死産を経験。 高刺激採卵だと卵子や体に負担がかかる?
あいウイメンズクリニック 伊藤 哲 先生 順天堂大学医学部卒業、同大学院修了。順天堂大学医学部産婦人科学教室講師、国際親善総合病院産婦人科医長を経て、1999 年あいウイメンズクリニック開院。日本生殖医学会生殖医療専門医。
相談者 :n icoさん(34歳)2018 年から不妊治療を開始し、翌年に顕微授精にて妊娠、その後死産しました。帝王切開だったので1年後の2020年秋に治療を再開しましたが、現在通院しているクリニックでは低刺激採卵のため凍結できた受精卵は1つ、移植後陰性でした。今年34 歳になるため、今後のことを考えると高刺激採卵を行っているクリニックへの転院を考えていますが、死産したことがすごく引っかかっており、高刺激採卵は卵子へのダメージや私自身への体の負担などが心配です。
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以前、帝王切開で死産を経験されたそうですが、このことが妊娠に悪影響を与えることはありますか。
伊藤先生●起こる頻度は低いのですが、帝王切開による瘢痕症候群というものがあります。帝王切開後、排卵や移植の時期になると黒っぽいおりものが分泌されます。子宮鏡で見ると瘢痕部から出血して子宮の内腔に血液が溜まり、それが受精卵の着床に影響する可能性があるといわれているのです。対処法として、出血している瘢痕部をきれいに削り取ってあげると妊娠率が上がるという報告があります。
ケースとしてはそれほど多くないので、おりものや出血などの症状がなければ気にされる必要はないでしょう。
高刺激採卵に挑戦されたいようですが、ダメージや体への負担が気になっているようです。
伊藤先生●まず申し上げたいのは卵巣刺激法と帝王切開などの手術、死産について因果関係はありません。前の妊娠はおつらい結果でしたが、リセットして次の治療に前向きに臨まれてまったく問題ないと思います。
高刺激をした場合のリスクを心配されていますが、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が極端に高い、つまり多囊胞性卵巣傾向の方なら体への負担が大きくなるかもしれません。普通の方よりOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を引き起こす可能性が高くなってしまうからです。
このような方が高めの刺激を選択する場合は、HCGという注射薬をあまり使わない方法でいく。たとえばアンタゴニスト法や黄体ホルモン剤を使うPPOS法など。これらの方法ならOHSSを回避しながら、ある程度卵子の数を確保することができます。
この方の場合、低刺激より高刺激のほうがおすすめですか。
伊藤先生●AMH値が不明とのこと。刺激法を決める前に、AMH検査を受けてみてはどうでしょうか。年齢の平均値相当の値であればロング法をおすすめしますね。まだ34歳なので、ある程度卵子の数が採れるはず。多めに採れれば余剰卵子を凍結できますから、何度も採卵する手間が省けます。
アンタゴニスト法は治療費が少し高めです。PPOS法は治療費は低めですが、黄体ホルモン剤を使うのでその周期には戻せず、凍結融解胚移植しかできません。この方の年齢で総合的に考えれば、やはりロング法に挑戦するのがベストなのではないでしょうか。