PCOSを正しく知ろう

どういう症状? 治療法はある?

PCOS を正しく知ろう

治療をしていると「PCOS」という言葉、時々耳にしませんか?

現代女性に増えているように聞こえるこの病気について、フェニックスアートクリニックの藤原先生に伺います。

 

院長 藤原 敏博先生 東京大学医学部卒業。山王病院リプロダクション・婦人科内視鏡治療セン ター・センター長、国際医療福祉大学臨床医学研究センター大学院教授、 東京大学医学部附属病院女性診療科・産科講師・周産母子診療部IVFセン ター長を歴任。今年9月に開院したフェニックスアートクリニックの院長 に。都心でありながら、静かな場所に建つクリニックは、シックなヨーロ ピアンインテリアで、患者さんの気持ちがリラックスできるような設計に。

PCOSは最近認知された病気で80 年前から報告がある症状

PCOS は略称で、正しくは多嚢胞性卵巣症候群という病気です。不妊治療を経験されている方なら、この病名を聞いたことがある方も多いかもしれません。確かに不妊治療の現場ではよく聞く病気で、増えてきているように感じるかもしれませんが、本当のところはそのようなことはありません。現在の報告では女性の 5 ~ 8 %に PCOS の症状があると言われています。約 80 年前にこの病気は報告されていますが、日本でよりよく認知されるようになったのがここ最近というだけのことで、決して珍しい病気ではないのです。

さて、この PCOS、原因として、さまざまなことが取り上げられていますが、どれも決め手には欠けているのが現状です。海外の教科書には「肥満・多毛」の人が多いと書かれていますが、アジアにおいては必ずしもこれは当てはまりません。また、遺伝的な要素があるとも言われていますが、決め手になる遺伝子はみつかっていません。このように、要因がはっきりしないと、難病なのでは?

と思われがちですが、実はそのようなことはなく、PCOS は対処法が確立されている病気で、出口がしっかりわかっているのが特徴的、という珍しい病気なのです。

PCOSは 3 つの症状が 揃って確定するもの

PCOS かどうかを判断する基準ですが、少し前、ヨーロッパでは見た目を重視、アメリカではホルモン数値を重視し、見解がバラバラでした。そこでロッテルダムで共通の基準を設ける会議を開き、診断方法を統一することにしました。日本でも2007年に診断基準が新しくなりました。

1 つめは月経異常。学会の定義では生理周 期は 25 ~ 37 日とされていますが、PCOSの場合は 40 日~ 2 、 3 カ月と周期が長くなる傾向があります。

2 つめは、まさに見た目。両卵巣の中の小さい卵胞が数珠状につながった状態で、これをネックレスサインと呼びます。卵胞はぎっしり詰まっているのに、排卵にもっていくことができない、つまり排卵のメカニズムが整っていない状態です。

そして 3 つめは、ホルモン数値。血液中のアンドロゲン(男性ホルモン)高値、もしくは黄体化ホルモン(LH)が卵胞刺激ホルモン(FSH)より高値になっていること。この 3 つの状況が揃って初めて PCOS と診断することにしています。

治療法は段階を追って。 まずは排卵誘発剤から

先ほどお伝えした通り、PCOS は治療方法が確立している(今から 10 年ほど前に日本産科婦人科学会が治療指針を策定し、私もその委員の一人として参加しました)ので、医師は順を追って治療していくことになります。知っておいてもらいたいのは、たとえ妊娠を希望していなくても PCOS は放っておかないほうがいいということです。なぜなら、生理がこない状況を放っておくと、子宮体がんになりやすいからです。定期的に生理を起こして子宮内膜の保護をしておけば将来的な不妊への心配も防げます。

妊娠を望む方で、もし PCOS の特徴のひとつと言われる肥満が認められる場合(BMIが 25 以上)はウエイトコントロールが必要です。私の場合、無理のない範囲で現体重より 5 %落とすことを目標にしてもらっています。

肥満ではない場合のファーストチョイスは、排卵誘発剤(クロミフェン)の服用です。これでたいていの方に排卵が起こると言われています。これでも排卵が起こらない場合は、クロミフェンとメトホルミンという薬を併用します。本来メトホルミンは、糖尿病の治療薬なのですが、PCOS の患者さんは糖尿病の患者さんと同じくインスリンに対する反応性が悪いという特徴があり、 2 種の薬を併用する治療を行います。そのほか、レトロゾールという薬を使うこともあります。なお、メトホルミンとレトロゾールは保険適応とはなりません。

これでも排卵、妊娠に至らない場合は、その 次のステップとして 2 つの選択肢があります。

一つは FSH というペン型の注射剤を自宅で投与してもらいます。低用量で微調整ができるため、その人に必要かつ十分な量を投与できるもので、保険適用ができます。

もう一つは卵巣ドリリング法という腹腔鏡手術です。以前は PCOS で手術をする場合は、開腹手術を行っていましたが、癒着を起こすというデメリットがあり、これが不妊の別の原因になることもありました。現在は、内視鏡が進歩したおかげで、レーザーで 10 ~15 カ所ほど照射して穴をあける手術をすると、排卵が起こることがあります。ただ、どこのクリニックでも行っているものではないので、医師との相談が必要でしょう。

最後は体外受精へ

ここまでの治療で 7 ~ 8 割の方が妊娠されますが、私のクリニックにはそれでも妊娠に至らない方がいらっしゃいます。ご夫婦にほかの不妊原因があるケース、排卵が起こっているのに妊娠しないケース、もしくは注射で排卵のコントロールができない、つまりはどかんと大量に排卵が起こってしまうケースがあり、このような場合は体外受精の適応となります。後者の場合は OHSS(卵巣過剰刺激症候群)に配慮し、繊細なコントロールをしながら卵胞の発育を促します。腰が引けすぎても卵子が採れないので、ここは医師の経験値が必要とされるところでしょう。体外受精の場合は予想以上に多く採卵したとしても凍結できるので、多胎の心配をしなくていいので安心です。

このように治療の一連の流れをお伝えしましたが、PCOS はこれだけの治療の選択肢があるので、必要以上に心配せず治療に励んでほしいと思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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