自然現象を受け入れたうえで、何を選択していくかを考えましょう
年齢にかかわらず卵子の質や着床率の改善を望む人は多く、治療年数が長かったり高齢になればなおさらです。出産につなげるためにはどんな治療がベストなのでしょうか。また、卵子の老化・卵巣機能低下への対策に方法はあるのでしょうか。不妊治療の現状や将来的に期待したい治療法など、セントマザー産婦人科医院の田中温先生にお話を伺いました。
受精卵の質の良し悪しは排卵誘発法が決め手に
40歳以下で卵子が少量しか採れない、質の良い胚盤胞ができないという方には、排卵誘発法の見直しが有効です。質に対して最も影響を与えるのが誘発法ですから、その患者さん一人ひとりに応じて適切な方法を選ぶということがとても大切。それを決める主治医が、「卵子が採れない」「質が悪い」という結果に対し、次は良い結果が出せる対策を立ててくれているのか。その方法で結果が出なければまた違う方法を導き出してくれるのか。主治医の姿勢に対する見極めは、患者さんにとって必要だと思います。
閉経は長寿のために不可欠な自然現象
従来の不妊治療では、世界的基準であるガードナー分類に基づいて質の高い受精卵を移植するという方法が主流で、妊娠できなければ子宮内膜に原因がある、着床環境が悪いなど原因を探り、改善する治療を行ってきました。しかし、40歳以上の着床前胚染色体異数性検査(PGT ― A)を1000例以上行った結果、7〜8割に染色体異常が認められました。その事実を、もっと皆さんに知ってもらいたいと思います。
治療を頑張っている患者さんは、結果が出ないことに焦りを感じたり、受精卵の質を上げるためにもっと別の方法はないかと悩んだりすると思いますが、知識として知っていただきたいのは、女性の卵巣機能は35歳頃から急激に低下し、50歳頃に閉経するということです。卵子の老化や卵巣機能低下など、言葉だけをみるとネガティブな意味でとらえてしまいますが、閉経する準備と考えれば自然の現象。卵巣機能が低下し、染色体異常の発生率が高くなり、妊娠しなくなった代わりに、長寿を手に入れることができたと認識していただきたいのです。
機能回復法や核置換など新しい治療法に期待
科学的に証明できるデータによって、女性が高齢になると妊娠には不利だという事実を知ることができるようになりましたが、それでも子どもを望むご夫婦が多いのも事実です。ご自身の卵子では難しいかもしれないとなれば、その後の治療の方向性や選択肢は変わってきます。
私ならまず、第三者から卵子の提供を受ける「卵子提供」という選択肢があり、それは国内でも国外(国営での実施は台湾のみ)でも受けられるということをお話しします。治療には倫理委員会などによる認可が必要で、適応条件など細かく定められていますが、第三者からの提供が唯一子どもを望める方法だと考えられる場合に受けることができる治療です。
第三者の卵子に抵抗があるという患者さんには、当院では卵巣機能が低下した症例に対する「卵巣機能低下の回復法」を提案します。腹腔鏡下で卵巣に物理的に刺激を加えるという治療法で、現在までに卵子の数は約2倍に増加、分割率も高くなっていることが証明されています。
もう一つは、当院で長年研究を続けている卵細胞質提供(卵細胞質置換)。老化卵子の核を若い卵子の細胞質内に移植する方法であり、他人の卵子を用いる卵子提供とは違い卵子の核は自分のものであるためDNAの98%は自分に由来します。現在はまだ研究段階ですが、国への働きかけを継続して行っていますので、近い将来、臨床応用できるのではないかと期待しています。
卵子と着床について先生のお考えを聞きました!
着床に有効と思われる検査や治療は?
子宮内フローラ、 Th1・Th2、エンブリオグルー、ビタミンD、慢性子宮内膜炎、 PGT-A、甲状腺機能
AMH の数値と卵子の質は相関していると考える?
いいえ
年齢以外の理由で、卵子の質が良くない人の共通点は?
卵巣機能不全、痩せすぎ・太りすぎ(BMI20 〜30 より極端に低い・高い)
採卵や高グレード胚盤胞ができない人へおすすめしているものは?
睡眠の質を高めること、バランスの良い食事、適度な運動、漢方
35 歳未満:排卵誘発法の見直し
40 歳以上:卵子提供、卵巣機能回復法、卵細胞質提供(研究段階)
クリニックでおすすめしているサプリは?
PQQ