「PGT-A」と「EndomeTRIO」とは?
不育症や着床不全に有効とされる「PGT-A」と「EndomeTRIO」。詳しくはどのような検査なのでしょうか。 IVF 大阪クリニックの福田愛作先生に教えていただきました。
胚の染色体異常を調べる「PGTーA」
特に 40 代の高齢の方の 妊娠率を高めるのに有効
当院では臨床流産を2回繰り返した方に不育症の検査を実施しています。まずは一般的な検査で抗リン脂質抗体やご夫婦の染色体などを調べます。ご夫婦の染色体検査では不育症の一因になる転座型の染色体異常が見つかることがあります。
そのほかに考えられるのが受精卵(胚)の染色体異常です。流産の約 70 %は胚の染色体異常が原因とされています。女性 の年齢が高くなるにつれて異数性の染色体異常の確率が上がり、流産率が高くなります。国内外の研究データより女性の年齢上昇にともない異数性の染色体異常が増え、46歳以上では正常胚の確率が急激に低下するという報告もあります。日本ではまだ研究段階ではあります が、 45 〜 46 歳が治療のターニングポイントになると考えています。
不育症の場合は妊娠が成立していますので、その後の体外受精でも胚盤胞 に育つ可能性があります。近年登場し た「PGTーA(着床前胚染色体異数性検査)」は、胚盤胞が獲得可能な不育症の方に有効な検査です。当院は 2020年1月からPGTーAの臨床研究に参加しています。これまで胚の 染色体異常が原因と思われる不育症の方にPGTーAを行い、正常胚を移植できたうちの約 70 %の方が妊娠されています。PGTーAは体外受精反復不成功の方にも用いられ、年齢とともに正常胚の確率が低下する高齢の方に有効な治療の一つととらえています。また、年齢にかかわらず流産率は確実に 低下します。
ただ、PGTーAは胚盤胞の生検を必要とする検査ですから、胚盤胞に育たない方は検査の対象になりません。 胚盤胞から細胞を取り出す時に胚に損 傷を与えるリスクもあります。1回の採卵で良好な胚盤胞が2〜3個できる方は、PGTーAで胚移植当たりの妊娠率を高め、治療期間を短縮できるメリットもあります。また、年齢が若くても良好胚を複数回移植しても結果が出ない方にも有効です。もちろん移植を繰り返して正常胚に出合えれば妊娠の可能性はありますが、PGTーAで正常胚を移植できれば、より早く妊娠が成立します。お仕事の都合などで治療期間を短縮されたい方にもPGTーAを用いるメリットはあると思います。
一方で、1回の採卵で胚盤胞が獲得できるかどうかわからない 40 代の患者さまにPGTーAを提案し、胚盤胞が育つまでいつまでも待つというような使い方は望ましくありません。胚盤胞に育たない方は分割胚を移植して、妊娠・出産できる可能性も十分あります。 PGTーAは症例に応じて有効に使用することが重要です。
着床時期の特定をはじめ子宮内膜の問題を解決する
「EndomeTRIO」
着床不全検査は体外受精で 2 回以上胚移植しても着床しない方を対象にしています。着床不全原因として胚側と 子宮側の要因が考えられます。胚の問 題にはPGTーAが一つの選択肢になります。一方で子宮の問題には、「E domeTRIO(ER A 、EMMA 、 ALICE)」が役に立ちます。
ERA(子宮内膜着床能検査)は患者さま固有の着床の窓(着床の時期)を調べる検査です。これまで着床の時 期は黄体ホルモン補充後5日目とされていましたが、近年の最先端技術によるによる遺伝子解析で、着床にかか わる一定のパターンが発見されました。その結果、すべての人の着床時期が同じではなく、なかには5日目半や 6日目など、着床の時期にズレがあることがわかりました。
検査は外来で行われ、ストロー状の細い管で子宮内組織の一部を採取します。 わずか数秒で終わり痛みもほとんどありません。検査の結果、「異常なし」の判定が出る方が約半数です。この場合はいままで通りの時期に移植します。着床の時期にズレがあり、黄体ホルモン補充開始後「何時間目に移植」という最適時期が明らかとなりますから、最適時期に移植すると高い妊娠率が期待できます。 ERAの多くはホルモン補充凍結胚移植周期に行われますが、当院での凍結胚移植の約 70%を占める自然周期の凍結胚移植にも活用しています。一般 的に自然周期はERA検体採取の時期の特定が難しいとされています。当院は独自の方法でERAを応用し妊娠率を高めています。自然周期はホルモン 補充周期に勝るとも劣らない凍結移植 法と、私は考えています。これから患者さまの治療の選択肢の一つになって いくと思います。
またEMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)とALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)もERAと同じ検体で同時に検査できるため、一緒に行われ ることがほとんどです。これまで子宮内は無菌と考えられていましたが、遺伝子検査の登場で子宮内フローラと呼ばれる 細菌叢の存在がわかりました。なかでも妊娠に欠かせない乳酸菌の量が早産や流産に影響することがわかっています。細菌叢を網羅的に調べるEMMA検査と、炎症に関わる菌を調べるALICE検査は1セットととらえています。それぞれの結果に応じて乳酸菌を増やすお薬と、 感染を防ぐ抗菌剤をうまく使うことで、子宮内フローラを改善し、着床しやすい 環境に整えることができます。
最後になりますが、これから「PGTーA」は習慣性流産や反復不成功を 克服する大きな武器になっていくと思 います。また、不育症と着床不全は複 雑に絡み合っています。子宮内膜の着床環境にアプローチした「Edom eTRIO」が一つの解決策になることもあります。それぞれの検査を有効に使うことで妊娠・出産のチャンスが増えていくと思います。
ERA(子宮内膜着床能検査)
EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)
ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)