Q 良好な胚を何回移植しても 陰性ばかり続きます
石川 弘伸 先生 1991年滋賀医科大学卒業、同大学院修了。泉大津市立病院副 医長、水口市民病院産婦人科医長、野洲病院産婦人科部長を経て、 2003 年より醍醐渡辺クリニック副院長。
ドクターアドバイス
●2回目の移植以降に子宮内環境が変化し、反復着床不全になっている可能性が。
●ご夫婦の染色体異常、子宮内膜の状態を調べるオプション検査がおすすめです。
にこさん(28歳)からの相談 Q.体外受精のため2回採卵しました。1回目は評価の高い胚盤胞 が1つでき、それを移植しました。陽性でしたが9週目で流産。 調べたところ偶発的な染色体異常だったようです。2回目は評 価の高い胚盤胞が7つ育ちましたが、陰性ばかり。良好といわ れた胚盤胞なのに、何度も陰性って普通ですか? タイミング 法や人工授精も経験しましたが、いつも化学流産でした。不 育症や子宮鏡検査もしましたが、とくに問題なしとのこと。移 植することに対して、自信がどんどん消失しています。
一般的に良好な胚を移植した場合の着床率 を教えてください。
また、にこさんのよう に良好な胚を移植しても陰性が続くのはな ぜでしょうか。
石川先生 当院では 35 歳未満の方にグレー ドの高い胚盤胞を移植した場合の着床率は70 %です。
にこさんは、採卵1回目は胚盤胞が 1 つで きたので新鮮胚移植をされた可能性があり、 2回目は7つの胚盤胞が育っていますので、 凍結融解胚移植と推測します。1回目の移 植ではある程度まで育っていますから、2 回目以降に子宮内膜に何らかの問題が生じ 反復着床不全になった可能性があります。
反復着床不全について教えてください。
石川先生 海外の定義になりますが、 40 歳 未満の方が良好な胚を4個以上かつ3回以 上移植しても妊娠しない場合は、反復着床 不全と考えられます。そのおもな原因は「受 精卵の問題」と「子宮内環境の問題」です。
受精卵の問題では、年齢に関係なく、ご夫 婦のどちらかに「転座」や「逆位」と呼ば れる染色体異常が見つかることがあります。 当院にもこういう方は時々いらっしゃって、 珍しいケースではありません。染色体異常 が見つかった場合は、受精卵の異常や流産 の原因につながる可能性はあるものの、一 方で諦めずに移植を繰り返していくことで、 最終的に元気な赤ちゃんを授かる可能性も 十分あります。ご夫婦の染色体検査をはじめ、 今後は「PGD(着床前診断)」「PGS(着 床前スクリーニング)」などで受精卵の染色 体異常を調べて、正常な受精卵を移植する 方法が有効な手立てになると思います。
次に子宮内環境の問題ですが、にこさんは 子宮奇形の有無、免疫の異常、ホルモンの 異常、血液の固まりやすさを調べる不育症 検査では問題なしとのこと。でしたら、子 宮内膜の着床に適した期間(着床の窓)を調べる「ERA(子宮内膜着床能検査)」、子 宮内膜の細菌の種類と量のバランスを調べ る「EMMA(子宮内マイクロバイオーム 検査)」、不妊症・不育症の原因の一つとされ る慢性子宮内膜炎を調べる「ALICE(感 染性慢性子宮内膜炎検査)」などの検査が有 効かもしれません。
今後の治療についてアドバイスをお願いし ます。
石川先生 すでに何度も移植されています ので、このまま何もせずに移植を繰り返す よりは、先ほどお話しした検査(ご夫婦の 染色体検査、ERA、EMMA、ALICE) を受けられたほうがいいと思います。1回 目の新鮮胚移植と2回目の凍結融解胚移植 では「着床の窓」の開く時期が違っている 可能性があります。たとえば、ERAで個々 の着床時期を特定し、最適なタイミングに 胚移植することで妊娠に至る可能性があり ます。
また、ALICE で着床の妨げにな るとされる子宮内膜炎が確認できれば、お 薬の服用で改善できます。このような新し い検査を受けることで、有効な治療法が見 つかることもありますから、一度検討され てみてはいかがでしょうか。