転勤や転職などで引っ越ししなければならず、現在のク リニックに通えなくなった場合、今ある凍結胚や凍結精 子はどうしたらよい?
ファティリティクリニック東 京の小田原先生に伺いました。
メッセージ
培養液や凍結方法が標準化し、凍 結胚・精子の移送は以前よりやりや すくなっています。まずは遠慮なく、 現在の担当医に相談してみましょ う。引っ越し先の地域に も、理解のあるクリニッ クは必ずあるはず。諦め ないで、最善の治療法を 探ってくださいね。
凍結胚・精子などの移送は、 難しいものなのでしょうか?
一昔前は、クリニックによって培養液や 凍結方法などに若干の違いがあったため、 連携が難しかったのですが、現在では培養 液にも差がなくなり、 15 年ほど前からは凍 結方法も急速ガラス化法(ビトリフィケー ション)が主流になるなど標準化していま す。そのため、 15 年以上前の卵子や精子で ない限りは、移送は難しいことではありま せん。海外から日本へ、日本から海外へ、 といった移送も問題なく行われています。
ちなみに、溶解して使用する胚や精子に とって、凍結方法の違いがなぜ問題になる かというと、保存する容器の違いにあるか ら。以前の容器の扱いに慣れていないと、 大切な胚や精子を傷つけてしまう恐れがあ り、敬遠される場合があるのです。
どのように話を 進めればよいですか
具体的な移送方法、 費用などについて教えてください
ドライシッパーという、いわば魔法瓶の ようなタンク状のケースを貸し出し(有料) しますので、それに入れて移送します。タ ンクの内側に液体窒素を充填するので温度 が保たれますが、周囲のクッション状のも のが吸収するので液体窒素が染み出る心配 はなく、安全に運ぶことができます。
移送としては、ご自分で運ぶ、宅配便などに依頼する、専門業者に依頼すると いった方法があります。電車や飛行機な どの公共交通機関に持ち込むことも許さ れているので、費用面から考えるとご自 分で持って行かれるのがもっとも安価で す。宅配便を利用することもできますが、 何かあった場合の免責や補償などが付い ていないので若干の心配がともないます。 ドライシッパーの扱いに長けた専用の業 者もあります。目安として、専用容器の貸 し出し込みで、東京―大阪間の片道で 15 万 円ほどです。海外への移送では、やはり専 門業者に委託するのが安心かと思います。
クリニックによっては、 移送を断られる場合もありますか
現在ではまれだと思いますが、ないと は言い切れません。万が一大切な胚や精 子が破損してしまった場合は責任問題に なりかねず、またどちらのクリニックに 責任の所在があるのかといった問題にな ることも考えられます。クリニック側も、 できれば患者さんが妊娠されるまで見届 けたいですし、プロセスを把握しておきた いという気持ちもありますから。
しかしながら、絶対的に凍結胚・精子の 所有権をもつのは患者さん側ですから、同 意なしに勝手に廃棄することが許されな いのと同じように、クリニック側の都合で 移送や受け入れを拒否することもあってはなりません。ただし、胚や精子を凍結 した際の覚書などに「移送はできないと」 という一文があり、そういった同意書に サインをしていたとしたら面倒なことに なるかもしれません。過去には裁判になっ たケースもあるようですが、やはりあく までも所有権は患者さん側にあると私は 思います。