卵巣刺激はなぜ行うのか? ガイドラインの読み方は?

体外受精で行われる卵巣刺激について、ガイドラインの記載事項をベースにファティリティクリニック東京の小田原靖先生に詳しく解説していただきました。

ファティリティクリニック東京 小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987年、オーストラリア・ロイヤルウイメンズホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科大学産婦人科助手、スズキ病院科長を経て、1996年恵比寿に開院。

卵巣刺激により複数個の卵子を採り、妊娠率を高めます

体外受精はもともと1つの卵子を採取して行っていたのですが、それでは妊娠のチャンスは少なくなります。1回の採卵周期あたりの妊娠率を高めるためにはある程度の卵子数を採ることが必要です。そのような考えから卵巣刺激という治療が行われるようになったのです。

卵巣刺激は人によって反応性が異なってきます。刺激が強すぎるとOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を起こしたり、思ったよりも多くの卵子が得られないことも。どんな人にも同じ刺激法を採用するのではなく、たとえば高齢でなかなか卵子が採れない状態だったら、強い刺激をしても反応が鈍いので自然周期やクロミッドⓇ周期にする。また、年齢が若いから高刺激にするというものでもなく、逆にクロミッドⓇだけで4、5個採っていくというケースもあります。

初回の治療に入る前は年齢やホルモンの数値などを参考に、どんなお薬をどれくらいの量を使って、どのような刺激をしていくか、個別に話し合いながら決めていくことになります。

月経時の胞状卵胞数、AMH値、FSH値などで卵巣の反応を予測

日本生殖医学会が作成した『生殖医遼ガイドライン』には「卵巣刺激時の卵巣の反応予測には、胞状卵胞数とAMH(抗ミュラー管ホルモン)の測定が有効」とあります。

当院でも採卵する時には、月経中の胞状卵胞の数を必ずエコーで確認します。月経時の卵胞径はだいたい5~6mm程度。卵胞の数が左右の卵巣に各4、5個ずつあれば、10個前後の採卵数が予測され、平均的な薬の量を使います。

またPCO(多囊胞性卵巣)の傾向がある方だと左右ともに10個以上の卵胞が確認されることが多く、このような場合、薬を使いすぎると卵巣が腫れてしまうリスクがあるので、薬の量を少なめにするなど、刺激の際には調節が必要になってくるのですね。逆に卵胞が1個しか確認できなければクロミッドⓇの服用だけか、薬は使わないというケースもあります。

癒着などで卵巣の位置が子宮の裏にあったりする場合は、胞状卵胞が見えにくいこともあります。卵胞がある程度大きくなれば見えてきますが、小さいうちは確認が困難で評価ができないこともあるので、この時点で患者さん全員が正確に採卵数を推測・判定できるわけではありません。

AMHに関してですが、この値も卵巣の反応性にかなりかかわってくるといわれています。これから発売される遺伝子組み換えのFSH注射薬なども、体重やFSH値のほか、AMH値も参考にして1日の投与量を決めると定められています。

AMHは卵巣に残存する卵胞数を推定する指標になるといわれており、値が低いと採れる卵子の数が少ないと考えられますが、0.3 ng /ml程度の低値でも5、6個しっかり卵子が採れる方もいます。また、高齢でAMH値が低い人に刺激をするか難しいところですが、年齢が高い分、多くの卵子を確保したほうが妊娠率が向上するので、少しでも反応することを期待して注射薬などによる刺激をご提案するケースも。

このようにAMHの値だけでは正確に予測することができないこともあるので、ほかに前述した胞状卵胞数、FSHなどの値も参考にしながら卵巣の反応を予測していきます。

ピルコントロールには卵巣刺激のスケジュールを調節できるメリットも

ガイドラインには「治療前周期のエストロゲン、プロゲスチン、エストロゲン・プロゲスチン配合薬は治療周期調節などを目的に用いられるが、その際には、患者の利益と不利益をよく勘案して使用する」とあります。これは一般的にはピルコントロールといわれるものです。

移植時期は比較的調節しやすいのですが、卵巣刺激のスケジュール繰りは大変。月経開始の時期を薬でコントロールして予測できれば、お仕事への影響を避けられるなど患者さんの利益につながります。ただし、薬を使うことで卵巣の反応が抑制されてしまい、卵胞の数が通常より減ってしまう場合もあるので、その利益・不利益をよく検討しながら治療していきましょう、ということになります。

卵巣刺激は患者さんによってやり方が異なります

卵巣刺激は少しでも多くの卵子を確保するための治療

胞状卵胞数、AMH、FSHのデータなどを参考に卵巣の反応を予測

ピルコントロールはメリット・デメリットをよく考えて実施

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