体外受精をする際、「採卵に向けてどう卵巣を刺激し、卵子を育てていくか」は、妊娠できるか を決める大きなポイントの一つです。

さまざまな方法がありますが、どの刺激法が自分に合う かわからない人も多いと思います。

そこで卵巣刺激法を決める際に大切なことや、それぞれの 特徴についてファティリティクリニック東京の小田原先生に伺ってみました。

これを機にぜひ 卵巣刺激法についての正しい知識を身につけておきましょう。

小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987 年、オーストラリア・ロイヤル ウイメンズホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科大学 産婦人科助手、スズキ病院科長を経て、1996 年恵比寿に開院。

ドクターアドバイス

◆妊娠、出産するのに必要な卵子数を考える
◆年齢や体質などにより選択可能な方法は異なる
◆胚盤胞への到達率が悪い場合は適宜変更を

妊娠、出産をするために いくつ卵子が必要かを考える

体外受精の際、妊娠、出産でき る良質な卵子を多く採卵するため に、薬などを使って卵巣に刺激を 加えて卵子の発育を促します。こ れが「卵巣刺激」です。

日本では「アンタゴニスト法」、 「クロミフェン自然周期法」など、 卵巣を刺激する方法にはいろいろ ありますが、目的は「妊娠、出産 すること」。そのため、どの刺激法 がいいかを検討する前に「何個ぐ らい採卵すると妊娠、出産できる のか」を考えることが大切です。

  多くの人が知っている通り、 35 歳 を過ぎると卵子の染色体異常や老 化による細胞質の異常が増えるの で、卵子 1 個あたりの妊娠率が下 がってきます。そのため、高齢にな ればなるほど妊娠、出産するために はできるだけ多くの卵子が必要に なってくるのです。
  日米の共同研究によると、 35 歳ま では 5 個採卵すると 1 人出産するこ とができるが、 42 歳になると 30 ~ 40 個採卵してやっと 1 人出産できるか どうかという結果が出ています。高 齢になるにともない、 1 人出産する までに多くの卵子が必要になること を覚えておいてください。

卵巣刺激の方法は 大きく分けて3つある

卵巣刺激にはいくつかの方法があ り、得られる卵子数によって「低刺 激法」、「マイルド法」、「卵巣刺激法」 の3つに分けられます。

「低刺激法」には、薬の力を借りずに 卵子を育てる「完全自然周期」、クロ ミフェンやレトロゾールという経口の 排卵誘発剤を服用しながら卵子の発育 や排卵を整える方法などがあります。

マイルド法は、経口の排卵誘発 剤を服用しながら、排卵誘発剤の FSH/ HMG 注射を少量(隔日) プラスすることで、複数個の卵子 を育てる方法です。

卵巣刺激法とは、注射を連日使っ て複数個採卵できるようにする方 法です。

  卵巣刺激法には主に 3 つの方法が あります。アゴニスト製剤の点鼻薬 とFSH/HMG注射を使って自然 排卵を抑えながら、複数の卵子を育 てるのが「ロング法」、「ショート法」 です。点鼻薬を前周期から長く使う のがロング法、採卵周期の生理開始 から使うのがショート法になります。
  ロング法、ショート法ではOHSS (卵巣過剰刺激症候群)を引き起こ す可能性があるため、そのリスクが ある人に適応されるのが、アンタゴニスト法です。月経 3 日目からFS H/ HMG 注射やクロミフェンや レトロゾールの服用で卵子を発育さ せ、ある程度大きくなったら、アン タゴニスト製剤を注射し排卵を抑え ることにより、採卵のタイミングを ちょうどいい時期に調整する最もポ ピュラーな方法といえます。
  どの刺激法にもメリット、デメリッ トがあり、また、同じ年齢でも人によっ て相性のよい刺激法は異なります。

年齢やホルモン値、 薬との相性から刺激法を選択

どの卵巣刺激法が合うかは、ま ず患者さんの年齢によって大きく 異なります。前述したとおり、 35 歳を過ぎると妊娠するまでに多く の卵子が必要になるので、低刺激 よりも高刺激を選択することが望ましいでしょう。
  その他、ホルモン値や卵巣の反応 などをみながら一人ひとりに合った 刺激法を見つけていきます。

期待する成果が出ない時は 刺激法を変えることが重要

前述した方法でそれぞれに合った 刺激法を選択したとしても、必ずし もいい結果が得られないことがあり ます。その場合は同じ方法を続ける のではなく、刺激法を変更すること も考える必要があるでしょう。
  たとえば 10 個採卵して、1つしか 胚盤胞にならない場合は、刺激法が 合っていない可能性があるので、変 更を検討するのがいいでしょう。い ろいろな刺激法にトライできるクリ ニックを選ぶことも、早く妊娠する ための方法の一つといえます。

卵巣刺激の種類とメリット・デメリット

低刺激法

完全周期法

《メリット》
残留卵胞が残りにくい・次周期への薬の影響がない・注射による体への負担が少ない・毎周期採卵できる
《デメリット》
未成熟卵が多くなりやすい・採卵数が基本1個のため妊娠率が低い

クロミフェン 自然周期

《メリット》
残留卵胞が残りにくい・次周期への薬の影響が少ない
《デメリット》
未成熟卵が多くなりやすい・採卵数が少ないため妊娠率が低い・子宮内膜が薄くなりやすい

マイルド法

クロミフェン レトロゾール + HMG

《メリット》
低刺激に比べて採卵数が増える・高刺激に比べて体への負担が少ない・高刺激に比べて残留卵胞が少ない・ 高刺激に比べてOHSSの可能性が低い
《デメリット》
採卵数が高刺激よりも少なめなのでやや妊娠率が低下・子宮内膜が薄くなりやすい(クロミフェン服用の場合)・ 採卵数がクロミフェンに比べてやや少ない(レトロゾール服用の場合)

卵巣刺激法

アンタ ゴニスト法

《メリット》

ショート法、ロング法に比べてOHSSのリスクが低い・ショート法、ロング法に比べて黄体ホルモンが高くなりにく いため、良質な卵子が得られやすい・比較的多くの人に適応できる・複数個採卵できるため妊娠率が高まる

《デメリット》

アンタゴニスト製剤を使用しても稀に早期排卵してしまうことがある・ドクターの経験値によるところが大きく、 それによって結果に影響が出やすい

ショート法

《メリット》

卵巣機能が少し低下し、強い刺激が必要な場合に卵巣が反応して複数個採卵しやすい・複数個採卵できるため妊娠率が高まる

《デメリット》

OHSSになる可能性がある・注射による体の負担が大きい・薬の影響が次周期に残りやすい

ロング法

《メリット》

前周期から薬でコントロールできるため、卵胞が均一に発育しやすい・複数個採卵できるため妊娠率が高まる

《デメリット》

OHSSになる可能性がある・注射による体の負担が大きい・1回の採卵で2周期分の準備が必要なので、スパンが長い

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。