自分からではなく、治療を担当している先生から転院をす すめられると「もう見放されたのかも……」と思う人もい るようです。
その真意はどこにあるのでしょうか。
秋山レ ディースクリニックの秋山芳晃先生にお話を伺いました。
患者さんに転院をすすめるのは どんな時ですか?
当院でも患者さんに転院をすすめるこ とがありますが、それにはいくつかのケー スがあります。
1つは、治療や検査中に対処が困難と思 われるトラブルが予測される合併症や既往 症をおもちの場合。たとえば高血圧症や不 整脈、精神疾患などです。てんかんをもっ ている方の場合、子宮卵管造影検査などの 際、痛みの刺激で発作が起こることもゼロ ではありませんから、このような方は「内科 や神経科もある総合病院で不妊治療を受け たほうがいいのでは」とお話ししています。
婦人科疾患においても同様で、5 cm 以 上の大きな子宮筋腫がある方は早産など 妊娠した後にトラブルを起こしやすいの で、手術ができる施設、もしくは産科の 先生がいて出産までフォローできる施設 をご紹介しています。もちろん、手術だ けほかの施設で行って疾患が改善すれ ば、その後、不妊治療は当院で受けるというケースもあります。
それから、ご主人が無精子症で、精巣 内精子採取術(TESE)をした後に顕 微授精という流れの治療が必要と思われ る場合や、通常のやり方ではまったく卵 子が採れない早発卵巣機能不全などの場 合、専門的な技術や方法をもっている施 設への転院をご提案することがあります。
以上のことはどれも、当院よりも専門 的な施設で治療を受けたほうが安心かつ 安全、スムーズに不妊治療を受けていた だけるから、という理由になります。
特殊なケース以外でも提案する ことはあるのでしょうか
患者さんに合うと思われる治療を行って いて、実績があり信頼できる施設名を具体 的に推薦することもあります。
また、原因不明の不妊で治療期間が長 く、精神的に行き詰まっている場合、年 齢が若い方なら治療のお休みを提案しま す。年齢が高い方だと時間がありません から、気持ちを切り替えるという意味で 「どうしましょうか」と、転院も一つの選 択肢としてお話をすることがあります。
投げ出されてしまったように 感じる方もいるのでは?
山子さんは先生から「転院を考えてみて はどうか」といわれ、ショックを受けられ たようですね。確かに、医師側は好意でお 話ししても「見捨てられたみたいで悲しい」 と思う患者さんもいるかもしれません。
環境や心境の変化、同じ治療でも薬の 使い方などが微妙に違ったりするのか、 転院してすぐに妊娠される方もいらっ しゃいます。ですから、転院をすすめる のは「もうどこかへ行って」というネガ ティブなものではなく、「こうしたほうが 妊娠できるかもしれない」という気持ち からだと思います。あらゆる可能性を考 えて患者さんの妊娠を願うのは、どんな先生も同じだと思いますよ。
転院したいけれど先生には 話しづらいという人も
担当の先生に直接言いづらい時は、看 護師や電話で受付事務に伝えてもらって もかまいません。紹介状やこれまでの検 査・治療データも、申し出ていただけれ ばお渡しできます。
転院先にもっていく内容として、ホルモ ン検査のデータ、一般不妊治療を受けて いたのであれば子宮卵管造影の結果、体 外受精であればこれまで行ってきた刺激 方法や採卵数などがわかるといいですね。 それに加え、麻酔に伴うトラブルやOH SS(卵巣過剰刺激症候群)の有無など の記載もあれば参考になると思います。