同じ結果を繰り返さないよう チームでミーティングを重ね オーダーメードの培養法を追究。
チーム医療を支えるプロフェッショナルの一人として、 特に体外受精の分野には欠かせない培養士。
その活 動についてレディースクリニック北浜の奥裕嗣先生 と培養士の今井和美さんにお話を聞きました。
チーム医療は欠かせない
テーラーメード治療をモットーにしている当 院では、医師をはじめ、優秀な培養士、看護師 らによるチーム医療が欠かせません。なかでも 体外受精における培養士の役割はとても重要で す。体外受精の妊娠率には、医師が患者さん一 人ひとりにカスタマイズする排卵誘発法、採 卵や胚移植の技術のほか、ラボ環境のクオリ ティー、培養士のテクニックが大きく貢献して います。日本では培養士は裏方の存在ですが、 海外では体外受精のパイオニアであるロバー ト・G・エドワーズ先生など、生殖医療の分野 で世界的に有名な方の多くが培養士です。
私は3年間アメリカで培養技術を学んだ経験 から、培養士とのフラットなコミュニケーショ ンを大切にしています。たとえば、留学先の施 設で行われていた「ブラッドミーティング(体 外受精の時に毎日の採血と卵胞データを参考に 注射量を決定する会議)」を参考にし、特に体 外受精の妊娠判定がマイナスの人については、 週1回、培養士の意見を取り入れて治療の見直 しを行っています。
また、スキルとキャリア向上のため、ラボの 研究にも力を入れ、その成果を学会で発表する 機会も設けています。何よりも培養士として大 きな仕事をしているという誇りとやりがいを もって活躍してもらうことが、患者さんの妊娠 率向上につながっていくと考えています。
Q1.培養士になったきっかけを 教えてください。
臨床検査技師として各分野を極めていく 過程で生殖分野に興味をもち、前勤務先で 一から培養士の勉強をしました。最近は半 数の人が大学で専門的に学びますが、当初 は検査技師から培養士になる人がほとんど でした。
もともと微生物を観察するのが好きで、 細胞の中で一番大きい卵子をはじめて見た 時は感動しました。毎日観察していても、 子どもの成長を見ているようで飽きること はありません(笑)。冷静さが求められる仕 事ですが、受精卵がきれいに分割してくれ ると「この子、かわいいね」なんてほかの スタッフと話すこともあります。また、な かなか結果が出なかった人の受精卵がうま く成長した時はやはりうれしいですね
Q2.お仕事の中で心がけている ことなどありますか?
特に体外受精を繰り返している患者さんに 対しては、スタッフが意見を出し合って方法 の見直しを行い、同じ結果を繰り返さないよ うに心がけています。たとえば、当院では3 種類の培養液を使い分けています。そこでそ れぞれの受精卵にもっとも相性のいい培養液 を探し出すことも重要な役割です。
さらに近年、ラボ全体で力を入れているの がタイムラプスによる独自データの収集・研 究です。タイムラプススコアをもとに胚移植 あたりの妊娠率や妊娠継続率、流産率を検討 していくなかで、妊娠継続が可能な胚のセレ クションにつながる新しい発見があります。 さらにこれを深く掘りさげて妊娠率の向上に つなげたいと思います。
Q3.培養士さんは受精卵で 男の子と女の子を 見分けられるのですか?
私たちにもまったくわかりません(笑)。卵 子はもともと女の子になるX染色体でできて いますが、精子には女の子になる「X精子」 と男の子になる「Y精子」があり、どちらの 精子が入るかによって性別が決まります。顕 微授精の時は、一番いい精子を優先しますの で、もちろん精子を選ぶことはできませんし、 今のところ確実に見分ける方法もありません。 ちなみに受精を行う時が一番緊張します。絶 対に失敗できませんから、全神経を集中して 実施しています。