排卵誘発剤の使用でも卵胞が育たず前に進めません

石原 尚徳 先生(久保みずきレディースクリニック)高知大学医学部卒業後、神戸大学医学部大学院修了。医学博士。兵庫県立成人病センター、兵庫県立こども病院の勤務を経て、2008 年より久保みずきレディースクリニック菅原記念診療所勤務。不妊治療から周産期・小児医療まで、地域に根ざした総合的なサポート体制が整う同クリニックで、不妊治療/婦人科、産科の外来を担当する。
メロンパンさん(35歳)からの相談内服薬やゴナールエフⓇ、フェリングⓇの注射剤を使用しても卵胞が育ちません。注射を毎日しても10mm未満です。漢方薬の柴苓湯も効かず、最近、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)に替わりました。薬剤師さんに「芍薬甘草湯は腹痛によく使われますが、大丈夫ですか」と聞かれました。この処方は何の意味があるのでしょうか? 卵胞が育たず前に進めないのですが、今後、卵胞を育てる治療はありますか?

 

20代からダイエットで身長167cm、体重52kgの相談者さんは薬を飲まないと月経がないそうです。

 

肥満型かやせ型かを示すBMI(体格指数)を計算してみますと、基準値は22で18・5以上25未満が普通体型になりますが、メロンパンさんは18・6とかなりやせ型に近い状態です。体重が急激に減少すると、脳は自分の命を守るために、「いまは妊娠している場合じゃない」と判断します。すると卵巣を刺激するFSHLHなどのホルモン分泌が乱れて、排卵が起こりにくくなります。メロンパンさんの無月経もダイエットが影響している可能性はあります。

BMI18・5未満のやせ型の人が妊娠した場合、2500g未満の低体重で生まれる赤ちゃんの割合が増え、将来、糖尿病や高血圧などの生活習慣病にかかるリスクが高くなります。やせ型の人には妊娠前と妊娠中の体重を適度に増やしてほしいのですが、モデル体型をお手本にする誤ったボディイメージのせいで、「体重を増やす」ことに抵抗を感じる人は少なくありません。昔からいわれている「小さく産んで大きく育てる」は大間違いなんです。赤ちゃんを希望する人は、なるべく標準体重を保って、3000gの健康な赤ちゃんを目指してほしいですね。

これから卵胞を育てるにはどうすればいいでしょうか。

 

まずはバランスのよい食事を心がけて体重を増やす努力をしましょう。メロンパンさんのBMI基準値22は61・3kgですので、約10kgの増量が目安になります。少なくともBMI20(55・8kg)を目安にしてはいかがでしょうか。標準体重に近づくと卵胞が育ってくる可能性はあります。

治療法については、ホルモン値にもよりますが、一般的にはクロミフェンという内服薬を使った低刺激の排卵誘発法からはじめ、これで卵胞が育たないようであれば、FSHやHMGという注射薬で卵巣を直接刺激していきます。お薬の効き目が強くなればなるほど、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群のリスクも高くなりますから、状態に合わせてお薬の量や投与期間を調整する必要があります。

メロンパンさんは、毎日注射をしても卵胞が育たないとあります。たとえば当院の印象では、ゴナールエフⓇの効き目は1週間程度では表れにくく、お薬の量を徐々に増やして2〜3週間かかる場合がほとんどです。体重を増やす努力をしながら、お薬を使って治療されていくのがいいと思います。

 

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