タイムラプスで胚の成長を見守る

不妊治療において「培養器はエンジン」と受精卵の培養環境にもこだわっている杉山産婦人科 新宿。開院と同時に、当時最新型の加湿型タイムラプスインキュベーターを世界最多の10台導入した理由を中川浩次先生に伺いました。

中川 浩次 先生(杉山産婦人科 新宿)自治医科大学卒業。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。「子宮と卵巣があったら必ず妊娠する」「卵子が採れている間はチャンスがある」という考えをもち、諦めない不妊治療を日々患者さんに熱く伝えている。

受精卵によりやさしい加湿培養の機器を導入

妊娠するためには排卵誘発法などの治療が重要と考える患者さまが多いと思いますが、実は最終段階で大切な受精卵をお預かりする培養器も大切な要素で、車でいうとエンジンの部分。卵を採ってから移植するまで120時間くらいは培養器の中にいるので、その部分のクオリティに神経を研ぎ澄ませている胚培養士や医師がいる施設は妊娠する確率が高くなるのではないかと考えています。

当院では2018年1月新宿院の開院と同時に、近年生殖補助医療の分野で大変注目されている培養器「タイムラプスインキュベーター」を採用。それも当時の最新の機器を10台導入しました。

タイムラプスインキュベーターはインターバル撮影でのモニタリングシステムを搭載している培養器の総称で、庫内で培養を続けたまま受精卵を経時的に観察できる画期的な機器です。従来の培養器だと顕微鏡下での観察なので、その瞬間の顔つきしかわかりませんでした。また、観察するためには受精卵を何度も庫外に出さなければいけない。そうすると温度などが変わってしまうので、培養環境が悪くなってしまいます。

これまでは受精卵の情報を得ようとすればするほど、環境を悪化させてしまうというジレンマがありましたが、タイムラプスインキュベーターが開発されたことでこの悩みが一気に解決したのです。

タイムラプスインキュベーターにもいくつか種類がありますが、選択の際、当院が特にこだわったのは加湿ができるタイプのもの。受精卵を培養する時、乾燥してしまうとたんぱく質や液剤の濃度が微妙に変化して、受精卵によくない影響を与えることがわかっています。そこで、加湿培養を可能とし、受精卵によりやさしい培養環境を提供する機器を選びました。

ほかにも、患者さまごとにガス濃度と温度をコントロールできる個別培養システムであること、万が一、1台のカメラが故障したとしてもほかの患者さまの受精卵の観察には影響がないよう、複数のカメラが搭載されていること。さらに、胚の基準があいまいになりがちな手動ではなく、自動設定による解析ができるAIソフトを搭載しているなど、2018年当時、最新技術がありながら安心・安全も担保できるという理由で導入を決定しました。

受精卵の成長過程がわかれば患者さまも治療に納得できる

現在、当院では顕微授精をされた患者さま全員にタイムラプスインキュベーターを使用しています。

受精卵を観察して3日目まではよかったのに5日目はダメなど、胚の分割が悪い方にはタイムラプスインキュベーターによる経時的な観察が有効なのではないでしょうか。

受精卵が成長する過程を細やかに追っていくことでわかることがいくつかあります。たとえば受精卵の分割にはいくつかステージがあって、男性側のゲノムが関与する段階、女性側のゲノムが関与する段階、お互いが手を取り合って進んで行く段階がありますが、どこまでがよくて、どこからが悪いかによって原因がある程度わかり、それを患者さまにお伝えすることができます。

また、受精卵を個別培養しているので、環境がそれぞれ違うのに全部状態が悪いということはその方自身に問題があるということも。

タイムラプスインキュベーターで受精卵を詳細に観察、培養環境を良好に保つことで胚盤胞到達率の上昇が期待できるのはもちろん、培養器の中で何が起こっているのか、どんな状況なのかを具体的にご説明できるので、患者さまも納得して治療に臨めると思います。

時間に余裕が生まれてラボの作業効率もアップ

タイムラプスインキュベーターを導入して、ラボの作業もかなり効率化されたと思います。これまでは「今日まで」「すぐに」など、ドクターに情報を提供する時間的な束縛があったのですが、この機器は受精卵の状況を録画してくれているので、時間に余裕が生まれます。その間、ほかに急がなくてはならないことを優先できるなど、作業のパズルができるんですね。良好な培養環境の維持に加え、ラボの作業効率も上げてくれるエクセレントインキュベーターは今後、不妊治療専門施設にとって欠かせないものになると思います。

杉山産婦人科/渡邉英明さん(臨床エンブリオロジスト、生殖補助医療胚培養士、体外受精コーディネーター)
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