より多く、より質の高い卵子を得るためにできること

不妊と活性酸素の関連をテーマに「より多く、より良い成熟卵を得るための対ミトコンドリア戦略」を発表された島田先生。卵胞の成長や排卵の仕組み、酸化ストレスについてお聞きしました。

 

広島大学大学院 先生 2003年山口大学連合大学院獣医学研究科博士(獣医学) 取得。2004〜2005年アメリカ合衆国Baylor College of  Medicine客員研究員、2006年広島大学大学院生物圏科 学研究科准教授、2017年広島大学大学院生物圏科学研 究科教授を歴任し、2018年から現在まで広島大学生物生 産学部副学部長、2019年から広島大学大学院総合生命科 学研究科教授と研究科長補佐を兼任し、現在に至る。

成熟卵を育てるために必要な2つのポイント

若い方は卵胞刺激ホルモンFSHで卵胞が大きく育ち、数も多いため採卵は1〜2回程度で済むことがほとんどですが、大きさが揃わない、数が採れないという方においては、採卵数を増やすためにFSH製剤を長い期間使い、そのために卵子の質が落ちていくという傾向が見られます。

卵子の質が落ちる理由の一つが、活性酸素の増加。卵胞は、卵巣内の顆粒膜細胞がミトコンドリアの有酸素運動によって細胞分裂し、その数が増えることで成長しますが、同時に活性酸素が発生します。有酸素運動のエネルギーで卵胞を大きくするために酸化ストレスは必ず高まりますが、バランスが崩れて一定量以上に活性酸素が増えると、顆粒膜細胞が消滅していき、その数が多いと卵胞が成長できずに閉鎖したり、間接的に卵子の質が落ちてしまうと考えられます。

黄体形成ホルモンLHが分泌されない早期黄体化もまた、良い成熟卵がつくれない原因。これは、卵子と顆粒膜細胞の状態がシンクロできていない時に起こります。お互いの良い時期を合わせて排卵を促す    CG製剤を用いれば、ちゃんと反応して良い成熟卵に育ちますので、採卵数を増やしたければ卵子と顆粒膜細胞の良い時期を合わせること。そして、 1個1個の卵胞の質を上げるためには酸化ストレスを抑えた状態にしていくこと。この2つが大事なポイントです。

卵胞の成長を妨げる活性酸素の対処法

若い方なら、自分自身の細胞の中で活性酸素を減らす抗酸化因子をつくれますが、代謝異常の方や年齢が高い方などは自分自身では抗酸化因子を十分にはつくれず、酸化ストレスが一定量を超えてしまいます。

通常、体内でつくられている抗酸化因子の中でもっとも有名なグルタチオンは、グルタミン酸とグリシン、システインというアミノ酸からつくられています。これらアミノ酸や酵素などが体内に存在していることが大事で、足りない場合は外部から抗酸化サプリなどでサポートします。

抗酸化サプリと聞いて最初に思いつく代表的なものはポリフェノールだと思いますが、これは分子量が非常に大きく、体内にはほとんど吸収されません。腸内細菌の活性酸素を取り除いて体全体の健康をサポートするという面では良いかもしれませんが、我々がターゲットとしているような卵巣内の卵胞の中の顆粒膜細胞まで届くためには、分子が小さく、なおかつ抗酸化作用がなければなりません。今回の研究で使ったサプリメントはPQQ(ピロロキノリンキノン)で、胃酸に負けずに通過して腸管で吸収され、血流で体内を巡って卵巣に届き、卵胞の中の顆粒膜細胞の中のミトコンドリアへ……というふうに、末端まで届いてくれます。これが重要です。

抗酸化サプリPQQを投与するタイミングはFSH製剤よりも早めに飲み始める必要があります。私達は、マウスを用いて研究を行っているので正確にはわかりませんが、ヒトに当てはめると、当該周期よりも1周期前からの服用に効果が認められると考えられます。当該周期で成熟卵まで育つ卵胞は刺激開始時には直径5    程度まで育っています。ということは、自分自身のFSHによって卵胞が発育している初期段階でも活性酸素が発生し、すでにダメージを受けている場合が多いということ。そこで、刺激前から卵胞の状態を整えておくために1周期前から服用し、FSH製剤で反応する間も飲み続けます。人によってはもっと小さな卵胞の時期の2周期、3周期前からなど、その人それぞれの周期に合わせてサポートすることが、このサプリの役割だと考えています。

生命を育む卵巣と精巣は体全体のセンサー

きちんと細胞分裂し、大きくてきれいな卵胞をつくるために、今回は活性酸素に注目しましたが、これは不妊要因の一例に過ぎません。卵巣や精巣は体全体の異常やストレスを感知しやすく、全体の状態が良ければきちんと機能してくれますが、感染症や肥満、ストレス、基礎疾患などがあればうまく機能してくれません。体を映し出してくれる鏡になっていると感じます。卵巣や精巣の機能が悪いなら、それ以外の体の状態はどうなのか。子どもを無事に産み、育てる健康状態を夫婦ともに整えましょうというのが、治療中のすべてのご夫婦に伝えたいメッセージです。

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