子宮に異常があると着床がうまくいかない?
子宮に問題があると受精卵の着床に影響があるので し ょ う か 。
ト ラ ブ ル が あ っ た 場 合 、そ の 治 療 を 優 先 さ せ る の か 、そ れ と も 妊 娠 が 先 な の か 、仙 台 A R T ク リ ニックの吉田仁秋先生に伺いました。
ドクターアドバイス
〜思い悩むより早めの検査を~
自覚症状がほとんどないケースもあるので、不妊治療 で病院に来て初めて子宮の疾患がわかったという人も います。早期発見が不妊を防ぐことにもなるので、生 理痛やお腹の張りなど少しでも変化があれば早めに婦 人科を受診し、検査だけでも受けるようにしましょう。
35 歳以上なら子宮内膜症より 妊娠するための治療を優先
当院で診ている限り、子宮因子の原因 で多いのは子宮内膜症と子宮筋腫、それ から子宮内膜ポリープも少なくありませ ん。これらは高齢の人に限る疾患ではあ りませんが、年齢とともに病状が悪化し てきている傾向はあるようです。
日本人女性の 10 人に1人が子宮内膜 症で悩んでいるといわれます。これは 命にかかわるような悪性の病気ではあ りませんが、受精から着床まで、妊娠 のすべての工程に弊害を及ぼします。 進行してくると排卵がうまくいかない、 卵胞が育たない、卵管の機能が低下し てしまったり。そのために受精さえ妨げられてしまうことも。
子宮内膜症は子宮内腔以外の場所に子 宮内膜が増殖してしまう病気ですが、そ のうちもっともやっかいなのが卵巣にで きる卵巣チョコレート囊胞です。卵巣に できるということは卵管にも影響を及ぼ し、炎症を起こして周囲の臓器に癒着し てしまう。卵巣も卵管も機能が低下して 妊娠が難しくなってしまいます。また、 卵巣チョコレート囊胞の人は採卵の時に も注意が必要です。炎症を起こしている 所に針を刺すという刺激でより悪化して しまう危険が。ですから、採卵は抗菌薬 の点滴をしながら行っていきます。
子宮内膜症があっても妊娠することは 可能ですが、なるべく早めに治療をする ことが大切。この病気のステージ分類では初期の段階であるⅠ、Ⅱならまだ大 きな問題はありません。そのまま放って おいてⅢ、Ⅳと進行していくと、症状が つらくなるだけでなく、妊娠もしづらく なってしまいます。
治療に関して、どの方法をとるかはそ の方の年齢によって異なってきます。ま だ若い方だったら、薬物療法や手術など 子宮内膜症の治療を優先させることもあ ります。子宮内膜症は女性ホルモンにさ らされることによって悪化する病気で す。薬物による治療は妊娠しないように 仕向けていくため、高齢で早く妊娠を望 む方にとってはこの方法を選択すること は厳しいかもしれません。
卵巣チョコレート囊胞は囊胞が5 cm 以 上の場合に手術の適応になります。しかし手術をすると卵巣機能が多少下がって しまいます。年齢が高い方だったら囊胞 を全部切除せず腫瘍部分を取って、中身 を抜き、あとはアルコールで固定すると いう方法も。これなら卵巣の機能低下を 抑えられます。
ただし、手術をしても早い場合は3 カ月程度で再発してしまうことも。が ん化が疑われるなど病状が深刻でない ようなら、 35 歳を過ぎている方は妊娠 するための治療を優先したほうがいい かもしれません。
着床部位にできた子宮筋腫や ポリープは早めに切除を
子宮筋腫は子宮の筋層から発生する良 性の腫瘍です。治療の順番や選択は、ど の部位にできたかによって変わるでしょう。子宮の外側に向かって大きくなる漿 膜下筋腫なら受精卵の着床などにそれほ ど影響はありません。子宮の内膜に接し ているような場所にできた粘膜下筋腫で は受精卵の着床を妨げますから、不妊治 療より先に切除することが優先されます。
子宮内膜ポリープも同様で、着床部位 に1 cm 以上のものがあると受精卵が着床 しにくいので、早めに治療をします。粘 膜下子宮筋腫も子宮内膜ポリープも外来 で受けられる子宮鏡で治療することがで きます。体への負担は少なく、その後、 すぐに不妊治療を始めることができます。
子宮内の乳酸菌を優勢にして 妊娠・着床しやすい環境に
子宮に関する検査や治療では、最近、 ERA検査と子宮内フローラが注目されています。ERAは子宮内膜着床能検査 といって、移植当日の子宮内膜が着床 に適しているか、内膜組織の遺伝子解析 をして調べる検査で、何回か受精卵を戻 しても妊娠しない反復不成功の方におす すめしています。移植日のズレを正せば 妊娠率が上がるというデータもあります が、費用が高額なのが難点です。
子宮内フローラは、本来、子宮内は悪 い菌から環境を守るために善玉菌(乳酸 菌)が優勢でなければいけないのですが、 これが減少して悪い菌に感染し、妊娠や 着床を妨げているということに着目。子 宮内の組織を少し採って、よくない環境 だったら腟剤や飲み薬で乳酸菌が優勢な 状態に戻します。腸内と同じように、子 宮内においても乳酸菌フローラの研究が 進んでいます。類似した組織が骨盤内の臓器(卵巣、卵管、ダグラス窩など)で増 殖し、出血したり炎症を起こしたりする。
子宮因子の種類
子宮内膜症→
子宮内膜に類似した組織が骨盤内の臓器(卵巣、卵管、ダグラス窩など)で増 殖し、出血したり炎症を起こしたりする。
子宮筋腫→
子宮壁(子宮平滑筋)にできる良性の腫瘍。漿膜下筋腫は子宮の外側に向かっ て成長するため、大きくなると卵管などを圧迫する可能性があり、不妊の原因とな る。筋層内筋腫もまた大きくなると子宮腔を変形させ、受精卵の着床を妨げる。
チョコレート囊胞→
卵巣にできた子宮内膜症により、剝離した内膜組織や血液が卵巣内にたまってで きる袋状のもの(囊胞)。
子宮奇形→
本来の子宮の形ではなく、中隔子宮や重複子宮等の着床障害となるものもある。