起こすことがあります。
検査と診断は「抗リン脂質抗体症候群の改訂分類基準」というガイドラインに沿って、2回の採血検査を行います。改訂分類基準にしたがい、臨床所見と検査所見の両者が陽性であることをもって診断されます。有効な治療法として、アスピリン(飲み薬)とヘパリン(注射薬)の併用療法が推奨されており、基本的には妊娠直後から出産直前まで投与されます。
抗リン脂質抗体症候群は、不育症の原因の一つとして産科婦人科の分野で注目されがちですが、内科的な視点でも重要な疾患です。若い方でも血栓症が原因で脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすことがあります。正式な診断がついた場合は、産科婦人科と内科の両面で管理が必要になります。
人工中絶前の状況(感染の有無など)によっては胎盤遺残の可能性はあります。
──人工妊娠中絶をして胎盤が残ることはよくあるのでしょうか?
政井先生●今回のケースでは、人工中絶に至る前に前期破水といって先に破水が起こっています。破水後約1カ月近く経ってからの人工中絶であることから、子宮内感染や胎盤感染などの可能性は考えられ、それらが原因となって胎盤が遺残したという可能性は考えられるかもしれません。胎盤に感染が起こると癒着をしたり組織がぼろぼろになったりして結果きれいに胎盤が出ないことも想定されます。
子宮動脈塞栓術(UAE)は子宮筋腫に対して行われる治療の一つですが、出血量が多いので、子宮を温存する判断として選択されたのだと思います。この場合もまれに胎盤が残ることはあります。
今回、人工妊娠中絶後の生理の量が少ない理由は2つ考えられます。一つは遺残した胎盤を掻き出すために掻爬術を2回行っていること。もう一つは、UAE で子宮の血流を減らしている影響です。
APSが正式な診断かどうかで今後の治療方針が変わる
──今後どのような治療が考えられますか?
政井先生●ケイティさんについては、抗リン脂質抗体症候群の正式な診断がついているかどうかが気になります。治療に使用するアスピリンは、血液をサラサラにして血栓症を予防する一方で、何らかの出血傾向がある場合は、出血が止まりにくくなるデメリットもあります。もし流産の前にお腹が張ったり、出血があるなどの切迫流産が起きていれば、アスピリンの処方を中止する必要があります。
また、子宮内膜の環境をリセットするためのピル(プラノバールⓇ)は、血栓をつくる副作用があるので、抗リン脂質抗体症候群に対しては、禁忌または慎重投与が必要です。
さらに、妊娠後に内科的な疾患との合併症を招くこともあるため、今後の治療方針に大きくかかわってきます。まずは、不妊治療を再開される前に、正式な診断かどうかをきちんと確認されることをおすすめします。
流産後のさまざまな処置で大変だったと思いますが、最終的には生理の量は少ないものの大きなトラブルがなく、次の治療に進める段階にこられていると思います。
前回は体外受精で妊娠されていますので、子宮の中に胎盤遺残がなくなっていれば、次回も体外受精を試されてはいかがでしょうか。