Q 高血糖の治療と不妊治療。 どちらを優先すればいいの?
渡辺 由美子 先生 兵庫医科大学卒業。同大学附属病院、国立泉北病院、京都大学 医学部附属病院、国立京都病院勤務を経て 醍醐渡辺クリニックで 産婦人科医として勤務。
目次
ドクターアドバイス
●高血糖になると卵子の質の低下や早産・流産、胎児異常のリスクも。
●専門医のもとで血糖値をある程度コントロールしてから不妊治療を。
☆みこ☆さん(38歳)からの相談 Q.7年前から不妊治療をしても授からず、3年間お休みして 38歳で再開しました。でも再開した時期が遅かったのか、 AMHが0.26ng/mlと低く、内服薬と注射1回で刺激し ましたが卵胞が育たず。先生からは「今回はこれ以上やっ てもお金と時間が無駄になるから」と刺激と採卵が中止に なりました。その後、血液検査をしたら血糖値が高く、「血 糖値を下げなければ同じ結果になるので、専門医のもとで 治療をして正常になってからおいで」と言われました。私 には時間がないと焦っています。転院して血糖値の治療と 並行して不妊治療をしたほうがいいのか、それとも今の先 生を信じて血糖値の治療に専念するべきか。自分には何が ベストなのか決められずにいます。
AMH(抗ミュラー管ホルモン)について 教えてください。
渡辺先生 女性は生まれた時から卵巣の中に、数百万個の原始卵胞をもっています。その数は個人差があり、生まれつき多い方もいれば、少ない方もいます。すべての女性は年齢とともに卵子数が減少していき、途中で増えたりすることはありません。
AMHは、卵巣の中にある残りの卵子数を示していて、卵巣の予備能の指標になるといわれています。つまり卵巣があとどのくらい働いてくれるのか、卵子がどのくらい残っているのかを推測する目安になります。卵子数が多ければAMH値は高くなりますし、卵子数が少なくなるとAMH値は低くなっていきます。また、卵巣腫瘍などで卵巣の一部を切除した方やチョコレート嚢胞がたくさんある方も低くなることがあります。AMH値が低下する一番の要因は年齢ですので、日常のストレスや生活習慣が影響することはないと思います。
血糖値が高いと妊娠にどのような影響があ りますか?
また「専門病院で血糖値の治療 を終えてから不妊治療を行う」「並行して不 妊治療を行う」どちらがいいでしょうか。
渡辺先生 血糖値が高くなると質のいい卵子になりにくくなったり、流産・早産の原因になる可能性があります。また、妊娠中に血糖値がコントロールできていないと、胎児の形態異常や巨大児(体重異常の赤ちゃん)になるリスクもあります。
血糖値が高くなる要因のひとつに体重増加 があります。すべての方が当てはまるわけではありませんが、急激な体重増加が起きていれば、食生活など生活習慣が影響している2 型糖尿病の可能性が考えられます。BMI(体格指数)が高くなると、排卵障害も起こりやすくなります。
血糖値の程度によりますが、専門病院で血糖値をある程度コントロールされてから、そのうえで不妊治療を並行されるのが望ましいと思います。当院では血糖値が高い患者さんに専門病院をご紹介する場合、「専門病院の先生に妊娠を止められている時は、
血糖値の治療に専念してもらい、妊娠の許可を得られたら不妊治療を始めましょう」 とお話ししています。
最後にアドバイスをお願いします。
渡辺先生 年齢的に焦るお気持ちはわかりますが、血糖値のコントロールができないまま治療を続けても、これまでと同じ結果を繰り返す可能性があります。さらに妊娠できたとしても、先ほどお話ししたように赤ちゃん に大きな負担がかかってしまいます。
AMH値については、一般的な 38 歳の方 の目安は 1.9ng/ml ですが、この方は 0 ・ 26ng/ml と低めですので、卵子が減り気味と 思われます。まずは専門病院で血糖値をある程度コントロールしていただいて、不妊治療できる段階になったら早めの体外受精をおすすめします。